ホイル・アライメント

 舵を切って旋回した後に舵が中央に戻る仕組みは、単純にして実に巧妙である。これは前輪の取り付け部に

若干の角度を付けておけば事足りる。その角度の事をホイル・アライメントと呼んでいる。

 ホイル・アライメントには、キャスタートー・イン(トー・アウト)、ポジィティブ・キャンバー

(ネガティブ・キャンバー)という三因子ある。これらは、すべての4輪車に当てはまる事で、多かれ少なかれ

ホイル・アライメントを意図的に設定している。

 上図に示す通り、タイヤは傾けた時に、そちらの方へ軌道が逸れる性質を利用して、左右のタイヤで力を

相殺する事で直進性を確保するのが、トー・イン(トー・アウト)及び、ポジィティブ・キャンバー

(ネガティブ・キャンバー)である。

 よく「縁石にタイヤを当てるな!」と言うのは、タイヤを横殴りにぶつけると、そのタイヤのアライメントが

狂うので、ハンドルから手を放すとクルマの進路が逸れていく。そのため、絶えずハンドルを弱く切りながら

走らないと直進しなくなる。こうなると運転し辛くて叶わない。その際、傍から見るとクルマが斜めに進むので

素人目にも「ありゃ、オカシイな」ということになるし、とても危険である。

 設計の立場から言えば、トー・インを入れる場合はポジィティブ・キャンバーとし、トー・アウトの場合は、

ネガティブ・キャンバーとする事で、アライメントによるクセを相殺する。F1の場合は、旋回時の強い遠心力

に対応すべくネガティブ・キャンバー 注)にするので、当然トー・アウトである。

 なお、トー・イン(トー・アウト)及びポジィティブ・キャンバー(ネガティブ・キャンバー)が強いと

直進性の「座り」は良くなるが、俊敏な旋回性を損なうので、レーシング・カーは一般車に比べてアライメント

が小さい。従って、市販のスポーツ・カーであっても乗用車に比べれば運転が難しい。

 

 キャスターというのは、ハンドルから手を放した時に、舵が中央に戻る復元性を追及したものである。

自転車には上図の如く、ハンドルに角度が付いている。そしてフレームの延長線が地面と交わる点が、タイヤの

接地点よりも前に位置するために、ハンドルから手を放すと舵が中央に戻る。これと同じように、4輪車でも

車軸を支える部品(アップライト、もしくはナックル・アームと呼ぶ部品)に角度を持たせてある。そのため、

ハンドルから手を放すと舵が中央に戻る。

(Fulcrum 著)

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注)2001年以降、ブリヂストン・タイヤ(以降BSと表記)の他にミシュラン・タイヤ(以降MIと表記)も

  F1に参戦している。レース解説では「BSは寿命の前半で本領を発揮するため新品を好み、MIは寿命の

  後半で性能が向上するのでプラクティスで使い込んだ中古を好む」と説明されるが、他にも大きな相違が

  有りそうだ。

      キャンバー・スラスト効果(旋回時に車体がロールした場合に、外側の車輪におけるコーナリング・

    パワーが向上する効果)による旋回性能の向上を目論んで設計しているBSは、タイヤ・ユーザーに

    2〜3゜のキャンバー角をつけたセッティングを求めている。故にBSタイヤは内側から先に磨耗する

    傾向がある。

    対するMIタイヤは外側から先に磨耗する傾向がある。これはMIがキャンバー角を0゜にして

  接地面積を稼ぎ、グリップを確保する設計思想だからだと推察される。

      2003年頃にイチャモンがついたのと、2004年以降、1レース/1セットに制限された後は、設計思想も

  変ったらしい。それ以後は両者に見た目の違いは少ないが、よくトラブルを起こすのはMIタイヤである。

 

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