隠居さん、おせーてよNo.4 八 ご隠居さん、いよいよレンズでも仕入れようと思っているんで、 ちとばかり知識を仕入れにめえりやした。 隠 そーかい。お土産なくても顔を出してくれるだけ嬉しいよ。 熊 レンズは焦点距離によって画角が違うのは良いとして、 どうし105mmと135mmとか、少し半端じゃないですかい。 隠 あれは昔の名残でな。 キャビネ暗箱の標準レンズが135mmだった。 手札が105mmもっともインチでいえばちゃんと整数になる。 八 昔のレンズは距離もフィートだった。 隠 フランスで発明された名残。 熊 こう種類が多いんじゃ画角なんかとても覚えられない。 隠 画角はフィルム面の斜め差し渡しをベースにしているんじゃ、 あんなものは覚えんでいい。 人間の目は平らについているから、ものごと水平にしか考え られない。 水平の画角でなきゃ意味がねえ。 八 久々に鼻息荒いですな、血圧に良くないすよ。 熊 分かりやすいのは魚眼の180度だけか。 隠 魚眼だって全天周魚眼と対角線魚眼がある。 あの丸く写るやつ、あれはどこでも180度だが、 最近は対角線魚眼が多い。天地左右は180度以下。 ところで何を買おうとしてるんだい。 八 迷いに迷ってるってとこでさぁ。 隠 迷いな。それも楽しみの内よ。 熊 望遠と広角とどちらを先にかうべきか。 あるいは流行のマクロレンズってえやつを仕入れるか?。 隠 レンズは目的があって買う訳だから、まず先に何撮るの 決めれば自ずと決まってくるというもの。 広角は主題を近寄る事によって主題を大きく、 雰囲気は小さく表現できるから、めりはりが付く。 その代わり、うっかりするとみんな小さく写って何を撮った のかも分らなくなってしまう。 逆に望遠は圧縮されて遠近感が無くなり、遠くを引き寄せられる 代わりにフラットになりやすい。 熊 みんな先に望遠を買っている様ですが、ありゃ、人間の本質?。 覗くのが潜在的に好きだから。 隠 そりゃ、熊さんだけじゃないかいな。ハハハ。 最近はドーナツ現象というか、超がつくレンズをいきなり 使う人が増えているようじゃ。 標準レンズをもっと使いこなさなくちゃ。 八 標準レンズは人の眼に優しい。 隠 マクロレンズってやつは意外とおもしろい。望遠にしろ マクロにしろ人間の眼より優れているからおもしろいと いえるんじゃないかい。 八 マクロ付きズームとマクロレンズはどう違うんですかい?。 隠 ニコンはマイクロ(微小)といい、他はマクロ(巨大) といってる…。 普通のレンズはインフィニで諸収差を最良に設計するけれど、 マクロレンズは1:1くらいの倍率で諸収差が良くなるように 設計する。ま、被写体に近付けるレンスといった方がいいか。 ズームはレンズ系を移動する関係でレンズ群の位置に因っては 近くにピントを合わせられる。 ズームの距離合わせは前球繰出しによっていて余り近寄れないが、 最近は単に近くによれるズームもマクロといってるようじゃが、 違いは歴然というところか。 熊 クローズアップするのにベローズやリングを使って普通の レンズで撮るのとどう違うか聞こうと思ったら、 今の説明で分りやした。 1:1以上のマクロレンズは無いからベローズがある?。 隠 ちょと違うな。ベローズ用の専用マクロレンズもでている。 八 マクロも50ミリと100ミリとではどちらがいいか。 隠 被写体とレンズの鼻先までをワーキングディスタンスというが、 焦点距離が長い程多く取れる。 短いレンズは軽くていいが、あまり近付くと腹這いにならなきゃ ならないし、公園の柵には入れない。 何を一番得意にしているかによるな。 八 レンズの種類も多いけど、メーカー毎にマウントが違うのも 腹が立ちますな。 隠 おれんちのレンズが一番という奢りから、カメラメーカーは 自分でマウントの互換を絶ってしまった。 