棋力開発

 10 石の重要度は時期で変わる
   A カナメ石をいつまで攻めるか
切断と連絡に重要な役割のカナメ石が大切なのは当然なのですが、カナメ石を取りに行った場合、どこまで、何時まで追及するかの判断は難しいものです。方法、時期を誤れば悪い結果となります。

<右上>
Q16のカナメ石を黒がうまく追求して、良い結果を得た例です。
但し、こうなっては白が悪過ぎるので、白2を手抜きして、他を打った方が良いと言えます。

<左下>
Q16のカナメ石の追求が不足した上に、深追いしすぎた為白に好形を与えた例。
黒15がカナメ石の追求不足の手、白16とアテられて黒17とツグのは白18と押されます。以下、黒19と切っても、最終的に白の好形になりました。
尚、白16のアテに対しては黒はB5に抜くのが良い。この場合、白は何らかの備えをするだろうから、黒先手の分かれとなる。但し、その場合でも、右上の分かれには相当劣る。
 10 石の重要度は時期で変わる
   B 終盤では要石の転変が多い
序中盤では大切なカナメ石重視の考え方は、中盤後期から、地優先に切り替える必要が出て来ます。具体的に何時からかは、碁形によりますので、対局者が正しい判断をすることが大切です。

黒1に対して、白は白J5の石が要石と判断して、白2と受けました。
以下、必然の手順で黒15まで進み、白が大きく取られる結果となりました。
白16以下は取られていることの確認です。
白がJ5の石を要石と判断せず、白2と打てば、この白は安泰で、上図の様に黒勝勢とはならず、これからの碁でした。

序中盤では要石を取られることが、その後の着手に大きな影響を与えますが、中盤後期以降では、要石を取られても、その後の着手への影響が少ない取られ方というものが有り得るので、こういう考え方も出来る訳です。要石を取られても店じまいをすることが出来れば、取られるのは恐くないのです。

将棋では、序終盤は駒得が優先されるけど、終盤ではスピードが優先されます。そして、その切り替えの時期に対する判断が難しいのと、よく似ています。


棋力開発

 11 無駄のないアタリもある
   A 今でなければ利かないアタリ<
今までは、アタリは切り札だから保留するという考え方を説明してきました。しかし、そうでない場合もあることを理解して下さい。
アタリは相手の着手を強要することにより、相手の
1.石の進路を歪める
2.石の形を崩す
3.石を捨てにくい形にする
等、効果的に使えばさまざまな利得があります。

アテをどのタイミングで打つかもよく検討の上打って下さい。

<右上>
高目定石です。黒がアテを効果的に使った例です。

<右下>
黒9で単ツギだと、ほぼ互角の戦い。

<左下>
黒21とアテ、白22のノビワ待って黒23とツグのが手筋です。
この結果は黒有利です。

<左上>
白やむなく白32のハネを打って隅の地を確保。
ポンヌキが気持ちよい形です。 。
 11 無駄のないアタリもある
   B アテるアテ、アテないアテ
アタリを掛けることが出来ても、アテが良い手なのかどうか迷うケースが多いでしょう。後のことを考えて打つのですが、一方からアテを打てば、他方からのアテは打てなくなるということが着手選択の目安となります。

<右上>
星の石からコゲイマガカリの石にツケていく定石です。右下の白32のシチョウが成立する場合に限り、この定石が成立し、シチョウが成立しない場合は、白の無理な形です。 いくつかのアタリが打たれています。その意味を説明します。

<右下>
白32のシチョウが成立しない場合は、黒はこの様に打てば有利。

<左下>
右上白6のアテを打たないで、白34と打つと、黒35のノビ打たれて、白不利。白36、38を打てても白不満です。

<左上>
白12のキリ(アテ)を打たないで白40のツギは黒41となり、後の白E13オシの効力も小さくなって白不十分。。
<右上>
前図白14のアテを打たずに、白1は黒2と変化されたり、地の得なS19があり、白面白くない。

<右下>
黒6と切る手で、黒4と先に切るのは、白7、9で黒6、8の石が取られ形。

<左下>
白12にアテないで、単に白11と取ると、黒12とノビられ、黒F2 等が利く関係で、白G4の石を逃げるのは良策ではない。

<左上>
白B19で白13は後に黒16のアテがあり、良くない。

<右上>
(再掲)白1のハサミツケは好手。

<左下>
ハサミツケで黒7と切ると黒の地が得ではあるが、白4と白12と比較した場合、白12の方が1歩中央に近い分、中央での戦いに有利です。多少の地より、中央の戦いが大切。
尚、細かいところでは、白D1の押さえに黒ツゲない形です。


