長年のオーディオファン&マニアなら今更説明する必要のないほど有名なソニーのポータブル・ステレオカセットコーダー。
ウォークマンとは云ってもやや大柄なボディに、当時の普及価格帯のカセットデッキに劣らぬ基本性能をポータブル型で備えたロングセラーの名機です。
現在でも低価格なカセットデッキなど軽く凌ぐ性能を誇ります。
”ステレオカセットコーダー”は取扱説明書の表記です。
周波数特性は 40~15,000Hz±3dBで数値的には並ですが、この仕様がテープの種類に関わらず同じ、というのが他とは違い目を引きます。
(※テープ性能が全く違うノーマルテープとメタルテープでもF特は同じ)
ノーマル、ハイポジ、メタルテープの順にF特の上限を上げる仕様が一般的なのに、何故か 15KHzでF特をカットしているウォークマンプロフェッショナルWM-D6とD6Cは、この点が特異で謎の仕様です。
FM放送が上限15KHzの周波数帯域なので、オーディオ製品として不足は無いですが、少なくともメタルテープではもっと伸ばせるはずなので、仕様面で唯一残念な思いがする部分です。
使い方の基本は取扱説明書にありと云うことで眺めると、説明不足や疑問に思う所が幾つかあり、これが誤解を生んで折角の高性能が発揮されない場合も考えられますので、ここで取り上げようと思います。
尚、本機を主に再生用途に使っているため再生に関する部分のみですが、他のカセットデッキ等に共通する事項もあります。
(2007/12 NO.7掲載 / 2008/2 更新)
取扱説明書に記載されている電源(乾電池&ACアダプタ)では、WM-D6C本来の音を出せないため、今まで音質の悪化した音しか聴いていなかった事が判明。
現在、唯一WM-D6C本来の音が出せるシリーズレギュレータ方式直流安定化電源の使い方等を紹介する。 「音が良くなる!!直流安定化電源の使い方」
本体性能は優れているが、乾電池やACアダプタでは本来の音が出ないため、知らなかったとは云え正に”宝の持ち腐れ”状態。
シリーズレギュレータ方式直流安定化電源を用いた据え置き使用でのみ、WM-D6Cの本当の音質(実力)が分かる。
(2008/10 NO.18記載)
[写真]
初代ウォークマンプロフェッショナルWM-D6。
メタルテープの録再にも対応した高い基本性能は正に鞄に入るポータブル・カセットデッキです。
1983年購入で、用途は別のカセットデッキで録音したテープの再生。
電池駆動では電源部に異常があるが、外部電源では正常に動作しています。
使用時間が長くなると、次第にヘッドが摩耗し音も悪くなってくるため、ヘッドを二回交換修理して長い間使用していた。
高価な製品なので、交換修理(ヘッドとピンチローラー)はメンテナンス代と割り切っていた。
※2018年故障(再生速度異常)
[写真] 二代目のWM-D6C
1984年2月発売でWM-D6との違いは、ドルビーC NR搭載、ヘッド材質の変更、マイク専用端子採用等です。
仕様上の基本性能は同じですが、歪み率はD6の1%から0.8%(メタルテープ)に向上しています。
(2000年12月生産終了。)
D6Cはヘッドホン端子が1個になり、ライン入力がラインアウトと同じ背面に移される等、端子配置も変更されている。
D6Cは1998年の購入で、長年使用したD6に不具合が生じた事から後継機として入手。
D6とは15年の歳月があります。 品物の入れ替わりが激しいオーディオ製品で15年後に同じ製品が買える事は滅多にありません。 まさにロングセラーです。
左は、WM-D6の取扱説明書の最初に記されている文章の部分画像です。
ウォークマンプロフェッショナルの名前と型番の由来、製品仕様のベースが他のウォークマンとは違う事を明記しています。
二代目WM-D6Cの取扱説明書は、WM-D6の内容を踏襲した物ですが、この文章は記載されていません。
WM-D6の背面には、”SPEED TUNE”のスライドスイッチとダイヤルつまみがある。
二代目WM-D6Cにもあります。
ウォークマンプロフェッショナルをPROFESSIONALにしている機能の1つで、これがなければPROの意味がないほど重要な物です。
スライドスイッチをON側にすると”SPEED TUNE”が有効になり、テープ速度をダイヤルで微調整することが出来ます。
OFF側はWM-D6固有のテープ速度で動作します。
[写真]
AKAI(アカイ)GX-F91で録音したテープの調整位置。
※ダイヤル下の白いマーキングは調整の目印に付けた物。
目印が無ければ、その分調整は難しい作業になる。
[写真]
ソニー TC-KA3ESで録音したテープの調整位置。
