八っあん熊さんのカメラ教室01


八 ご隠居さん、今日は絞りとシャッターについておせーてよ。
隠 八つぁん熊さん、そろってどうしたい。
  どでえ絞りもシャッターもカメラ任せじゃあ
  ねえのかい。
熊 ヘェそろそろカメラの基本ぐれえはしらねえとTPCの
  沽券に係わるってえもんで。
隠 そうかい。良い心掛けだが生兵法は怪我のもとだぜ。
八 承知の上でえ。
隠 カメラの基本は人がいじれる部分だから、絞りとシャッター、
  それに距離を合わせる機構と、八つぁんのでえすきな覗きの部分。
  あとはレンズだけ、すなわち五つ覚えればおしまい。
  簡単なもんさ。

熊 じゃ、先ず絞りから。
隠 ところで八つぁん。絞りの役目って何か知ってるかね。
八 そりゃ、常識。
  光の量を増減してシャッターと組み合わして露出を決めるに
  きまってらぁな。

隠 それを言うなら光はふやせねえから、光を減らして行ってだが、
  まあ、それ以外にだな。
八 まだあるんですかい。

隠 ひとつは、ピントの合う範囲を決める、被写界深度を決める
  為にある。
熊 何ですか、その非行深度ってのは、
隠 非行じゃない、被写界。距離メモリの反対側に絞値の範囲が
  かいてある、あれさ。
  距離は対数目盛りだから、被写界深度の指標は距離指標の
  両側に等間隔で絞り値で目盛ってある。
  ピントの合う範囲を距離から読み取って絞りで決めるってわけだ。
八 プレビューボタン…。
隠 あれで確認も出来るが、基本としてはそらんじていなけりゃならん。
  もう一つは…。
熊 まだあるんですかい。
隠 ぼけの効果を決める。
  良くあるじゃろが、背景に六角形のボケがある奴。あれは伊達でも、
  しょうがなくでもなくて、画面省略、すなわち、うるさい物を
  単純な形でぼかして省略する、例の引き算のひとつじゃ。

  折角の省略も絞りの形がかえってうるさくなる場合もある
  くれぇだから、人によっては、絞り羽根の多い、丸いぼけになる
  レンズをわざわざ買う奴もいるくらい。
  開放にすりゃ、どんなレンズだって丸ぼけになるんだが。
  この二つの原理を生かそうとすりゃ絞り優先になるってえもんよ。

熊 ついでに、焦点深度って被写界深度と違うんですかい。
隠 折角合わせた距離でも、工作精度やフィルムの凸凹でピントが
  外れてしまっては元もこもない。
  高級カメラには備わっていると考えればいい。

  でもまちがっちゃいけないのは、ピントが合う事とシャープに
  写るっちゅうこととはちょっと意味が違う。
  業界できめられている、点が最小錯乱円の範囲に入ってている
  と言う事だけで、絞り込む程、解像度は回折現象によって
  落ちてしまうから、シャープな写真を作る目的なら、
  自分のレンズの一番良いピントの絞り値は知らなきゃいけねえ。

熊 でも、絞り込むとシャッターがなくなって…。
隠 そこじゃ。例えば露出計で計ったらEV10だったとする。
  付録の表から絞りとシャッターの組み合わせは

   1  1.4  2  2.8  4  5.6  8   11 16 22 32 64 90
     ・ ・   ・ ・   ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
    1K  500  250  125 60 30  15   8  4  2 1S 2S 4S   

  となり、この組み合わせのどれでも、同じ露光量になる
    わけじゃから、もしシャッター(速度)がなくなったらB
    でもいいわけだ。
  これを相反則と言うが、どこまでも続くわけではなくて、
    この法則に乱れが生ずる限界がある。
  フィルムによって違うがRVPで1Sぐらいから10%ほど多く
    しなければならない。
  これを相反則不軌と言うな。
  風景写真ではこの位までは知ってて使わないとな。

隠 じゃ、シャッターにいこか。
八 露出量を決める他にシャッターの役目ってあるんですかい。
隠 おおありよ。
  いわずと知れた動きを止める役目。逆用すりゃ、ブレを
    効果的に使って、スピード感、風などの空気感や時間経過を現す。
  ブレには彼写体ブレとカメラブレがアル。
  被写体ブレは効果的に使えるものだが、カメラブレは絶対に
    防がにゃならない鉄則。
  鉄則からいうと、三脚の柔い奴やケーブルレリーズを使わなかった
    などが原因出あれば、愚の骨頂。

  カメラ側のブレは、シャッター押してからミラーが上がり、
    ファインダーが遮光され、絞りが絞り込まれてシャッターが開く、
    この逆の道で終わるのが一連の動作だから、カメラぶれの原因に
    なるのはミラーが跳ね上がった後のショックとシャッター先幕が
  トリガーされるショック。

  一般には1/15内外が一番影響がおおきいといわれている。
  君子危やうしに近寄らず、そのスピードを使わなければ良い。
    ミラーアップすれば半減されるんだが。

  効果的に使う方だが、明るいバックに暗い物を流すと消えて
    しまうから、やるなら暗いバックに明るいものをナガすことジャネ。

  飛ぶ鳥をながしたのに何も写っていなかったなんて経験が
    あるじゃろが。
  実際にはこんな単純ではないと思うが、参考に。

         静止      流感       とろける

    渓流  125     8〜15       2s
    滝   250     8〜30       1s
    星    −     10m〜3h       −

