エルメート・パスコアルの世界 ライブレポートのおまけ 2004
最終更新日 2004年11月14日



おのぼりさん東京観光日記2004

2004年11月6日、エルメート・パスコアルが3度目の来日を果たし、まずは東京でライブを行ったのですが、大阪から夜行バスで駆けつけたぼくは、早朝から夕方にかけて時間をもてあまし、ぷらぷらと気の向くままに東京の街を歩き回ったのでした。以下はそのときの観光日記です。





プロローグ〜大阪〜夜行バス

エルメート・パスコアルの2年ぶりの来日公演が決定! 場所は東京、代官山UNIT。これは何としても行かねばなりませんぞ。掲示板に書き込んで教えてくださった方に深謝。サイト作ってよかったなあ。チケットの予約したり交通機関を調べたりして、ワクワクしながらその日の迫ってくるのを待った。

ところが、パスコアルライブの大事な日だったことをコロッと忘れて、うっかり6日にライブの予定を入れてしまった。あっちゃあ、まさかのダブルブッキング。あほですわ。バンドのメンバーには平謝りで、今回だけはトラのベースさんに代わりにやっていただいたが、ホンマに申し訳なかった。すんません、反省してます。

色々と準備をしていると、京都でもパスコアル公演があるとの情報が入ってきた。こちらは無理なくいけるな。東京公演を見逃すと次いつ来日するか分からないということでライブをサボらせてもらったのに、これはちょっと顰蹙。でも、もうトラの方にもお願いしていることだし、この際だから来日公演はコンプリートさせていただきましょう。

お金も無いことなので、なるべく安くということで、行き帰りは夜行バスに決定。しかし東京で歩く気まんまんだったのと、翌日の京都公演も見る予定だったので、睡眠だけはちゃんと取れるようにと、座席が3列のリッチなバスにした。これで往復1万7千円ほど。チケットの6,000円x2と雑費も含めて35,000円以内で全てを収めることができるかどうかというところ。iPodを買うために積み立てていたお金を、今回のパスコアルライブでほとんど使うことになってしまった。

旅にBGMはつきものなわけだけど、残念ながらもちろんiPodは無し。MDがもう寿命で調子が悪いので、この春からMP3プレイヤーを使用しているが、容量が256Mしかないので、今回もっていけるのはせいぜいアルバム4枚分。バスや街中で繰り返し聴くことになるので厳選せねばならない。迷った末、バルトークの弦楽四重奏全集(2枚組)、ケニー・ホイーラーのエンジェルソング、武満徹のピアノ曲集にした。どれも好きで良く聴くアルバムばかりなのに加え、バルトークはいつか弦カルを書きたいと思って勉強してるから、エンジェルソングは参加しているビル・フリゼールのギターのムードをシンセで再現できないか研究中だから、武満は「リタニ」をピアノで練習中だから、ということで選んだ。我ながら勉強熱心なことだ。まあ繰り返し聴くことが前提だとどうしてもそうなってしまう。

ぼくは毎年冬になると必ず風邪をひく体質なのだが、今年も既にしっかりと風邪をひいてしまっていた。一度風邪をひくと、春になるまで直らないんだよなあ。出発の数日前から、なるべく早めに就寝するように心がけ、体調管理に努めたが、それでもぼくの風邪は治ったりするものではない。ライブ中、咳をしたり鼻水をすすったりしたくないので、効き目の強そうな風邪薬を購入しておいた。

11月5日、金曜日、仕事を終え、風呂に入ってさっぱり。用意するのはMP3プレイヤーと小型のデジカメとチケットくらい。ポケットに全部収まってしまう。あとはコートにマフラーをして、手ぶらで家を出た。阪急電車で豊中から梅田へ。

梅田に着いて、まずは地下街のコンビニで飲み物を探していると、ペットボトルで焼酎のウーロン茶割りなどというものを見つけた。最近は便利なものが売っているのね。それだけ買って、大阪駅前の長距離バス乗り場へ。かなり大勢の人で賑わっている。やがてバスが入ってきた。夜行バスだからドリーム号か。なるほど。

ぼくの席は、2階窓際の階段のすぐ後ろ側だった。夜景を見たかったのだが、バスが出発すると間もなく消灯。カーテンを開けるのも憚られるし、他にすることが無いので買ってきた焼酎を口に含むと、ゲェッ、不味い。水っぽい。ホントにこれ焼酎入っているの? 失敗したなあ。もうこんなの買わないぞ。一見ゆったりして見えた座席も、実際に横になってみると狭苦しく窮屈だ。おまけに2階席だからか結構揺れる。時間が早いせいもあり、目を閉じても一向に眠くならない。こりゃ予想してたよりも大変だ。

しばらくすると、バスがのろのろ徐行を始めた。京都から大津にかけてのあたり。こんな深夜に渋滞か。カーテンの隙間から外の様子を伺うが、真っ暗な林とガードレールしか見えず、どんな状況なのかさっぱり分からない。寝たいのに眠れず、だんだんその思いがジリジリとした焦りに変わってくる。しばらく悶々と過ごしたのち、滋賀の多賀サービスエリアに到着したので、いったんバスを降りた。空になったペットボトルを捨て、売店でアルコールを探すが、当然あるわけがない。ええい、酒はないのか、酒は。高速のサービスエリアで酒を扱うのは問題があるのはわかるけどさ。憮然としてバスに戻る。