もっとも、昔プラクチカというマウントを国産の数社が 採用した時期があったがバヨネットの良さに消えてしまった。 コンピュータでもIBMがインタフェースを公開し オープン化が始まった。 カメラは公開しなくたって測れば分るんだから、 一番いいのを使えばよいものを、メーカーのプライドが 許さないと…。 だけどそのつけは来てしまったようじゃ。 いまは、どのカメラにもあうレンズをつくっているレンズ 専業会社の方が品質もいい。 だいいち、カメラメーカーでは内作できなくて、レンズ専業会社に OEMで製造委託しているのが現状。 熊 いっその事、大型レンズのように、全部同じマウトにせよと JISなんかがお触れを出すべきじゃないか。 隠 まあまあ、押さえて。大型だってリンホフのボートだし、 なんたって使うのはわしら何じゃから。 熊 このさいついでに、あっしでも買えそうな特殊なレンズも おせーて下せい。 隠 そうさな。 超望遠にミラーレンズがある。レフレックスといってな。 ボケがドーナツ状になってうるさいが、何たって長さが短い。 それに、色収差が無いから解像力もいい。 八 収差ってやつが良く分らない。 隠 ザイテルの五大収差って学校でならったろうに。昼寝こいてたか。 色収差、コマ収差、非点収差、球面収差、歪曲。 熊 EDってレンズが色収差を改善したと書いてあった。 隠 色収差を軽減する為に、昔からクラウンガラスと フリントガラスを組み合わせた色消しレンズという奴が幅を きかせていた。 ところが完全には取れない。 ホタル石を使って、より補正したアポクロマートってのがあったが、 すげえ高価でとても庶民の買えるものじゃなかった。 最近いいガラスができたようだ。 いずれにしても松茸ぐらいの値段がする。 328が1Kgとして30マン、グラム300円。 そこにゆくとミラーレンズは安くて超望遠が味わえる。 ソフトフォーカスレンズってのもある。 いまでも、「ベス単フードはずし」なんてことに血道をあげて いるやからもいるくらいじゃ。 八 ベスタン?。 隠 左様。コダックベスト単玉という古〜いカメラのレンズ フードを外してやると、不思議なソフトフォーカスの 世界が広がる。 中古カメラ屋にゆくとレンズが外されたベス単の残骸を 時々見掛ける。 ベス単ってのはわしが小学生のころの売れっ子カメラだった。 これに似せてソフトフォーカスレンズがでている。 ムード派にはいいね。 熊 ピンホールカメラもソフトフォーカスみたい。 隠 ピンホールはレンズがないが、あれもレンズと同じカナ。 真円でいいピンホールをつくのが勝負。 ついにピンホールが市販されはじめた。 八 シフトレンズってのは?。 隠 レンズの中心線をフィルムの中心からズラせるレンズ。 それだけシャープに写る範囲を広げなければならないから、 値段も高くなる。オートもきかない。 八 なぜそんな事をするんで。 隠 建物を見上げて撮ると上が窄んで写る。 人間の眼も多少その気があるんだから、不自然じゃないんだが、 建築写真では困る。 どんなレンズでも垂直に構えれば窄まないんだが、 しゃくり上げるから窄んでしまう。 このレンズをティルトの代用としてパンフォーカスにもできる。 熊 テッサータイプとかガウスタイプとかレンズに型があるよう でがすが…。 隠 レンズの歴史に足を突っ込みはじめると、抜けなくなってしまうよ。 この次にしよ。 あたらしいレンズならどれも同じ様に綺麗に撮れる様になった。 昔はアレコレいってたが、神話は神話のままがいいと思うよ。 熊 ありがとうござんした。 隠 じゃまたあしたおいで。
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