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日本文化の模倣と創造〜オリジナリティとは何か

<ブックデータ>
著者:山田奨治
出版元:角川書店
ISBN:4-04-703341-3
価格:1600円
初版:2002年



最近あまり本を読まなくなってしまって、
これはヤバイ、ということでお休み中に何冊か本を読みました。
その中から1冊をご紹介です。

「コラムもどき」のほうでも、何度か取り上げていますが、
著作権の問題について考察した、
ちょっとお堅い目の本です。

著者は、創造性の基本には、
模倣すること、コピーすることにあると言い、
まねをすることというものは、どういうことかを
絵画・写真・連歌をはじめ、
ハッカー文化・アニメなども交えて、
説明しています。

そこで、著作権というものが、
どのような歴史的背景で作られてきたのか、
そして日本には、どういう経緯で導入されたのか、
著作権は何を守ろうとしていたのかを解説しています。

そして結論として、著者が「再創」と名づける、
コピーを繰り返す中で発揮される創造性を
もっと大切にしよう、という内容です。

基本的には、この考え方には、納得の行く部分が多く、
「有名であること=コピーが多く目に触れる機会が多いこと」
など、コラムもどきでも取り上げている
ミームの考え方に通じるところがあるように思います。

ある作品を多くの人がアレンジする中で、
面白いものができるのではないかということは、
本書中に書かれている江戸時代の浮世絵等の
歴史を見ても、分かることですし、
その手法を今、適用してみれば、
どんなものができるのかが楽しみでもあります。

また、著作権問題の大きな疑問点は、
著作者の権利を守らなくてはならない、
と声高に主張していることが目立つのは、
本当の著作者ではなく、版権所有者に当たる、
レコード会社であるということだと思っています。

楽曲や著作を実際に製作した人が、
こういう風に、市場に出していきたいという意思は、
尊重されなくてはいけませんが、
たとえば、エイベックス社のCCCD(コピーコントロールCD)
に関する説明のような高圧的な態度を
レコード会社にとられるのが、
あまり納得のいくものではありません。

ただし、問題点もいくつかあります。
著者の分析において、著作権問題には、
(1)経済の問題:著作権法が、著作者の経済的な利益を保護している
(2)文化の問題:著作権法の存在が、文化の発展に寄与している

があると分析しています。しかし、
(1)経済の問題において、
作品が収録された媒体の販売本数やダウンロードされた回数で、
その作品に対する評価や対価を算出する方法がよいのか
というところが問題です。

経済の問題というのは、作品をつくった人が、
評価に応じた報酬を得られる仕組みを
どのようにつくるかという点に集約されると思います。
この点に関しては、言及が少なかったと思います。

現在の方法では、コピーが文化の発展に寄与する
という現実とは、なかなか折り合いがつかないわけですから。

本気になって、コピーの文化メカニズムと
作品をつくった人が、評価に応じた報酬を得られる仕組み
を考えていくならば、いままでの出版社・レコード会社が今の業態を
維持することができなくなることでしょう。

しかし、文化の問題を無視して、
あるいは、著作権が文化発展に寄与していると主張して、
この仕組みを維持しようとするのか。
それとも、業界が一変するいまこのときこそ、
業界をリフレッシュするチャンスと見るか。

これが、出版社やレコード会社が直面している
現実だと思います。

(2)文化の問題に関しては、
作品は、何人にもとらわれない「独創」で創られるものではなく、
既存の作品からヒントを得たり、
既存の作品をアレンジしたりする「再創」である。

それは、納得がいくのですが、
ひょっとすると作品をつくる人の心の中には、
自分がつくったんだ、という気持ちがあるのかもしれません。
もっとも、つくったことのない者がいうこと
じゃないかもしれませんが。

とはいえ、所有欲というものは、
人間に普遍的にあるような気がするんですよね。
だからこそ、フリーソフトでも、
著作権を放棄せず、誰が作ったものかを
明確にしたがるのではないでしょうか?

こういうところをはっきりさせておかないと、
肝心の作品の作り手の気持ちを無視したように
受け取られるように思います。

でも、著作権が文化の発展に寄与する、
というのはいいすぎでしょう。
企業が、著作権という仕組みを維持するために、
本来、経済的な問題が中心で、問題化していることを、
文化本来の問題に、すりかえていると
受け取られても、仕方がないと思います。

以上のことをまとめると、こうなるでしょう。

1)作品に対する評価に応じた報酬という市場経済としての側面
2)コピーやアレンジといった真似ることが、文化発展の基礎にあるという事実
3)作品の作り手が自分が作ったんだという実感

この3点を同時に満たす解を探すのが、解決の道ではないかと思います。

そのためには、著作権を保護すべきだと、
私用のためのコピーすら、企業が黙認してやっているものである、
といってはばからない人たちに、この本を読んでいただいて、
問題は、上記3点を同時に満たす解決策を探すことだ、
というコンセンサスをつくることではないかと思います。

あっちゃぁ、コラムみたいになっちゃって、
熱く語ってしまいました…


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