横になるがやはり眠れない。さまざまな思いが頭をよぎる。先月23日に起きた新潟県中越地震で、現地では未だに自動車で寝泊りする人が大勢いるということだ。この程度の苦しさなど比ではないのだろうと、しみじみ思った。わが身に似たようなことが起こってみなければ、苦しみはなかなか伝わらないものだ。

やがて朝になり目が覚めた。ちょっとくらいは眠れたようだが、夜中に何度も目を覚まし、なんともスッキリしない。カーテンの隙間から外を見ると、どんよりとした天気。空模様もスッキリしない。まだ寝ている人もいるので、控えめにカーテンを開け、ぼんやりと景色を眺める。どうやら神奈川の真ん中あたりらしい。

東京に近づくにつれ、バスのスピードは落ち始め、世田谷に入ったあたりで運転手からモーニングコールと共に、渋滞のため予定よりも到着が遅れそうだとのアナウンス。車内灯も点いたので、おおっぴらにカーテンを開けた。あちこちから「遅れるよ」などと携帯電話で話す声が聞こえてくるが、外の景色がゆっくり眺められるので個人的には不満はない。2階席なので、高速の側壁の上から町の様子が丸見えだ。高速沿いというのは場所柄もそれほど良くないんだろうが、とにかく町の汚いところばかりが目に付いた。

渋谷の辺りにさしかかると、いよいよ本格的な渋滞につかまり、バスは一向に進まない。相変わらずのどんよりした天気で、新宿周辺の高層ビル群も、霞んでほとんど見えなくなってしまっている。まあ、ええやないか。美しくはないながらも車窓から見える景色を堪能できたせいか、パスコアルのライブと東京観光への期待で胸も膨らみ、昨晩眠れなかったにもかかわらず、だんだん元気が出てきた。やがてバスは高速を降り、静かなビジネス街へと滑り込む。中ノ島みたいだなあ。間もなく東京駅が見えてきた。



東京駅〜築地〜日比谷公園


8時15分、予定より1時間遅れで東京駅に到着。ふう、疲れた。バスから降りたは良いが、それこそ右も左も分からない。とりあえずトイレを探すついでに東京駅構内の地下街へ入り、道案内に従って銀座の方へと歩いてゆく。地上に出るとすぐそばに八重洲ブックセンター。そこからは南に向かってビルの谷間をジグザグ練り歩く。おっと赤信号。車はないが、こちらのひとは律儀に信号が青になるのを待っているぞ。ここが大阪なら気にせず渡るところだが、郷に入りてはというやつで、一応ぼくも待つ。…イライラ。う〜ん、やっぱり俺は大阪人だ。

土曜の朝早くだからか、人も車もまばらで静かな銀座を横切ってゆく。ブランドの店などが軒を連ねるが、そういうのは興味ないので横目でチラと見るだけでスルー。ティファニーの下を通ったときだけはパンを齧りたくなったけど。歌舞伎座の前を過ぎ、なおも南に進むと、モスクのような不思議な建物のてっぺんが見えてきた。築地本願寺だ。あれは何様式というのかな。インド風? 興味はあるものの、まずは腹ごしらえということで、築地市場へと急ぐ。

今回の東京観光の第一の目的は、築地で新鮮な海鮮丼を食べることなのでした。場外市場を覗くと、あるわあるわ、マグロ丼などを食べさせる店がズラリ。魚屋はもちろん、揚げ物を売る店や乾物屋など、さまざまな店がひしめいていて、どこもえらい盛況だ。目移りしますなあ。ここら辺は一般客向けの商店なのだが、ここまで来たからには卸売業者向けの市場内部も見学しないわけにはいくまい。巨大な築地市場場内へと足を向ける。

市場の門を抜けると、フォークリフトに似た小型の車が縦横無尽に駆け巡っている。驚いたことに、人がそばを歩いていてもよけないしブレーキも踏まない。危険だ。ぼんやりしてると怪我するぞ。外の場外市場とは比べ物にならない活気。いや、活気というより殺気と言うべきか。とにかく中で働いている人たちの邪魔にならないよう気をつけ、ハラハラしつつ巨大な場内へ踏み込んだ。

築地市場 場内 こんな光景が延々と続く 築地市場 場内外周 活気がある

中心部には、小さな商店がビッシリと並んでいる。奥の方を見渡すと、ゆったりとした弧を描きながら、扇状に商店の数々が延々と続いており、果てが見えない。歩いても歩いても同じ光景。後ろを振り返っても目に映る景色に変化がないため、いったいどのくらい進んだのか分からなくなってしまう。まるで合わせ鏡の中に放り込まれたかのようだ。

荷物を持った人がやっとすれ違えるくらいの道幅なのに、例のフォークリフトに似た車が入り込んでウネウネ走っている。乱暴だなあ。店先には見たこともないような珍しい魚がたくさんならんでいる。魚の値段はよく知らないが、やっぱり安いようである。ちょっと欲しくなるが、まさかライブハウスに鮮魚をぶら下げて行くわけにもいかない。買い物はまた別の機会にしましょう。

不思議でならなかったのは、カメラをぶら下げた白人観光客がかなりの数まぎれていたことだ。アメリカ人っぽい感じがしたけど、向こうでは築地みたいな施設は珍しいのだろうか。あれだけいたところを見ると、観光ガイドに築地が載っているのだろうけど、よく分からんなあ。

ようやく市場の端まで辿りついた。なんて大きい市場なんだろう。こんどは外周を歩くが、こっちはこっちでフォークや荷物を載せた台車などでごった返している。しかしよく見ると、あちこちで弁当を食べている人がいる。これほどの喧騒なのに、ピークは過ぎてしまっているらしい。まあ、到着した時間も遅かったしな。これでピークの時にはどれほどの騒ぎになるのか、考えると恐ろしい。