    ソヨカゼ 60     4〜8         −
    烈風  250    15〜30        −
    雨   125     8〜15        −
    雪    60     2〜4         −
    花火    −       B         −

  シャッターにはフォーカルプレーンとレンズシャッターがあって、
    その違いだけは知っとく必要があるな。
    フォーカルプレーンで斜めに移動するものはひん曲がってしま
  うし、シャッター幕の移動方向に移動するものは伸びる事も
    知っといた方がいい。
  原理はテレビの画面を写真にとった事のある人はわかるね。

  それにシャッターの方式によって、ストロボを使う場合に
    シャッター速度の制約を受ける事になる。
  シャッターを優先させるか、絞りを優先するかは撮る人が
    決めなきゃいかん事だがね。

  三つ目は距離合わせの機構。このあたりは理屈ですぐ分かる
    から省略。直進ヘリコイドと回転ヘリコイドがあり後者の場合、
    折角あわせたPLフィルターの回転角がずれるから注意が
    必要くらい知ってりゃいい。

  それから鏡筒をたせば接写が出来るわけで、この場合の
    露出決定もカメラ任せだから、理屈なんか知らなくてもいい訳。
    近接ストロボを使う時だけは倍率によって絞り値を
  設定しなければならず、花屋や虫屋は知る必要ががあるな。
    簡易的には  

        鏡筒の長さ+焦点距離/焦点距離=倍率 と

  覚えておけばいい。わからん場合は物差しを置いて見て
    ファインダーで何mm見えるか知っておけばいい。
    横で10mm見えたとすると

   10÷視野率90%=11  36/11=3.3倍という訳。

隠 四つ目はファインダー。
  ファインダーで知らんならんのは視野率。大抵のカメラは
    90〜95%しか見えない。
  これはスライドのマウントや引き伸しの原板のキャリヤー
    などのケラレマージンで相殺されるから良いがだな、
    なかには90%程度しかない機種や、逆に100%を誇る
  機械もある。

  いずれにしても敵を知り己を知らば百戦あやうからずと
    言うところ。だって、はしっこの彼女の首が切れたりしたら、
    熊さん、沽券に係わるってもんよ。

  SLRは見えた通りに写りそうなものだが、最近のカメラは
    ファインダーを明るくする為と、オートフォーカスに託つけて
    ファインダーを実像系から空中像系にしたものがあり、
    この場合はボケが実際より少なく見えるから注意が肝要。
  もひとつ。カメラ構える時は、目の位置にする。
    折角目線で良い場所を見付けたのに三脚据えたらアングルが
    さがってしまったんではしゃない。三脚が短いときはしゃが
  んで三脚目線で探せば良いのさ。

隠 最後はレンズじゃ。
  わしらの目は超広角にみえているが、凝視視野は135ミリ
    くらいらしい。だから常用レンズを100ミリにして、
    その画角を暗記すれば、あとは倍数系列のレンズを準
  備すればが画角の想像が付く。

  もっとも熊さんのようにたくさんレンズを持っていると大変だが。
熊 お恥ずかしい。

隠 まあ、焦点距離によって画角がちがうのはすぐ理解出来るが、
  ムズカシイのはパース
  ペクティブの違いがつかめているかってことじゃが。
八 何ですか、パース…って。
  焦点距離の違いによって、距離の異いによって大きさが違って
  写る事で、広角ほど近くの物が大きく写り、望遠ほど遠くの物が
  大きく写ってしまう。
  これを効果として利用しない手はない。
  主役の大きさ、脇役のおおきさが、レンズによって違うのだから、
  撮影意図によって、レンズの選択がきまっくる。

熊 そうですかい。
  あっしは覗いて見てから、いい構図をさがしてパンし捲って
  いるんですが、間違いですかい。
隠 例ば、月を写し込む時、どの位のおおきさに写るかだが、
  100ミリのレンズで1ミリにうつると思えば良く、
  200ミリなら2ミリである。
  1000ミリなら1cm、2000ミリなら2cm、
  ほぼフレーム一杯になる。
  近い物はこうはいかないが、パースペクティブの違いは遠近感に
  つながり、望遠ほど遠近感がなくなってしまうものじゃ。
  最近のレンズは良くなったとはいうものの、レンズには前方
  180度から入り込む訳だから、実際に使われない光は鏡筒に
  跳ね返り、レンズ面で反射して、コントラストを低下させてしまう。
  高いレンズほど利くよこれは。だから絶対にフードを使わにゃだめだ。
  手がアイテりゃ更にハレキリをした方がいい。

隠 これで基本の五つを覚えた訳だから、あとは撮るだけ。
八 シャッターを押す時の心掛けは?。
隠 それよ!。大事なのは。
  チャンスが良かったら素早く1枚目を撮ってしまう。
  2枚目は松谷さんが作ってくれた「自己診断のポイント」
  これを思い出して、これで良いかなとと考えなおしてシャッターを押す。
  三枚目は、
  「おいそこの花よ。おまえはオレにどう撮られたいと思っているか」
  と聞いて見る。
  意外と返事をしてくれるもんさ。3枚目は八っあん、熊さんの感性のみ。
  もうマニアルはないよ。
  こんど良い写真撮ったら見せておくれ。
熊 ありがとうござんした。
隠 じゃまたあした。