我を見よ!哲学はここにある。
「カモノハシ」と揶揄され、「醜いアヒルの子」と笑われた、あの独特のスタイルを現在の目で見直すと、まったく見所が無い
とは言い切れない。
サイド・スカートと地上の隙間が大きいところを見ると、当時の鬼グルマに比べて、サスは柔らかいのではあるまいか。
とすれば、幾らかでも人間に近い存在となる。でなければ、ザンドフルートではジル・ビルヌーブと言えども、左後タイヤが
もげても3輪のみで走り続ける事は出来なかっただろう。
ウィング・カーにおける技術上の問題は、ポーポイズと言われるピッチング現象である。これの対策のために、サスを
硬くせざるを得なかったが、フェラーリでは空力の問題は空力で解決しようと試みたふしがある。フロント・サスを覆う鰭の
ような部分は、今日の戦闘機に見る LEX に変るものではないだろうか。又、フロント・ウィングを支えているノーズ・コーン
にある括れはなんとも気分が悪い。しかし見方によっては現在の大型船舶に採用されている球形船首のようでもある。
フォルギレーリが、意図してそれをデザインに盛り込んだかどうかは定かではないが、312T4の特異な形状は、トリノに
あるピニンファリーナの風洞で決められたと言うから、興味が尽きない。
造波抵抗とは、流体中を運動する物体が波をつくることによって受ける抵抗の事を指す。船の波や遷音速・超音速で
飛行する物体の衝撃波によるものなどがある。遷音速に至らずとも 300 km/h を境に、開空間における空気が圧縮される
現象が起きるから、F1は非圧縮性流体と圧縮性流体の境界付近の速度で走っているのである。とすると、あながち造波
抵抗も無視できなくなるのかもしれない。
(Fulcrum 著)