TC-KA3ESは、アカイGX-F91よりダイヤルがFast側になっているので、少しテープ速度が速い事が分かる。
カセットデッキの速度偏差は小さいので、ダイヤルつまみの位置は僅かに違うだけです。
ボリュームつまみのようなダイアルで、微妙な調整をするのは結構難しい。
機能の重要性を考えれば、調整用の目印が本体に無いのが不思議なくらい。
このSPEED TUNE機能を有しているのは、ウォークマンプロフェッショナルの名を冠した製品群の中でもD6とD6Cだけで、その事が一層D6とD6Cの価値を高めている。
実際、他のカセットデッキで録音したテープを再生する場合、ウォークマンの中でテープの音を忠実に再現できる能力が有るのはWM-D6とWM-D6Cだけですが、この事を分かっている人は案外すくないと思われます。
尚、テープ速度の調整には多少テクニックがいる。
左は、取扱説明書のSPEED TUNE説明文章の部分画像です。
内容的には簡略した説明で、調整の意味が分かっている事を前提にした様な文章です。
詳しく説明すると、テープ速度調整機能の無い再生専用機の存在価値を問われる恐れもあり、調整の仕方等の最低限の記述にとどめていると思われる。
音の高さが変わって聞こえるのは、磁気ヘッドとテープの間には、相対速度で周波数特性が変化する関係がある事から起こる現象。
JIS規格ではレコーダーの速度偏差が±2%(民生用)に規定されているため、最大4%のテープ速度の違いがレコーダー間で起こり得ます。
※速度偏差±2%(民生用)は2001年に確認した値。
JIS規格は時代と共に改訂されるので、最新或いはWM-D6/WM-D6C製造当時と同じとは限らない。
”再生スピードを調整する”と云うのは、WM-D6/D6Cのテープ速度をテープを録音した他のレコーダーのテープ速度に合わせると云う意味です。
これは、テープ速度の一致がテープに記録された音楽の忠実再生の第1条件だからです。
例え同じ製品でも製造バラツキのため、他のレコーダーとテープ速度が全く同じ事など余り無いので、他のレコーダーで録音したテープを再生する場合はテープの再生速度を調整して合わせる必要があります。
テープの再生速度が合っていないと、テープ速度の僅かな違いが原因となり、テープに記録された音楽を忠実に再現することが出来ません。
音楽の再生には、この”忠実に再現する”ことが大切なポイントです。
テープ速度が僅かでもずれると音の高さが微妙に変わるだけではなく、音の響きやボーカルのリアリティ等、音の大切なニュアンスの部分が再現されず、全く別物と云えるほど大きく変わって音質を損ない、
HiFi再生とは程遠い音、ただ音が出ているだけの状態になります。
更に、この事を分かっていないと、テープや本機の音質が思った程良くないと云う、誤った評価をしてしまう恐れがあります。
他のレコーダーで録音したテープを再生するときは、音の高さが変わって聞こえた時に再生速度を調整するのではなく、少なくとも「テープに記録された音楽を忠実に再現する為にテープの再生速度を調整する」と記するのが正しい説明と云えます。
調整にはダイヤルの溝幅より細かい微妙な調整が必要で、大きく動かすと音の良し悪しが判別出来ません。 山の形に例えるなら、富士山の頂上にテープ速度が一致するポイントがある様な物で、動かし過ぎると直ぐに裾野の部分になり、テープ速度がずれた状態の音(劣化した音)を聴くことになります。
取扱説明書の図から下の文章は、自己録再の場合はテープ速度誤差の問題が起こらない事を云っています。
因みに、カセットデッキの多くはテープ速度の微調整機能が無く、自己録再を前提にした性能保証をしているに過ぎません。
他のレコーダーで録音したテープでも音楽の忠実な再現を可能にする”SPEED TUNE”は、再生機としてもPROの名に恥じない機能の一つです。
今更ですが、取扱説明書の曖昧な表現はユーザーに正確な情報を伝えないため、必要な機能かさえも曖昧にする危うさがあり、回り回って不利益をもたらす事を理解していないメーカーの姿を映しています。
左はWM-D6の取扱説明書にある仕様の一部。
テープの種類に関係なく周波数特性は同じと分かる。
これは、他のカセットデッキと比べると特異な仕様です。
周波数特性は同じでも音質はテープの種類による性能差がしっかり出てきます。
ノーマル、ハイポジ、メタルカセットで、それぞれの音質が全く同じ等と云う事はありません。
・TYPEⅠ:ノーマルカセット
・TYPEⅡ:ハイポジション(ハイポジ)カセット
・TYPEⅣ:メタルカセット
( )内のカセットテープの銘柄は使用された基準テープで、これらのテープでバイアス等が調整されている事を意味する。