場内をさまよっていると、アーケードの外側に飲食店の連なる一角があった。いくつか行列の出来ている店があるので見るとどれも寿司屋だ。そりゃこんなところで新鮮なネタを握れば美味いだろう。グルメ情報誌を片手に並んでいる人が多い。有名なスポットらしいな。寿司屋だけでなく、洋食屋やラーメン屋、吉野家まである。狂牛病の影響でアメリカからの牛肉の輸入がストップしており、吉野家のメニューから牛丼が消えて久しいが、この築地店だけは現在も牛丼の販売をつづけていると新聞で読んだことがある。どうして築地店だけなんだ?

なにぶん築地は初心者だし、こんなところにわざわざ並ぶこともないだろうということで、外に出て、場外市場の方でマグロ丼の店を探す。市場の中の奥まったところに、ちょうど客席の開いた店があったので、すかさず入り、三種丼なるものを注文。マグロとウニとイクラが入って、しじみの味噌汁もつけて1000円なり。早速がっつくと、ひやぁ、これは美味い! マグロもウニもイクラもとろけるとろける。なんと飯の方が先になくなってしまった。残った具を掻っ込むと、口の中でしゅっと溶けてなくなっちゃった。なんだか目の前にどんぶりが出されてから食い終わるまで一瞬の出来事だったなあ。ああ余は満足じゃ。しじみの味噌汁も美味しゅうございました。太宰の短編で、しじみ汁のしじみをほじって食ったら東京者に白い目で見られたというのがあったのを思い出したので、おつゆをいただくだけにしておきました。

おなかも膨れたところでまた銀座の方へテクテク。体もあったまり、少々暑くなってきたのでマフラーを取って、コートも脱ぐ。次なる目的地は皇居である。大きな車道沿いはつまらないので、銀座の街中をまたジグザグ。卸売市場から歩いていけるところで料亭街が発達しているのは合理的だよなあ。メインストリートからちょいと横道に入ると、そこは古きよき高度経済成長時代の名残のある古ぼけた雑居ビル群。今の時間帯は薄汚れて白々として見えるが、夜になると華やかに息を吹き返すのでしょう。

銀座を抜け、高速道路をくぐると、東京電力やみずほ銀行の巨大なビルがならぶビジネス街。もちろん土曜だけあって人はおらず寒々としている。この辺は、今朝バスの車窓からも見たが、やっぱり中ノ島あたりと似たような雰囲気だなあ。静まり返ったビルの谷間を突っ切ると、眼前に大きな公園が見えて来た。日比谷公園だ。

日比谷公園の入り口に簡単な地図があり、中を通って皇居の入り口の方へいけることを確認。早速公園内に入ると、すぐ左手に古びた洋風建築の日比谷公会堂があり、その階段に学生風の人たちが大勢座っている。彼らの姿は、バスの車窓からも見えたので、こんな朝早くから何に並んでいるんだろうと思っていたのだが、どうやら「ハウルの動く城」の試写会があるらしい。この映画知らん間に完成してたんだ。でもどうせ今回も劇場へは行かないんだろうな。

日比谷公園 10時をまわったところだ

公園の中央にある広場に立つと、向こうにビルが立っているのが見えるが、それほど遠くもないのにぼんやりと白く霞んでしまっている。視界が悪い。どうも今日はこんな感じの天気が続きそうだ。まあ雨が降らないだけよかったと思わなければなるまい。ゆっくりと公園内を横切るが、樹齢数百年もあろうかと思われるような巨大な木々がたくさんあり、静かで気持が良い。ここが大阪ならブルーシートやテントがずらっと並んでいそうなものだが、浮浪者の姿はほとんど見かけなかった。皇居のそばだから監視が厳しいのかな。

日比谷公園を抜けると目の前はもう皇居のお堀だ。すぐそばに皇居外苑へと入っていく道路が広がっているが、ちょっと遠回りして桜田門の方から入ることにする。教科書に載っているような史跡や、歴史的な事件のあった土地は、その場所に立つだけで、なんともドキドキするもんだからね。桜田門の前に立つと、西の方に国会議事堂が見えた。ああこんなに近くなのだったらついでに寄ってみようかなあ。でも911テロ以来、警備が厳重になってあまり近寄れないという話を聞いたことがあるし、何でもかんでも欲張らず、次回に回しますか。



皇居外苑〜東御苑〜北の丸公園〜靖国神社


左手の親指と小指を畳んで数字の3を作り、その手を横に傾けると、手のひらが皇居、薬指が皇居外苑、中指が皇居東御苑、人差し指が北の丸公園にあたり、それぞれがお堀で区切られている。まあ形はだいぶ違うが、位置関係はそんな感じ。今回は、薬指にあたる皇居外苑から、中指の東御苑、人差し指の北の丸公園と、順に北上していく。

桜田門をくぐると、なんだか大阪城そっくりの雰囲気。日本の城の作りなんて、どこも似たようなもんなんだな。ところがいよいよ皇居外苑に入ってみると、砂利道がドーンと広がり、そのスケールのでかさにびっくり。道と言うよりも広場にしか見えない。しかしこの広い空間も、どんよりした天気のためか、空が重たくのしかかってくるような圧迫感がある。晴れていたら、さぞかし気持ちの良い場所なんだろうが。