棋力開発

 12 気付かぬコリ形に気を付ける
   A 石の効率の悪い形はコリ形
コリ形はダンゴ、空き三角等不要な石が打たれた状態のことをいいます。石の働きが悪いと、全局的な不利を招きます。50%の働きの手を序中盤に2手打てば、置石1つと同じことになります。 <右上>
白の形は二立三析の理想形です。

<右下>


<右下>
理想形を打たせた黒1は悪手です。。

<左下>
黒3はツケオサエ定石と言って、空き三角が出来ていますが、良い手です。白8で白C7はコリ形なので白8のサガリを打てば、黒9のキリがあります。
この局面で、白1と打ちました。二立二析だからコリ形だと、黒2、白3の交換をしたらどうでしょう。
結論として、この形は互角ということの様です。
確かに二立三析の理想形からは劣っているけれど、白3の石が右辺の黒の勢力圏の拡大を阻止する働きがあるから、というのがその理由です。
 12 気付かぬコリ形に気を付ける
   B コリ形は気付かなければ何度でも
コリ形というものは、対局者がそれを認識しなければ、何度も同じ形を打つことが考えられます。
江戸時代初期には石の働きの原理に明るくなかったため、当時の高手が何度も同じ間違いを繰り返したという歴史があります。 初中級では、同様の間違いをする可能性は高いものです。
自分の経験でいうと相手の2線の石を取れれば有利だと考えていたことがあり、2線の石をひたすら、取って、3線のアテをくらっていたことがあります。今となっては懐かしい思い出です。

白 本因坊 道策(石の働き=手割を解明した大名人)
黒 安井知哲

下辺の黒がコリ形。知哲がこの形は黒が悪くないと考えて、何度もこの形で負けた様です。
呉清源九段によると、黒25が悪手で、この手で、黒C11と打つべしということです。


棋力開発

 13 発展の急所に注目
   A 一間トビとボウシ
石の発展には横(ヒラキ)と縦(トビ)があります。
ヒラキ
 盤端に沿って横に発展し、根拠や地を獲得
トビ
 中央に飛び出して縦に発展すれば、
 勢力拡大を含んで戦いに強い形になる

その妨害にはハサミ、ボウシがあります。
ハサミ
 ヒラキを妨害して、根拠を奪う
ボウシ
 一間トビを妨害して、中央への発展を妨害
ヒラキ、一間トビ → 好形
ハサミ、ボウシ  → 好形の妨害

白1 ハサミにより、黒への攻めと下辺の根拠確保
黒2 封鎖の防止、自石の強化
白3 封鎖の防止、根拠(地)のを確保
黒4 白の横の発展の妨害、右上に勢力圏の構築
白5 縦に進出し、封鎖の防止、反撃狙い
黒6 中央へ逃げながら、白2子の封鎖を狙う
白7 封鎖を防ぎながら、下辺の地を増やす
黒8 封鎖を防ぎながら、白の中央発展の急所を占拠
白9 封鎖を防ぎながら、黒4の攻め
黒10 右上の勢力圏の拡大、白の根拠を奪う
好形の妨害 → 白1 黒4 白7 黒8 
白1の手は

1.中央への進出
2.右辺の2子の補強
3.白N4からの切断

という一石三鳥の好手です。黒2と受けさせ、白3、5と上辺に根拠を得れば、3ケ所の隅の地が大きく優勢です。

尚、白1を一路右のO8に打つと、黒はM8に打ち、白優勢なにはなりません。
白は必争のL8を打たずに、上辺白1、3と打ったらどうなるでしょうか。

黒4でボウシを打たれ、下辺が大きくなりすぎるので、白5と打ち込まざるを得なくなりました。
左下の白に対して先手で黒14を打たれ、黒16と右辺を攻めながら、中央を黒の勢力圏にする手を打たれました。

今後の展開で、右辺の白を生きる手が右下の白地を小さくしたり、中央の模様を大きくしたりすることになり、白はっきり非勢となります。
 13 発展の急所に注目
   B 強弱の急所、勢力圏の急所
自石の発展が相手の発展を妨害すれば、二重の働きになります。横の発展ならどちらがヒラくかということになります。
ここでは縦の発展に焦点を絞ってみます。