■ WM-D6C左はWM-D6Cの取扱説明書にある仕様の一部。
WM-D6Cは、磁気ヘッドの材質が変更されたが、周波数特性はWM-D6と同じで変わりない。
WM-D6では明記されていた基準カセットテープの銘柄が省略されていて、どのテープで調整されたか分からない。
これは、バイアスやテープ感度の微調整機能を持たないWM-D6Cでは、録音時のf特がどうなるか見当つかない事になるので、やや不親切と云わざるを得ない。
テープスピード偏差の記述が新たに加わり、ひずみ率の仕様が異なっている。
ドルビーNRのCタイプが追加されたのでS/Nの欄が追加されているが、この欄から、WM-D6のS/N比はドルビーNRがOFFの値だと分かる。
(WM-D6の取説には何も説明がない)
写真はWM-D6Cの内部電池ケースを本体から取り出した状態。 (※電池ケースは乾電池取付状態が見える様に横に寝かせている。)
電池が見える部分が電池ホルダーで反対側のスライドする蓋部分がケースと云う事になっています。
WM-D6とD6Cの電源として使用しているSONY製の外付け乾電池ケース。
元はSONYのオールバンドラジオに付属していた物で、電圧と出力プラグが適合するので流用しています。
(単二形電池4本使用)
このタイプの外付け乾電池ケースは、SONYのカタログには無かったと思います。
(裏側はベルトに掛けるフック付)
外付けの乾電池駆動にしたWM-D6C。
写真は乾電池ケースの蓋を開けた状態で、乾電池は単二形です。
わざわざ外付け乾電池ケースを使う理由は、単二形乾電池の方が明らかに音が良いからです。
従って、単三形では電源として少々能力不足と云えます。
録音時にも影響があると考えるのが妥当です。
取扱説明書に記載されている、ヘッドの消磁の項目です。
説明に間違いはありませんが、 ”20~30時間使うごとに”と云う所が疑問です。
実際に使ってみると、この時間間隔で良いのはノーマルとハイポジのテープで、メタルテープの場合には当てはまらないからです。
磁化力が格段に強いメタルテープでは、C90テープ1本の再生でも磁化の影響があります。
メタルテープでは、音にこだわるなら2~3時間毎に消磁する位が良いと思います。
左はWM-D6の取扱説明書の記載です。
”10時間使うごとにクリーニング”とは、新品テープの場合を想定していると思われます。
使い込んだテープ(よく聴いているテープ)では、磁性層の剥離が多くなるのでもっと短くなります。
テープの状態はテープ毎に違うので、特に音に影響が大きいヘッドは、カセットを取り替える毎にクリーニングする位でも良いと思います。
録再ヘッドと消磁ヘッドをクリーニングする時には、クリーニング液で拭いたあと直ぐに新しい綿棒で乾拭きをします。
ヘッド部分を磨くような感じで拭くと良いです。
乾拭きは、ヘッドに残ったクリーニング液の残渣を拭き取って、テープとヘッドの密着性を良くするためです。
残渣があるとテープとヘッドの密着性が悪くなり、音も悪くなるからで(※高音の出力が減衰する)、クリーニング液をそのまま乾かした状態は良くありません。
又、液の付けすぎはヘッドを痛めるので要注意です。
”綿棒などが巻き込まれないように図の矢印の方向から”の記述と図にある矢印が、WM-D6Cの取扱説明書では省かれています。
キャプスタン側でまずい部分もあるので、D6Cでは説明を避けたと思われます。
ピンチローラー用のクリーニング液は、汚れを取るだけでなくピンチローラーのゴムの弾力性を復活させる効果があり、定期的にクリーニングを行うのが良い。
尚、電源を入れてプレイ状態でピンチローラーのクリーニングをするのは避けた方が無難。
綿棒が巻き込まれたり、キャプスタン側にクリーニング液が流れて故障の原因になる場合がある。
(注意)クリーニング手順は個人的な見解によるもので公式に正しいかは不明。
テープレコーダーの日頃のメンテナンスに使う三種の神器です。
[写真左] ジョンソン綿棒
(ジョンソン綿棒が高品質でお奨めです。)
[写真右] ヘッドとピンチローラー用クリーニング液
(赤色と青色の液体) 赤が金属用、青がラバー用。
※写真はTEACの古い製品です。
長期間使わずピンチローラーのラバーが固くなってしまった時に、青のラバー用で丁寧に拭くと柔らかさが復活します。
[写真手前]
ヘッド消磁器のカセットタイプ
※カセットテープと同じ感覚で使えるが、最近では入手困難と思われる。
ヘッド部分の日頃のメンテナンスは、テープレコーダーを長持ちさせる秘訣です。
・2016/11/5 ページの体裁を変更、統一。
・2019/4/21 一部を除き画像サイズ縮小。