桜田門 砂利道がドーンと広がる

マラソン大会でもやるらしく、ランニングウェアにゼッケンをつけた人たちがあちこちで柔軟体操などをしている。数百人はいるか。しかし砂利道の広がっている方は、観光客がポツポツ歩いている程度でガランとしている。ちなみに観光客のほとんどは外国人だ。ザクザク砂利を踏みしめながら、道のど真ん中を北へと進んだ。砂利の感触が靴底を通して足の裏に心地よい。

ちょっと話は飛ぶが、ぼくは京都の名所はそれなりに回ったが、個人的に最も印象深いのは御所だ。5年位前の暑い夏の日の昼下がり、たまたま直ぐ近くで仕事があり、時間が余ったので御所に入ってみると、あの延々と続く広大な敷地の中、見渡す限り人っ子一人いない。太陽はカンカンと照りつけ、蝉は激しく鳴いているのに、不思議に静謐な空気が漂っている。重たい機材を抱え、汗を拭きながらウロウロしていると、女子大生風の女の子が近づいてきた。カメラを持っているので写真を頼まれるんだろうと思ったら、英語でしゃべりかけられた。歴史ある美しく広大な御所にいるのは、外国人の女の子とぼくだけ。なんだか間違って時間の隙間に迷い込んでしまったような奇妙な感覚を味わった。

話を元に戻すが、こうして皇居外苑を歩いていると、なんだか背筋がシャキッと伸びる感じがある。京都の御所もそうだが、具体的な建築物のない、ただのだだっ広い空間に、何か凛としたものを感じさせられてしまうというのは不思議なことだ。

広大な皇居外苑を通り抜け、いったん皇居の外周に出ると、さきほど桜田門の内側で見かけたランナーたちが、すぐそばを駆け抜けていった。天気こそすぐれないものの、これだけ美しい皇居の外周は、マラソンコースとしては最高だろう。

お次は中指にあたる東御苑だ。入ってすぐ右手にこじんまりした上品な美術館。その前を通り過ぎると百人番所が目に入ってくる。今で言うところの警備室だ。あたりには、ほとんど人影がなく、貸切で見学させてもらっているようなもんだ。

百人番所 この辺にはぼくしかいない 東御苑内の通路 とにかく閑散としている

道なりに進むと公園のような広まったところに出た。ここまで来ると観光客の姿もチラホラ。町内会の遠足とおぼしき団体を除けば、観光客の殆どが外国人だ。ちなみにご年配の夫婦が多い。折角はるばる日本に来られたのに、もっとスカッと晴れてあげて欲しいなあ。「松の廊下跡」という案内があったので、もちろん行ってみたら、茂みの中にぽつんと立て札が立っているだけ。兵どもが夢のあとという感じで、なんとも無常観が漂っていた。

皇居よりの奥まったところに小高くなった天守閣跡があるので登ってみる。かつてここに建っていた天守閣は、完成後たった19年で焼け落ちたとのことだ。それにしても、皇居外苑、東御苑と回って来てつくづく思ったが、これでもしど真ん中に巨大な江戸城が聳え立っていたならば、世界でも屈指の名所になったのは間違いない。城がなくても十分素晴らしい場所なだけに、城のないことがなお一層のこと悔やまれる。城に思いを馳せつつ東御苑を後にした。

北の丸公園に入り、ゆるやかな坂を上ると、すぐ右手に科学技術館。大阪科学技術館もそうだが、施設の名前にそぐわない古ぼけた建物で、外壁にあしらわれた無数の星型の穴がなんともレトロ。「弦楽器展示会」という横断幕が掛けてあったので、冷やかしに中に入る。外から展示室を覗くとヴァイオリンやチェロなどが多数展示されているようだが、入場料も高いことなので見学はパス。何故か反対側の部屋では衣料品のバーゲンセールをやっており、おばちゃんたちが群がっていた。土産物コーナーでは、東急ハンズでも売っているような、大人の科学シリーズやパズルのおもちゃに加え、定番の宇宙食など。こういうところでビーカー、フラスコや顕微鏡など、本物の実験器具や、化学薬品なんかを売っていたら、そっちの方が面白いのに。

科学技術館をでて道なりに進むと、ほどなく武道館だ。あっけないほど小さい建物で、ここが本当にあの有名な武道館かと一瞬疑問に思ってしまった。しかし皇居のお膝元というこのすばらしい立地を考えると、武道館でコンサートをすることがひとつのステータスのようになっている理由も分かる気がした。ちなみにこの日は甲斐よしひろがライブをする予定だった。

靖国神社 真ん中の点みたいのが大村益次郎像

さて、北の丸公園を出て歩道橋を渡ると、巨大な鳥居が目に入ってきた。今回の目的のひとつである靖国神社だ。入り口に立つと、奥になにやら立派な銅像が見える。もう昼近いが周囲は閑散としており厳かな雰囲気だ。まずは記念にここで写真を撮っていたら、スーツ姿で紙袋をぶら下げたかなり高齢の方に「写真お願いします」と声を掛けられた。明らかに外国人風の発音なので聞いてみたら台湾から来られたらしい。台湾からたった一人で何を思って靖国を参られるのか。大鳥居と「靖国神社」と刻まれた石碑をバックにパチリ。どうか綺麗に撮れていますように。

