隠居さん、おせーてよNO−8 八 ご隠居さん、写真の構図は難しいです。 隠 いよいよ構図に入ったか。 八 遅まきながら。 撮った後から「よい構図は」って考えたって、それこそ後の 祭りじゃないんですかい。 隠 撮るときに構図まで気にして撮ってるんならいいが、 さもないとプリント時考えるしかない。 熊 構図って詰まるところ何なんですかね。 隠 構図は図を構えると書く。 安定感のある画面のことだが、安定感が在ると言う事は均整が 取れているということじゃ。 熊 よく本に線がかいてありやすが、線なんか撮っていない。 被写体の輪郭の構成する構図、マッスの構成する構図、 中心の視点を繋いで構成する構図など、ちと難しくなってくる。 具象から抽象線を導き出す方法に、絵ではカンディンスキーの 構成線抽出が在るが。 八 昔から構図として云々されてきた黄金分割とか、あれは画面の 縦横比の事ではないんですかい。 隠 絵では枠の形が風景、海景、人物用と決まっている。 縦横比は人物(F)に近い。 あんまり均整が取れてしまうと、かえって視線が入ってゆかない。 むしろ定型を破ることも必要だよ。 パノラマサイズやフィッシュアイのサイズがかえって斬新に 見えるのと同じ効果。 八 雑誌で見たことがありやす。 隠 余り既存の構図に囚われずに、むしろ見せたいものをはっきり させる事が重要。 最近はむしろ視覚心理学がうたわれている。 八 難しいですな。 隠 難しくない。人間に嫌でも備わっているものだから。 熊 例えば。 隠 例えば、画面に半分しか写っていなくても、全体を想像し 補完しようとする。 熊 もっと易しく。 隠 山は高いと思うし、空は大きいと思っている。 花は太陽に向いていると思っているし、光は左上から当たっている と思っている。 こうゆう概念から外れていると状況の説明が必要になってくる。 八 …。 隠 視線は左下から導入し、目立つもの、明るいものを辿って 斜めに上って行く。 そのままだと視線は右上から抜けてしまい、感動は残らない。 熊 いかに視線を止まらせるか。 隠 それが問題じゃ。 ちょっと気になって戻り、くるくる回って抜けてゆかない 工夫がいる。 八 方策は。 隠 S字カーブ のの字構図 放射構図、収束構図 トンネル構図 いろいろあるが、むしろタブーとされる構成を避ける 気持ちが必要か。 八 タブー?。 隠 昔の構図の基本にあるのは、今はダサダサ。かえってタブー なのじゃ。 日の丸弁当、画面の水平二分、斜め二分、七三分割。 熊 具体的な写真があれば分かるけれど、文章だけでは分かりにくい。 隠 まあ、本でも買って勉強しなされ。 熊 …。 隠 いずれにしても、写真は絵画より現実的なものだけに、 あまりにも荘厳な感じだと安心して画面に入り込めないもんじゃ。 すこし崩れていると安心して視線が入ってゆける。 熊 厳密な法則は無い?。 熊 視覚心理をもう少し。 隠 色による感情半が一番簡単。 青い色の系統は冷たく寒い感情を抱き、赤色系統は反対に 暖かいイメージである。 八 青系統は理知的、赤系統は情熱的。 隠 そう。 配色についても日本人はデリケートな感情をもつ。 平安の昔から重ねの基本が幾つも在って…。 端的にいうと反対色の配色は目立つ。 隠 目立つと入っても補色の関係ではいらつかせる。 熊 補色って?。 補色とはまぜ合わせると灰色になる関係。赤と黄緑、紫と 黄色など。 隠 同系色の配色は品がいい。 八 難しい…。 隠 自分のネクタイを選ぶときは、背広に合わせたり、帽子を 考えたりしてるくせに。 熊 同じ事でスカイ。 隠 違うことなんかありゃせん。 熊 他には 隠 知らないもの、見たことのないものには注目する。 ありふれていない色にも注目する。 八 わかるような気がする。 隠 社会派では協調するような内容を受け入れる。 熊 主役と脇役って?。 隠 主役は良いとして、脇役は引き立て役でもある。 たとえば、綺麗な牡丹の花が主役であったとする。 その牡丹の木は他にも花が付いているのか、蕾も膨らんでいる のかなどの状況説明があったほうが良い場合もある。 そんな時脇役が必要になってくる。 八 必要でも主役を越えてはいけない。 隠 その通りじゃ。 脇役をたくさん作り過ぎても、主役を越えてしまうほどの力 になってしまってはいけない。 隠 脇役といっても状況説明の材料の場合には力の配分が微妙になる。 例えば前景にコスモスの花が咲いている。バックに初冠雪の 富士山が写っている。 主役はコスモスだが、富士山はどんなに小さく写しても 日本一の富士の山である。 初冠雪の富士山となればなおさら強い。 これに対抗するコスモスは並のみ撮り方では負けてしまう。 思いっきり大胆に鮮やかに扱わなければ主役足り得ないわけじゃ。 八 中途半端ではどうなってしまうので。 隠 画面を二分してしまう。 二つのテーマの主役がお互いに牽制しあってテーマを逆に 弱くしてしまう。 せっかくのチャンスも印象に残らない結果になってしまう。 八 左様で。 隠 この手合いが一番多い失敗例と思うんじゃ。 この二つの引き合いは綺麗な色のマッスでも起こるし、 明るい部分でも起こる。 八 …。 隠 それから、 綺麗な名所旧跡や広い所にでたとき、何でもかんでも取り 込んでしまう場合に起こる。 広い場所、綺麗な場所に限ってなにを主役にすえるか良く 考えることじゃ。 そんなにいいもんがたくさん在るなら、それぞれを主役に 据えた場面を何枚も撮ればいい。 熊 そういえば山に登ったときなんか、ここぞとばかりに 撮り捲るけれど、後でなんとも力の無いものが多いことか。 自分はその原因を、自分で見たと同じ大きさに引き 伸ばさなければ、同じ感動を得られないと思っていた。 そんな事は不可能なんだから、小さな四つ切りで見せられる 工夫がいるって訳ですな。 隠 それが構図って解釈すればいい。 熊 ありがとうござんした。 隠 じゃまたあしたおいで。
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