卒業旅行−後編−

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by,石礫


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5.解決編

「オレ、謎が解けたかもしれない…」

「な、何言ってるんだ、刑事でもない君が、この事件の謎が解けたって?」毛利刑事は驚きを隠せない。
「はい。」とワタルは答える。
「君、高木君だっけ、謎が解けたって?どう言う事だね?」
目暮はワタルに尋ねる
「犯人はここにいます」と、にっこり笑うワタル。
「なんだって!?」

「なぁワタル、ホントに謎が解けたのか?」と、修が小声で聞く
「十中八九な」とワタルが小声で答える
「そんな事言って大丈夫なのか?」と幸彦も心配そう
「大丈夫さ…」

「とりあえず、君がわかったと言う謎を聞かせてもらおうか?」
「何言ってるんですか、警部補?」

目暮の許しを得て、ワタルの推理は始まった。
「……はなっから…あの部屋に鍵をかけたのは犯人だったんですよ」
「へ?」
「あの部屋の鍵は、部屋の鍵がかかって居る時点は、あの部屋には無かった…ずっと犯人が持っていたんですから…。」
「…だから、どうして。それが」
目暮警部補はまだ要領を得ない。考えこむ毛利、そして、彼も気が付く
「!?そうか!!犯人は偽装工作をしてから部屋の鍵をかけて密室に見せかけたんですよ警部補!それで、鍵を隠し持っていた犯人は、みんなと一緒に部屋に入った時に、こっそりと部屋の中に鍵を置いた。…そして、部屋で鍵が見つかると、みんなは、鍵がずっと部屋の中にあったものだと思いこむ。」
「…あ、なるほどーそう言う事か!」
目暮も納得

「はい、そうです。だから、この事件の犯人は…この部屋に最後に入り、この部屋で部屋の鍵を見つけた…梨果さん…あなたです!!」

ワタルが指摘した犯人は木村樹里の友達、根本梨果だった。
「な、なんで、私なのよ!!あの部屋で鍵を見つけたのは偶然よ!大体それだったら他のみんなだって可能だわ」

「樹里さんの部屋の扉を叩いてた時、貴方はなぜ、着替えられてたんですか?」
「それはお風呂に入ったからよ…」
「なんでお風呂に入ってたんですか?」
「なによ、お風呂入るのに理由なんている?」
「あの時、なぜ、貴方の髪はなんで塗れてたんですか?」
「そ、それはお風呂に入って居たからに決まっているじゃない」
「夕方にブレーカーが落ちた時は?何をしてましたか?」
「え・・・?何って…」
「髪を乾かす為にドライヤーかけたんじゃありません…だからブレーカーが落ちた、ちょうど、下で電子レンジをかけていた時間に」
「そうよ。ドライヤーかけたらブレーカーが落ちたわ。」
「じゃあ、何故、あの時、声をかけなかったんですか?」
「なによそれ?」
「普通だったら、電化製品自分も使っていたのだから「自分のせいでブレーカーが落ちたのか?」って聞きませんか?」
「・・・・・・た、たまたまよ。必ず聞くなんてありえないわ…」
「では、たまたまとしますか…その後すぐに僕等が二階に上がってきたので…まるでオレ達に聞こえる様に戸を叩いたのは何故ですか?なんで、あの時…オレ達にはあなたが彼女の名を呼ぶ声が聞こえなかったんでしょうねぇ…ずっと声をかけていたんでしょ?」
「…そ、それは、呼びに来たから急がそうと思っただけよ。それに、彼女に聞こえるぐらいの声で呼んだからよ」と、梨果は笑う。
「じゃ、なんで…髪が塗れたまま着替えたんですか?」
「あら、髪が乾ききって無くても着替える事だってあるんじゃないかしら?」
「本当にそうでしょうか?あなたの行動はどこか不自然です……」
「そうかしら?」
「あなたは…樹里さんが亡くなった時、どこに居たんですか?」
「どこって・・・わ、私の部屋よ」