鳥居をくぐって境内を進んで行くと、銅像は大村益次郎(近代日本陸軍の創設者)のものであった。おや、遠くからテケテンと三味線の風雅な音が聞こえてくる。どこのスピーカーから聞こえてるのかと思ったら、右翼Tシャツを着たおじさんが椅子に腰掛けて演奏していたのだった。近くでよく聴くと「もしもしカメよ」に似た感じのなごみ系ほんわかメロディー。人はまばらで雑音も無く、なんとものどかなムードを醸し出している。ところどころでご老人たちが机を出して、特攻隊の絵葉書やTシャツやらの右翼グッズ(?)を販売している。退屈そうだ。もっと賑わっていると思っていたが、土曜のお昼はこんなものなのかな。のんびりのんびり。

お参りした後、更に境内の奥へと進んでいくと、動物の慰霊像が見えてきた。軍馬や軍犬はいいとして、軍鳩の像まである。そういや軍鳩の飼育係が主人公の「まぼろしの市街戦」なんて映画があったが、日本軍でも伝書鳩が活躍したんだなあ。その他にも所々に砲台やら日本兵の遺留品やら戦艦の模型やらが飾ってある。戦没者を祀る神社らしい雰囲気になってきた。

遊就館なる建物があり、ガラス張りの大展示室にゼロ戦と機関車があるのが目に入ったので入場してみる。ゼロ戦を間近に見るのは初めてだが、流石に迫力がある。しかし中に人が乗って空を飛ぶということを考えると、えらく小さな飛行機だぞ、これは。コックピットも狭く、これで出撃する人は心細かったんじゃないかなあ。どんな思いで飛び立ったのか。…と、英霊に思いを馳せたりして、しっかり遊就館の術中にはまっていますな。その他にも、銃弾の痕も生々しいキャノン砲が置かれていたり、なぜか美術品が展示されていたりと立派な施設であった。無料で入られる範囲内しか閲覧していないけど。

遊就館を出ると、晴れ着を着た子どもがちょろちょろしている。七五三か。もうそんな季節なんだなあ。まだまだ人は少ないが、子どもの元気な声のせいか、心なしか来たときよりも賑わっている感じがする。靖国といえば、政治がらみのニュースでしか耳にすることは無いが、こうして地元の人の憩いの場になっているのを見るのは何とも気持ち良いもんだ。

出口に向かって歩いていると、前を歩いていた背筋のピンと伸びた山崎務に似た感じのおじさんが、突然ぼくの方をくるっと振り返ってペコリとおじぎをした。一瞬ギョッとしたが、ちょうど靖国の門をくぐったところだった。その後も鳥居をくぐると、くるん、ペコリ。大村益次郎の銅像前で、くるん、ペコリ。大鳥居で、くるん、ペコリ。神社を出るまで何度もこのくるんペコリが繰り返されたのだった(後をつけたわけじゃないよ)。

うちの近所にも、お地蔵さんの前を通り過ぎるときに、かならず一礼するおばあさんがいるが、そういう姿は美しいと思う。ならばお前もやれよと言われても、なかなかそういう気にはならないし、同年代でそういうことをしそうな人は、ただの一人も思い浮かばない。こういう日本ならではの習慣も、やがては廃れていくものなのかなあ。

靖国をお参りした感想としては、人が少ないせいもあり、厳かな中にのんびりした空気がある、大変良い神社だったが、遊就館なども見ると、靖国が戦争を美化しているとイチャモンをつける連中の言い分もわからんでもないなと。展示内容やコメントなど、もうほんのちょっぴり配慮すれば、もっと素晴らしい施設になると思うのだが。他方、爆心地に「あやまちは繰り返しません」などと刻まれた碑があるのなんかは論外だと思うし、戦争にまつわる施設で、バランスの取れたものを作るというのは難しいんだろうな、やっぱり。

靖国を出て、九段下駅から地下鉄に乗り、新宿へ。車内に貼っている路線図を眺めていたら「聖蹟桜ケ丘」という駅名が。ここって確か「耳をすませば」の舞台になったとこじゃなかったかな。また東京に来る機会があれば、今度は小説映画の舞台を巡るというテーマで歩き回るのもいいかもしれないね。



新宿〜東京都庁〜新宿


新宿に着くと、まずは駅前のルミネの中にあるブックファーストヘ。実は、東京に来る前に計画していたのは築地と皇居、靖国神社だけで、他は特に予定をたてていなかった。徒歩での移動を考えていたので、どこでどのくらい時間が掛かるものか事前に読めなかったからなのだが、ここまで思いのほか短時間で来れてしまった。恵比寿駅近くのライブハウスの開場が4時30分なので、まだ3時間以上余裕がある。本屋で観光ガイドを立ち読みしながらどこに行こうか考えるが、あんまり欲張って肝心のライブに遅れたら元も子もないので、結局は無難に都庁でも見物しましょうかと決めて、1時をまわったころなので、まずは昼食を取ることにした。

都庁の方に向かっていれば、途中になんかあるだろうと歩きはじめたが、新宿西口で、つい引き寄せられるようにふらふらと電気屋街へ。最近アレシスからMicronというシンセが発売されたのだけど、今のところ大阪には置いている店がなくて、こちらなら試奏できるかもしれないと思ったのだ。哀しい性ですなあ。MIDI楽器を扱っている店を探すが、なかなか無い。ヨドバシカメラの楽器コーナーに行ってみたが、えらくちっちゃいなあ。ああ、新宿ならきっとどこか近くに大きな楽器屋があるのは間違いないんだが、こんなことなら楽器屋について下調べしておくんだった。

