解っちゃいるけど、辛いのよ

 ロータス72 のセオリーを取り入れたくても、やり辛いチームもあった。特に水平対抗12気筒は幅が広くて、

そうでなくとも、エンジンの脇に隙間など無かった。フェラーリがやった方法は、ラジエーターを縦に配置し、

かつ、前後に振り分けて計4つのユニットとした。フェラーリ312Tである。

ただし、苦し紛れに4つとも前輪と後輪の間に配置している。エンジンが大きくて重量が後に偏ったからこそ

可能となった苦肉の策であろう。後で調べた文献によれば、後の二枚はオイル・クーラーで、前に配置された

二枚ラジエーターなのだそうだ。ニキ・ラウダの弁によれば、同じ断面積の車体ならば断面形状が台形より

長方形のほうが高さ方向を薄く作り込む事が出来るし、更にラジエーターを後に押しやると、それ以前の部分

を細身にしてやらないと空気の吸入効率が下がるので、台形ほどでないにせよ、サイド・ポンツーンの背丈が

高くなる。その分だけ重心位置が高くなってしまうので、312Tは考えられたレイアウトなのだそうだが、

正直に言えば、筆者は好きではない。写真では見辛いが、ノーズ・カウル(11と書いてある個所)と前輪の間に

開口部が有り、そこから吸い込んでラジエーターをすり抜けた空気を側面に排出する。後のオイル・クーラーは

側面から吸い込んで、内側(エンジン側)に排出するらしい。1999年のルマンで優勝したBMW V12 LMR

も同じラジエーター配置となっている。

 

 4分割はしたものの、二枚ずつ重ねて重心位置に押し込んだのは前出のティレルP34である。

これに至っては、本当に冷却したのだろうかと疑問になってしまうが、前輪が4つもあるお陰で吸入孔を用意

出来なかったのだろう。こちらには文献資料が無い。しかし模型の配管を、ためつすがめつ眺めると、どうも

内側の二枚がオイル・クーラーのように見受けられる。ヨー慣性モーメントの低減に、すべてを託した気持ち

が解らぬでもない。

 (Fulcrum 著)