「・・・・本当にその部屋に居たんですか?・・・・」
「!!」一瞬、彼女は動揺した表情を見せる
「…本当は、…樹里さんの部屋にいたんじゃないですか?死体と一緒に」

「!!!」ワタルの言葉に梨果は平静を装うが間違いなく動揺していた…。

目暮はワタルの言葉に付け足す様に
「…もしも、彼の言う通り根本さんが、死亡推定時間に被害者の部屋に居たとすれば…迂闊な事をすれば、被害者の部屋に居た事がバレるかもしれなかった。」
「ベランダから、自分の部屋に移動しようにも自分の部屋の窓を開けてなければ、アウトですね。」と毛利も言葉を付け足す
目暮達も、彼女の動揺する様子に気が付いていたようだ。二人の言葉で、みんなも納得できた。

「衝動的に彼女を殺したあなたは自分が返り血を浴びてる事に気が付く…このままでばれてしまうと思ったあなたは、シャワーで体に浴びた血を洗い流した……指紋はそこら辺にあるタオルなどで拭けば良い…ただ慌てていたんでしょうか、栓をしっかり閉めてなかった…だから、シャワーから水滴が落ちていた。」

「なんで、シャワーを使ったんだってわかったんだ!!」驚く目暮達
「樹里さんはこれから風呂に入ろうとしていた…風呂に入ろうと思ったら普通どうします?」
「湯船に水をためようとするだろう…」二人とも「あっ!」と言う顔をする
「そう、もし、樹里さんが栓をしっかり閉めてなかったのなら、蛇口のほうから水が出てなければおかしい。シャワーから水滴が落ちていたって事は、それは、つまり…シャワーが使用された証拠です。ましてや、これから風呂に入る人が服のままシャワーを使うなんて普通、ありえない事だ…それにあの部屋に誰かが侵入したと言うなら、その誰かは早く逃げないといけないのに流暢にシャワーを浴びるわけが無い!!」
「あ、ああ。その通りだ。」

「で、シャワーで血を洗い流した梨果さんは、床の零れている水をごまかす為に樹里さんを湯船に入れた。…死体がある部屋にいつまでもに居るわけにもいかないし、血がついた服や裸で部屋を出るわけにはいかないので、あなたはとりあえず樹里さんの服に着替え、あの部屋にあったドライヤーで髪を乾かそうとした。…この行動は、気が動転していたか。ドライヤーの音をさせる事で樹里さんがその時間生きていると見せかける為だったかのどちらかでしょうけど。」
「でも、髪の毛は?部屋で、彼女の髪の毛が発見されたら?」と毛利刑事が尋ねる。
目暮が毛利に言う「被害者は友達なんだぞ!…部屋に入った事があるって言えば、髪の毛が見つかっても根本さんは容疑者から外される可能性の方が高い。」
「なるほど!そうですよね」と、毛利は相槌を打つ。

「後は柄原さんと柊さんが夕食に一階に降りるのを待つ…二人が降りたら、あなたは樹里さんの部屋に鍵をかけて自分の部屋に戻り、自分の服に着替え。そして、誰かがニ階に来た時に樹里さんの部屋を開けさせる口実を作った。そして、彼女の部屋に鍵を戻せば密室の完成って訳です」
ワタルはトリックの解明をして
「たぶん、樹里さんの服を来てこの部屋から出ようと服を探している時に、この事件を強盗の仕業に見せかける事を思いついたんでしょうね」と、意見を付け足す。

「そんなの、あなたの推測に過ぎないわ!!お風呂入っていただけで犯人扱いされるなんて、たまったもんじゃないわ!」
梨果の反論に…ワタルはため息を付くと、優しげなのか…悲しげなのか、よくわからない複雑な表情を浮かべる…。
「出来れば…このまま自白して欲しかったんですけど…仕方ないですね。」そして…ふと、ワタルは決意をしたような表情を見せる。

「体に浴びた血は洗い流せたかもしれないけど…血の形跡がついた服の方はどうなんでしょうね……」
「!!」
「まだ、あなたの部屋にあるんじゃないですか?…あなたが彼女の血の付いた服を捨てたりする時間は無い…それに自分が犯人とバレる可能性がある証拠品は簡単に捨てる事ができないはずだ!…なんなら、今すぐ、警部補さん達にあなたの部屋を捜索してもらいますか?血の形跡がついた服が部屋で見つかれば、あなたには、もう、言い逃れは出来ません!!」