黒1が石の強弱に関した発展の急所です。
M14のキリをカバーしながら、中央の白の攻めをにらんでいます。両方の石が弱い局面では発展の急所の価値が倍増します。
黒1も下辺の黒1子の補強と白2子の攻めをみて好点ではありますが、それ以上に白2以下、黒5まで決めた後の、白6がお互いの発展の急所で、M14のキリがクローズアップされ、黒7、白8という下辺や左辺の戦いに白がプラスになる交換を打たねばならないことになりました。
上図との差を比較してみて下さい。
勢力圏の発展に関する急所もあります。それが両方にとっての急所なら、二重の働きになります。いわゆる「模様の接点」です。

<黒が双方の模様の接点に先着した場合>
黒1のオシから黒3、5と打てば、右辺から中央の黒模様が大変大きくなり、白模様が制限されます。
<白が模様の接点に先着した場合>
黒が目先の地の確保のため、黒1と左下の地を守りました。この手によって白の根拠が奪われるなら、双方の根拠に関する接点なので大変大きいのですが、この碁では、白は下辺が厚く白の根拠は確保されています。

白は黒1に手抜きをして、白2から白6までを占め白模様を拡大しつつ、黒模様を削減しています。

上図と比較すれば一目瞭然です。
左下の差は20目程度。中央の差は50目程度でしょうか?
一寸計算しにくいですが、する必要も無い程の大差だと思います。


棋力開発

 14 クサッた石はしばらく無視
   A クサった石の判別法
大半の働きを失った石を「クサった石」と言います。クサった石はしばらく無視することが必要で、すぐに動き出しては不利になります。

クサったと判定された石の例示
<右上>
黒1により、白1子は、身動き出来ません。

<右下>
白2と打ち黒3と替わりました。この手は定石にある手で、お馴染みだと思いますが、この白2も打ったばかりですが、クサっています。と言うよりは、利かした石は軽く見るということです。

<左下>
黒5が本手。この手で、黒K5等と打っても、白F2、F5等で下辺は地になりません。

<左上>
黒D19でワタリが無いので、このままでもクサっていますが、打つとすれば、黒F16ではなく、黒7、9です。


しばらくは無視するのですが、いつ目を向けるかと言うと、
1.中盤 クサった石が逃げることによって、
     攻めが見込める様に状況が変わった時
2.終盤 逃げることが、他のヨセより、
     大きなヨセとなった時
ということになります。
<右上>
黒1と打って白をクサらせた後に、黒3と迫る手が黒5、7を見て、上辺に進出できます。

<右下>
黒O4と打っておかないと、白8から12で動き出す可能性があります。

<左下>
白14に対しては黒C7 のキリは悪手です。黒15以下21までで、黒良しです。

<左上>
白としては、白22から白24が筋です。しかし、黒25でのワタリもあり、たいしたことはありません。また、白26に対しては、黒D15にツグ手はありません。こういうところ(D15)は白に打ってもらいたいところです。

 14 クサッた石はしばらく無視
   B クサらせるかクサらせないか
相手の石をクサらせるにも効率を考える必要があります。
クサらせるか、クサらせないで戦うかは全局的に考えて判断します。

<右上>
黒1はK16との幅がやや狭いけど、十分価値のある手です。

<右下>
黒3は黒Q9との幅が右上のケースより狭いので、黒3はコリ形ということになります。

<左下>
黒が手抜きをした状態からだと、白4から白8までで、白が地を稼ぎます。これは、あくまでも、白が後手で地を稼いだ訳です。
(白が取る手、黒がツグ手によってどちらかの石が弱くなったり、強くなったりはしないので、)黒の2子取りはヨセの手で、中盤で黒がD5にツグ手は悪い手です。

<左上>
白10に対して、黒11とワタリを阻止する手もあります。
左下がこの様な形だったとすれば、白10は攻められる石をわざと作ったことになり、良い手とは言えません。
つまり、黒10に打ってクサラせるのでなく、この様な形にもっていくことが出来れば、コリ形を避けながら、白10を防いでいることになります。
<右上>
黒1が古来からの定石です。白2とハネれば、黒3と切って、黒5とノビを打っても黒十分戦えます。

<右下>
現代では、置碁でも部分より全局を重視し、黒7が推奨されています。白1子が動き出しても十分戦えるし、この方が大きな勢力圏を作れます。

<左上>
白からこの勢力圏で動き出す手は、白8から白16と打ちますが、今度は左下が黒の勢力圏になります。