ドリル 2 |
札幌にある、20階建てのビジネスホテルの1923号室。その部屋のドアの前に立つ僕はまだ、このドアが自分の運命を変える扉なのだとは予想すらしていなかった。 僕は小さな会社を経営している。業種はサービス業。法的には、無店舗型の性風俗関連特殊営業という業種に分類される・・・・・まあ、平たく言えばデリヘルと呼ばれているものだ。但し、ウチのサービス内容はその中でもある意味特殊だ。というのも、出張サービス業務を行うのは女の子ではなく全員が男性スタッフであり、また、出向いた先で性感マッサージと器具を用いて客に擬似的なセックスを体感させるのだが、そのサービスもアナルに重点を置いたものとなっている。僕がこんな商売に手を染めている理由を説明するのは面倒なので省くが、ありがたい事に口コミやリピーター、そしてちょっとした勘違いからウチを利用する羽目になった人達からの依頼は連日引きも切らずといった具合だったから、売上は右肩上がりで会社の経営状態は絶好調。お陰で代表取締役の僕も、今ではかなりの高額納税者だ。 そんな訳で、もともと東京都を中心に営業していたのが、顧客が増えるに従って営業エリアが拡大し、最近では北海道や九州、四国、沖縄といった遠方からの依頼も来るようになっていた。この日もすすきので2件の依頼をこなした後、ひとり立ち寄った定食屋で軽い夕食をとっていた僕は、夕方の飛行機で東京に戻るつもりでいたのだが、この時、僕の運命を変える一報が携帯に入ったのだ。
依頼の時間から5分ほど遅れて指定されたの部屋のドアの前に辿り着いた僕は、控え目なノックをしながらサービス終了時間と駅までの移動時間を計算し、帰りの飛行機は何時頃の便にしようかなどと考えていたような気がする。というのも、そのドアを内側から開けた依頼人の上司だという人物を目にした瞬間から、僕は一種の躁状態に突入してしまい、その前後の自分の記憶にいまいち自信が持てないからだった。 その人は、一言でいうならばそう・・・・・・まるで天使のようだった。艶のあるしなやかで美しい長い金の髪はシャワーを浴びた直後らしくまだ濡れていて、それが細い首や頬にひと房ふた房張り付いている様がなんとも艶めかしく、僕とした事がまともに直視する事さえできなかった。その髪と同じ色をした宝石のような瞳は強い意志を感じさせる光を放ち、僕の心臓を撃ち抜いた。そして長い睫毛、桜の花びらのような可憐な唇、ゆるく合わせたバスローブの襟から覗く白い肌、その布の上からでも分かる細い腰の線・・・・・・ああ、神よ!僕はこの世に生まれてきた事を今ほど感謝した瞬間はありません!! しかし、悲しいかな社会人。ビジネスはビジネス。口説くのはまた日を改めてする事にして、今は自分の業務に徹しなければ。僕は汗ばむ手のひらをハンカチでこっそり拭いつつ、その人の後について部屋へと足を踏み入れた。するとそこで天使から衝撃の一言が・・・・。
大人しくベッドの上で身体を伸ばすその人を怖がらせないよう、最初から性感帯を責める事は避け、時間をかけてゆっくりと身体を解していく。けれど初心なその人は、いつまでたっても身体の強張りを解かずに息をつめて怯えていた。 周到に合わせを解いていたバスローブを抜き取り、様子をみながら下着を脱がし、体中を掌で隈なく触れ、口付けを落とし、時にやんわりと歯を立てると、敏感な身体は逐一新鮮な反応を返してくれる。見たところ僕と同年代か、年下だとしてもせいぜい2,3年の差だろうし、何よりこの容姿だ。まさか童貞という事はないだろうが、あまり場数を踏んでいるようでも無い。それでも男相手はおそらく初めてだろう。同性から性的な触れ方をされた経験がない人の性器を愛撫するのは一種の賭けだ。そう思った僕は少し躊躇しつつ、内股を行き来させていた手をスライドさせて陰嚢に触れた。