あほなことで時間を潰すのももったいないので、気を取り直して飯を食うところを探すが、風邪のせいか、あまり食欲が無い。今日はたっぷり歩きたいし、薬も飲みたいので、無理にでも何か口に入れておきたいところだが、カレーやラーメンは胃に重たいし、いつも旅先で重宝するハンバーガーも今は論外。どうしたものかと思いながらウロウロしていると、長崎ちゃんぽんのリンガーハットを発見。うちの両親が長崎出身で、昔は長崎に帰省するたびにリンガーハットのちゃんぽんを食べたものだ。懐かしいなあ。何故か大阪にはあまり出店していないんだよな。店に入るとちゃんぽん一杯390円。安い。これだけいろんな具が入って、味もそこそこ良くて、それでこの値段というのは驚異的なコストパフォーマンスの高さじゃないだろうか。懐かしさとおいしさで食欲も回復。元気に店を出る。

頭上に聳える巨大な都庁を見上げながらとぼとぼ歩いていたら、あっという間に根元に着いてしまった。もっと遠くにあるような気がしたが、建物がでかすぎて遠近感が狂う。周囲は休日のせいか車も人もまったくと言っていいほどない。車道で大の字に寝ころんでも大丈夫なくらいだ。それにしても今日はどこもかしこもホンマに人がおりませんな。大事件でも起こったのか、はたまた面白いテレビでもやってるのか。

確か土日も展望室は開いている筈だと都庁の周りをぐるりと回るが、どの入り口も閉ざされている。おかしいな。もういっぺんぐるっと回ってから正面玄関に近づいてみると、展望室へは地下の入り口から入れとの張り紙が。もっと目立つ案内板を立てていて欲しかったなあ。

都庁展望室より 東京タワーは見えない

入り口で簡単な手荷物検査をした後、エレベーターで一気に45階の展望室に。都庁には角のような形で2つの展望室があって、今回ぼくは南側の展望室へ上った。地上はあんなに閑散としていたのに、展望室内はそれなりの人手で賑わっている。窓から外を見下ろすと流石に高い。予備校時代、よく授業をサボって阪急32番街の展望室からぼけ〜っと遠景を眺めたりしていたもんだが、当然ながらあれより高い。いいねえ。高いところは好きだよ。しかし、変な曇り方で、極めて視界が悪い。1キロほど先から薄ぼんやりと霞みはじめ、5キロも離れたビルなどはもう真っ白い影のようになってしまっている。昼下がりなのに、日が暮れかかっているような空の色。期待していた富士山どころか東京タワーすら見えないぞ。う〜ん、残念だ。

この展望室には2時前に着いたのだが、ちょっと疲れていたので、2時半頃までたっぷり30分ほど休憩。体力的にはまだまだ余裕があるが、睡眠不足なのがこたえている。学生時代だったらこんなところで休まず、ずんどこ歩き続けたところだけど、すっかり衰えてしまったなあ。

眼下に立ち並ぶビル群を眺めていたら、911テロでジャンボジェットがWTCに突入した場面を思い出してしまった。何度も繰り返し放映されたあの映像には未だに大きな衝撃を感じる。そういえば、4日ほど前にアメリカ大統領選挙があり、ブッシュが2期目の当選を果たしたばかりだが、日本も同盟国としてテロの危機が高まったかも。日本で飛行機突っ込ませるとしたら、何といっても都庁だろう。いやいや、まさか今日に限ってと嫌なイメージを打ち消そうとした矢先、恐ろしい発見をしてしまった。今日は11月6日だ。116を上下逆さにひっくり返すと…911!!! これはヤバイ。努めて平静を装いつつ展望台をあとにしたのだった。

無事に都庁を出て、同じ道を引き返すのはつまらないので、今度は北の方からぐるっと大回りして再び新宿駅へ向かう。都庁がドーンと突き出している以外は、この辺のビジネス街も大阪とあんまり変わらんなあ。ビックカメラとさくらやがあったので、ついつい楽器売り場があるかどうかチェック。…無い。良かったような悪かったような。やがてスタジオアルタの前にでた。余所者からすると、アルタ前に来るといかにも俺は今新宿にいるぞという気分になる。どちらに向かえば良いのやらわからないままに、ゆらゆらと人の波に流され流され。駅のこっち側も電気屋がたくさんあるなあ。近くに絶対大きな楽器屋がある筈だが…。未練たらたらで新宿駅から遠ざかっていく。

今から他のどこかを観光するのは時間的に中途半端だし、なんとなく駅から離れてしまったので、この流れで恵比寿まで歩いていっちゃうことにした。道路標識で渋谷と矢印が書かれている方角に足を向ける。どうでもいいけど、ぼくは大阪でも市内を特に目的も無くぶらぶら歩き回るのが好きだし、電車でどこかに行くときもわざと目的地の1駅2駅手前で降りて歩いたりすることがよくあるんだけど、こういうのって分かってくれない人はホントに分かってくれない。楽しいんだけどなあ。



新宿〜代々木〜原宿〜渋谷〜恵比寿


ちょっと行くと新宿高校が見えてきた。たしか坂本龍一の母校じゃなかったっけ。こんなに新宿駅にちかいなんて、すごい場所にある学校だな。その奥には新宿御苑の緑が深々と広がっている。都心でこれだけ豊かな森があるのは正直うらやましい。この辺には駅を少し離れただけなのに、びっくりするくらい古びた木造の家が立ち並ぶ一角があったりする。まあ梅田でもひょいと路地に入れば昔ながらの古い家並みがあるが、こういう一等地を昔から住んでいる人たちが死守する背景には、余所者には分からない物語があったりするのかな。