梨果は床に膝をついた。
「…ま、負けたわ…ダテに刑事志望じゃ無いわね…そうよ私が樹里を殺したのよ。」

「ト、トメさん!!根本梨果さんの部屋を調べて下さい!!」と目暮がニ階に居るトメさんに指示をする

「でも、どうして…あんな事をしたんですか?」
「あの女がずっと憎かったのよ……私の前で、私から奪った男の事をさも迷惑してると話する…あの瞬間、それが衝動的に殺意に変わってしまった。ただ、それだけ…」
梨果の部屋から、血の形跡のついた服などが見つかった。そして、事件は一気に解決する。

 

6.過去の大団円

「しかし…、高木君だっけ、君、見事だったよ!…ホント、見所あるよ。君が警官になるのが楽しみだ。」
と言いながら目暮は嬉しそうに笑い、高木を誉めるのであった。
「…あ、ありがとうございます!」ワタルは思わず、目暮に礼を言う。

毛利刑事は
「高木、頑張って、オレみたいな良い刑事になれよ!」
「はい(いや、それは無い)」
そして、ばん!!と毛利刑事に背を叩かれ、思わず「ゲホッ」とむせるワタルだった。

そして、「2時間物みてぇだったよな・・・ワタルすげぇじゃん!」と幸彦と修は感心したのであった。

これが…卒業旅行事件の全貌である。

後日わかった事なのだが、梨果さんが樹里さんに奪われたって男は…実は、今で言うストーカーだったらしい。樹里さんにかなりしつこく付きまとっていて…しかも、どうやら、あのペンションの近くまで来てたらしいとか…それを後で知った時は、マジで怖かった。

 

その後、ワタルは警察学校を無事卒業して警察官になり、それから、所轄の刑事となり、ある時、目暮警部(この時には警部に昇進)に再会。

「目暮警部。そう言えば、毛利さんは?」
「毛利君はあの後すぐに止めたんだ。今は、たしか、探偵をやってるはずだ。」
「へぇーそんなんですか。探偵ですか。」

そして、その後、ワタルは本庁入りし、今は、警視庁捜査一課強行犯三係の私服警官となったのでありました 。

 

7.思い出語り

「あの刑事を見てたら、お前の将来心配になったよ」

「そうそう、名探偵の毛利小五郎!知ってるよね」
「うん、よく新聞で顔を見るな」
「どっかで見た事あるって思ってたんだけど…あれって、あのヘボ刑事なんだよ・・・オレ嘘だろって思ったぜ」
「マジでー?あのヘボ刑事が、名探偵?」
「信じらんね−よな」
「うん…あれを見てたらな…うーん不思議………あ、わかった!!宇宙人に操られてるに違いない!!」
「それありかもしんね−な」

「お前らなぁ!!んな訳ねーだろ!!あれはみんなを油断させる為の作戦…たぶん、あの時もそうだったんだ。オレが解く前に気がついてたんじゃないのかなぁ」
「そーなのか?あれ、マジっぽかったぞ。」
「お前、騙されてるんだよ、きっと誰かがコントローラー持ってるんだぜぇ」
「確かにたまに神懸りかなぁ・・・・って、なんでだよ!!…ったく、お前等かなり酔ってるな。」

「酔ってねーよ」とか言いながら二人は呂律が少し回って無い

「でもさー。あの時のワタル見たら。こりゃあ、間違い無く、警視庁捜査一課の刑事になれると思ってたぜ。」
「オレなんて、まだまだだよ。」

幸彦と修をタクシーに乗せて、
「じゃな、ワタル。ヒマな時にまた飲みに行こうぜ」
「ああ、じゃな、幸、修。じゃ、運転手さんよろしくお願いします」

タクシーが遠ざかるとコートの高木は外の寒さに気が付き少し体を震わせる。

 

「…あの時、あの事件で出会った、目暮警部の部下になったなんて、これも縁なのかな。」

彼は、縁って言うモノの不思議さを思うと、軽く微笑んだ。

FIN

後書き:どうでしたか?解決編は…意外に単純なトリックでしたが、高木君に事件を解かせる事が出来ました。なんとか展開に無理はないかな?
学生時代に目暮とかに会ってる可能性もあるかなーって(笑)こーゆう事があったら…本庁抜擢も早くなりそうだし…目暮に世話になってたら尊敬するだろうしと考えた訳です(^^)
(゚_゚>)やっぱ、彼が元所轄の刑事だったって事にしたいなぁと…(^^)あ、元所轄なら…アニメ257話で「本庁の高木さんが来たから…」って言われてたのも、うなづけるかも(^◇^)