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虹の解体〜いかにして科学は驚異への扉を開いたか

<ブックデータ>
著者:リチャード・ドーキンス(Richard Dawkins)
翻訳者:福岡伸一
出版元:早川書房
ISBN:4-15-208341-7
価格:2200円
初版:2001年



わたしは、幼いころに昆虫採集をしたりといった、
生き物が絡むものはからっきしでして、
犬や猫といったポピュラーなものはともかく、
生物というものはちょっとニガテでした。

しかし、高校のとき、理科の選択科目で、
「生物」を選択したことで、その苦手意識がなくなり
むしろ興味が湧いてきたんです。

特に、遺伝の分野は大の得意となって、
生物は、格好の得点源になったわけですが、
今ではそんなことよりも、学校の勉強と重なることで、
心底興味がもてたものが、歴史以外に
もう一つ増えたということの方が、
大事なことだったように思います。

遺伝が得意だったこともあり、
自分で遺伝子とか、進化に関する本を
ちょくちょく読み出したことから、
今回、ドーキンス博士の著作に
たどり着いたわけです。

今まで日本語に翻訳された著作は、

「利己的な遺伝子」
「ブラインド・ウォッチメイカー(上)・(下)」
「延長された表現型」
「遺伝子の川」

の4冊ですが、すべて読破するほどのお気に入りです。

しかし、「遺伝子の川」という本以外、
400〜500ページ超の分厚い本で、
事前に少し知識がないときついかも、
と思ったので、今までご紹介を控えてきたわけですが。

今回は、ドーキンス博士が進化をどう考えているのか、
どういう動機をもって科学に取り組んでいるのか、といった
ドーキンス博士の進化観だけではなく、
人となりをちょっと垣間見ることができるような、
そんな本ではないかと思います。

進化論に関する内容の上では、
「利己的な遺伝子」から「延長された表現型」に至るまでの、
進化のしくみに対する考え方を漏らすことなく
コンパクトにまとめたような内容なので、
わたしとしては、目新しいことはありませんでした。

しかし、

そう、俺はこんな面白いコトをやってんだよ、
なぁ、すっごいだろ?

そういう気持ちが、今回特に現われているように思います。
その面白さがきちんと伝わらないもどかしさを
何とかして振り払いたいという意図が伝わってきます。

また自身が、そこまでのめりこんでいる
「一生の仕事」と考えているからこそ、思い至るであろう、
「読むための科学」の提案があるのも、
単なる科学読み物ではないところ。

自分がこれだ!と思うものに対して、
できるだけ多くの人に親しんでもらいたい
というのは、本気で仕事に取り組んでいる人に
共通することでしょう。

科学は、役に立つという以上に楽しいものであるということ、
しかしそれは、安っぽいエセ科学のショーなどではなく、
本来難しいものである科学に、本気で向かっていったときの
充実感として現れるものだと。

科学は、人間を無目的の闇に陥れ、
詩的な世界を破壊するものではなく、
世界をより深く、より正確に知ることによって得られる
驚きと畏敬の念を抱かせる営みだと。

とはいえ、ちょっと聞きかじり程度でご存知であれば、
ドーキンスという名前を聞いて、
いい印象をもたないかもしれません。
というのも、進化における遺伝子の役割を論じる際、
遺伝子を利己的(Selfish)という言葉で、
形容したことが、大きな論争となっていたからです。

ここで、その詳しい論争を紹介することは避けますが、
本当に論争となっている点は、
実は少なくて、かなりが「利己的」という
ショッキングな言葉による感情的とも受け取れる
反発であったに過ぎない、と思っています。

わたしのもっている少ない知識から言っても、
ここまで誤解されつづける人は、
ちょっと珍しいのではないかと思いますけどね…。

また、ご興味があれば最終章に論じられるミームについても、
読み進められてはいかがでしょうか?

先日の「コラムもどき」でも触れましたが、
個人的には、共進化の論理がインターネットの登場した
世界の考え方の伝播のしくみとマッチしているような
気がしているんですけどね。
事実、ミームはインターネットにおける社会学的な観点から
研究が進められている向きを感じます。

あと、共進化の中の特殊例としての「軍拡競争」の論理などは、
インターネットによって発言権が強くなった消費者と
企業の中で起こる商品形成を上手く説明できそうかな、
と思いながら、卒論を書いてみたわけですが。
やっぱり難しくて、きちっと整理ができませんでしたね。

販売店という第3のプレーヤがいること、
企業というプレーヤが複数いて、お互い競争関係にあることなど、
要素間の関係がごっちゃごちゃになって…。

え?なになに?って方。
ちょっと気合が必要かもしれませんが、
ぜひぜひ手にとって、一読されることをオススメします。


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