えらく目立つドコモビルの根元を回り、線路の下をくぐって代々木駅の西側へとでた。駅前には商店が連なっており、いかにも下町の学生街といった風だ。出来れば線路沿いに歩いていきたかったのだが、線路沿いの道はゴチャゴチャして分かりにくかったので、再び線路を渡り、駅の東側に出て、車道沿いに原宿を目指す。

キョロキョロしながら車道沿いに歩いてゆくが、何ということも無い平凡な町並みで、はるばる東京へきたぞという感じがあまりしない。2年前に来たときは東京のスケールの大きさに圧倒されたが、あの時は新宿周辺しか歩かなかったからなあ。しかしこの何気なさが、却って町の中に溶け込んだような気分にさせてくれる。ちょいと路地の奥のほうなどを覗くと、古い民家があったり鄙びたビルが立っていたり、なんとも雑然としているが、こういうなかを歩くのは不思議に落ち着く。やっぱりぼくは田舎暮らしよりも、ゴミゴミした街の方が性に合っている。

やがて坂をずっと下りて原宿の駅へ。都庁の上から見た東京の町はのっぺりした平地のようだったが、歩いてみると案外起伏がありますな。ベタではあるけど原宿駅前から竹下通りへと入った。まあ一応ね。御のぼりさん丸出しだなあ。ちなみに、ここへは15年前に従兄弟に連れられて来たことがあるが、あの頃はタレントショップ全盛だった。今は雑貨屋などが数多く立ち並び、当時とは全く違う町になってしまっている。意外だったのは、生写真を売る店で、女子バレーの選手の写真をでかでかと扱っているところがたくさんあったことだ。アテネオリンピックでの試合がしょぼかったせいで、バレー人気は下火になったと思っていたが、そうでもないのかな。今週Vリーグが始まったばかりなのに、それがメディアで取り上げられている様子は無いのだが。って言うか、Vリーグが始まったことを、いったいどれくらいの人が知っているんでしょうな。

竹下通りを突っ切ったあと、そのまま明治通り沿いに真っ直ぐ渋谷を目指すつもりだったが、標識に明治神宮の文字を見つけ、折角だから外からだけでも眺めようと、ぐるっと原宿駅の方へ戻る。駅前の歩道橋に登ると、原宿駅の向こうに明治神宮の鬱蒼した森が広がっている。ああ、事前に上手に計画を立てていたら、ここも見物できたなあ。しかし時計を見ると4時。日も傾きだしてきた。時間に余裕がなくなってきたぞ。

線路沿いには行けそうに無いので、再び明治通りへ出てから、渋谷目指してテクテク。この辺の景色も大阪とさして変わるところもなし、大して面白いものも目に入ってこないなあと再び高架をくぐって線路の西側に出ると、うわ〜、こっち側は娯楽ビルの数々が立ち並び、人もどっと込んでいるぞ。前言撤回。やっぱり東京はスケールがでかいわ。しかし何でもかんでも地元と比較せずにおれないぼくも、相当大阪人根性が身に染み付いてますな。

いよいよ時間が迫ってきたので歩くペースを上げる。と、程なくクロサワ楽器の前に出た。今頃楽器屋が出現しても、立ち寄る暇なんかないっつうの。そうこうするうち渋谷駅に到着。正面に「109」という看板のビルが見える。いやあ、渋谷だねえという気分になるが、あれは何のビルなのかな? 知らないところを見ると、きっとぼくには関係のないビルなんだろう、って逆算的な理屈だが、こういうのは結構的を得ているもんだ。

普段のぼくなら、たった一駅を電車で移動だなんて信じられないところだが、タイムリミットが目前に迫っているので、やむをえず渋谷駅で電車に乗った。惜しかったなあ。都庁での休息を10分早く切り上げていたら、新宿〜恵比寿を徒歩で踏破できたのに。

しかしここまでこうして歩いてくることで、東京の狭さを実感したり、街の何気ない空気を肌で感じることが出来た。もちろんまだまだ表面を撫でたに過ぎないのだろうが、普段テレビや雑誌、小説、映画などで頻繁に目にする場所の土地勘が、肉体的な記憶としてインプットされたのは大きい。これからは東京関連のニュースも、より身近に感じられるようになるでしょう。

あっけなく恵比寿駅に到着。やっぱり電車はつまらんな。いや、電車には電車の楽しみがあるんだけど、それはまた今度ということで。駅を出ると、徐々に薄暗くなりつつあった。いたるところに恵比寿さんの像が置いてあって、そういうのはいちいちチェックしたいほうなんだけど、とりあえず道を急ぐ。駅前の商店街を抜けてしばらく進むと行列が見えてきた。そして4時30分、無事UNITに到着。 駅前で足踏みして時間調整したんとちゃうかというくらい予定の時刻ぴったりだ。まずは先に並んでいたMさんと初対面のご挨拶。良かった良かった。

ぐぇ〜、もうクタクタじゃ。 …へっ? 今からあのパスコアルの熱い熱いライブで、しかも2ステージで、しかもオールスタンディングですか。よろしい、かかってきなさい!ということで、疲れも吹き飛ばす感動のライブについてはこちらへ。適度に歩いて脳細胞の隅々にまで酸素と新鮮な血液が行き渡ったのか、普段以上の鋭敏な肌感覚と集中力でもってパスコアルの音楽を全身で享受できました。

