「…ん……」
穏やかな光の中で目覚めた芳樹は、大きく伸びをしようとしたその瞬間に背中から伝わる体温に気づき、寸前で思いとどまった。
自分の躯は樹生の腕の中にすっぽりとおさまっているようだ。
眠っている間に背中から緩く抱きしめられたのだろう。
肉の薄い躯を抱き枕のように抱いた樹生から、規則正しい寝息が聞こえてくる。
起こさないように息を詰め、極力ゆっくりとした動作で向きを変えた芳樹は、眠る樹生の顔を至近距離でじっと見つめた。
特に念入りにケアしている姿を見たことがないのだけれども、その肌に厄介なトラブルを抱えたことは覚えている限りではない。
寝乱れた前髪の下の睫毛は長く整っていて、筋の通った鼻梁がすっきりとした線を描いている。
薄く開かれた口元がやけにセクシーで。
眠っていても様になる男だと思うのと同時に、こんな彼の姿を見ることができるのは自分だけだと思えば、自然と頬が緩む。
協調性はないし、強情だし、内弁慶だし。
決して美点ばかりではないけれども。
好きだなぁ、と、ただ単純に思う。
不器用なやさしさも、おおらかさも。
意外に繊細な内面も、そのすべてが、愛おしいと。
一体何度思ったことだろう?
そんなふうに、満ち足りた想いをめぐらせていたとき。
樹生が覚醒の前触れもなく、目を開いた。
とりとめのない思考の波に溺れていた芳樹は思わず固まってしまい、文字通り、目と鼻の先で視線が交差する。
「…………」
「…………」
パチパチと目を瞬かせた樹生が、なんなの?と言いたげな視線を向けてくる。
「っつーかおまえ、何見てんの?」
「え?かっこいいなーって思って」
咄嗟のことに本音を返してまっすぐに見つめか返す芳樹に含みはない。
さらりとこぼれた言葉に返答に詰まってしまった樹生は、寝乱れた自分の頭を乱暴にかきまわしたかと思うと、華奢な躯を腕の中に強く引き寄せた。
「………」
「ちょっ……ちょっと樹生!?」
唐突な行為に慌てふためく芳樹は、それが樹生の照れ隠しであることに気付かない。
たくましい腕の中に抱きしめられて、馴染んだ樹生の匂いに包まれながら。
逸る鼓動を抑えきれずに熱い吐息を呑みこむのだった。
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