ライブ後、帰りのバスの時間もあることなので、お会いした方々に暇を告げ、そそくさと会場をあとにする。皆さんどうもありがとうございました。1stステージと2ndステージの合間に、Mさんのお友達におにぎりなどを買ってもらって食べていたので、おなかは落ち着いており、おかげで夕食をとる必要はなさそうだが、とりあえずコンビニでビールだけ買って勢いよく一気飲み。ああうまい。ライブの興奮が覚めやらず、まだ少々気分が高揚している。ほろ酔い気分で恵比寿駅から電車に乗った。



新宿〜夜行バス〜エピローグ


新宿駅に到着し、まずはバス乗り場の場所を確認。時計を見ると、出発まで30分ほど時間があった。思ってたより早くついてしまったな。さすが電車は速いや。ぽさーっと待っているのももったいないので、最後のひと歩き、歌舞伎町を見物に行く。この辺は2年前に散策済みなんだけど、まあ一応。

夜の歌舞伎町はガラが悪いと言われているが、それほどでもない。大阪の繁華街のように、すれ違いざまに刺されるんじゃないかというような理不尽な危機感は全く感じない(ウソウソ、大阪も安全なところですよ。みんな遊びに来てね!)。通行人よりも、怪しい店の客引きの方が多いようだ。しかし、いまいち活気がないなあ。映画館が密集しているあたりまで行ってからUターン。

駅前のコンビニに寄り、バスで飲む酒を探す。夜中にトイレに起きたくないので、強めの酒を探すが、置いているのはビールと発泡酒ばかり。一番強いのがアルコール度20%の缶焼酎だったので、仕方なくそれを買う。出発時間直前にバス乗り場に戻り、バスが遅れていたのでしばらく待たされてから乗車した。

バスが走り始めるとまもなく消灯。焼酎に口をつけると、やっぱりこれも水っぽくて不味い。おっと、鼻血がでてきた。最近どうしてか鼻血がちなんだよな。どっか悪いんかなあ。ライブ中に出なくて良かったよ。いや、ライブ中に鼻血を出したら、それはそれでネタ的に面白かったかもしらんけど。

ちっとも眠くならないので、街の明かりが車内に入ってこないように気をつけながらカーテンの隙間からひょこっと首を出し外を眺める。鼻にティッシュを詰めたアホ面をさらすが、幸い誰とも目は合わなかった。やがてバスは高速に乗り、背後に流れていく明かりも徐々にまばらになっていく。ああ、お名残惜しや。一時間ほど車窓を眺めていたが、明日のこともあるので眠りについた。

朝、目覚めると吹田のあたりを走っていた。途中何度か目が覚めたものの、今度はかなりよく眠れたんじゃないかな。外を眺めると、やっぱり大阪は汚いなあ。東京も高速沿いの町並みは、たいがい汚かったが、汚さでは負けませんぞ。でもまあ住めば都。ぼくは大阪の町は結構気に入っている。そしてバスは大阪駅に到着。はい、お疲れ様でした。

さて、ここらへんで、今回の東京観光をざっと総括しときましょうか。

支出については、出発前に購入した風邪薬などを入れても、予算の35,000円内で収まったのはなかなか。交通費なんか、夜行バスを除けば500円以下だ。たいしてお金を掛けずに美味しいものも食べられたし、上出来でしょう。別に狙ったわけではないが、結果的に入場料がいらないところばかりをまわることになったのが良かったかも。

特に計画らしい計画を立てず、しかも徒歩による移動が主だったにしては、名所を押さえつつ上手に東京の街を巡ることが出来たんじゃないかな。旅先では迷子になるのも楽しいものだから、敢えて地図は用意していかなかったが、帰宅してから辿った道筋を確認したら、それなりに効率の良いルートが取れていたようだ。地元の人から見れば、何ということも無い散策だろうが、ぼくとしてはかなり楽しかった。

歩くことに関しては、日常的にこういうことをちょこちょこやってるのでどうってことはないが、夜行バスで十分睡眠が取れなかったのがちょっとしんどかった。旅行で夜行バスを使うのは要注意だ。

それにしても楽器売り場を探して電気屋を出たり入ったりしたのは、明らかに無駄だった。もうちょっと我慢できなかったものか。

MP3プレイヤーに入れていた曲について、ケニー・ホイーラーと武満ピアノ曲集はとても良かったが、バルトークの弦カルは大失敗であった。難解な曲で、何度聞いても正直わけが分からなくて、でも分からないなりに不思議に飽きもせずに今まで愛聴してきたのだけど、ちょっと嫌いになっちゃったなあ。旅先で繰り返し聴くには重すぎた。もう当分の間は聴きたくない。無難にパット・メセニー・グループあたりでも入れておけば、もっと幸せに散策できたかも。

こちらがその気になって積極的にサイト上で呼びかければ、もっと多くのパスコアルファンと親交を結ぶことが出来たのかもしれないが、人付き合いは苦手な上に、元来のシャイな性格ゆえ、叶わなかった。そういうのはどうしても得手不得手があるので、どなたかにお願いして音頭を取っていただき、ぼくは末席にでも加わらせてもらうという形にでもすれば良かったのかもしれない。もし次の機会があるとすれば、その辺をもうちょっとなんとか出来ればいいかな。

ということで、ぼくの勝手なわがままにもかかわらず、ライブをサボらせてくれた、すくいぐるのメンバーとトラのベースさんに最大級の謝意を表しつつ、おのぼりさん東京観光日記は、ここに幕を閉じるのでありました。

See You!








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by ようすけ