ところが心配していた彼からの抵抗がなかった事に勇気を得、それまで意識的に避けていた弱い部分への愛撫を開始した。・・・・と、途端に身を捩り、抗議の声を上げてくるその人。 「ふ・・・・・ナ・・・・ッ!?あ、アンタッ何だよ?ヒトの体、舐めんじゃね・・・・アアンッ・・・!」 けれどその声は掠れて、隠しきれない情欲を滲ませていた。何より言葉を発したことで耐えきれず零れてしまった嬌声に、僕の心とカラダは一気に熱を上げた。ああ、もう我慢できない。早くこの人を食べ尽くしてしまいたい。迂闊にもそんな思いが表情に出てしまったらしく、僕の顔を見るなり怯えて逃げの体勢に入る人から警戒心を奪おうと、咄嗟に僕は自慢の商売道具の数々で気を引く事にした。しかしそれらを見た途端、なお一層脅えの色を強くしたその人の反応にようやく合点がいく。
どうする?いつも通りこのまま強引に押し切る?それともこの場は勘違いである事を教えて一度身を引き、別の方法で改めてこの人に近づく? ところが、心の中で最良の方法を模索しつつ、問われるままに名刺を差し出し名を名乗れば同じ姓だった事が、俄然僕を強気にさせた。
これまで受けたマッサージで既に力が入らない状態になっていたその人の身体をうつ伏せに返し、後ろからそっと身体を重ねた。細い腰を抱きとめ、なだらかな胸のラインに手のひらを滑らせ、汗ばむ首筋を甘く噛む。 「は・・・・うあ・・・・ん、イヤ・・・・・だ・・・・・くふ・・・・っ」 頭をイヤイヤと振りながらも零す声は、まるでその先を強請るようだった。そう、伊達にこれで飯を食っている訳ではないのだ。僕は苦痛を感じさせる事はしないように細心の注意を払いつつ、快感を与えることに関してだけは手加減しなかった。しかし困った事に、僕の手管に面白いように反応し、悶え、可愛い声を聞かせてくれるこの愛しい人は、恥じらう初々しさと淫猥さを合わせ持つ稀有なタイプだった。なんということだろう。いつしかプロである筈のこの僕が、情けなくも自分を保つのに只々必死になる羽目に追いやられていたのだ。 あらかじめ手の届く場所にさりげなく隠しておいたチューブを取り出し、中のジェルを秘所にたっぷりと塗りつける。全身を一通りマッサージして、僕はしっかりとこのヒトの感じる場所を覚え込んでいた。驚くほど多いウィークポイントの内、特に弱い項の部分に喰らいつき注意を逸らしておきながら、中指から挿入を始める。途端に収縮するものの、ジェルの助けを借りて順調に指を食んでいく熱い柔襞は、まるでその僕の指を愛撫するように蠢く。堪らない。我慢が出来ず、立て続けにもう一本、二本と数を増やしていく。こんな無茶、社員研修で新人がやらかそうものならその場でクビにするところだ。この時の僕は、それほどまでに余裕を失っていた。 感じる部分を刺激して上げると、仰け反って悶える様が凶悪なほど色っぽい。四つん這いの姿勢で、ぐったりと上体をシーツに沈め、腰だけを高々と上げて足を広げられたその姿に僕はめまいを覚えた。本当はすぐにでも自身を埋め込みたい。けれど、初めての人を相手にいきなりそれは無理だろうと、脇に避けていたやや小さめのローターを手に取り、先ほどのジェルを塗りつけた。それを後ろにあてがうと同時に、ロクに愛撫も与えられていないにもかかわらずしとどに濡れたペニスと陰嚢をまとめて握り込み、タイミングを見計らってためらわず挿入を開始した。 「ウアアアアッ!?」 その声に、僕は一瞬しまったと動きを止めた。これまで客に苦痛を感じさせたことなどないこの僕が、冷静さを失うあまりに加減を間違えたのかと思ったのだ。けれど、この手の中にある熱源は、今にもはち切れそうに震えていた。 苦痛を感じているのではない。そう、この人は悲痛な声を上げる程に感じていたのだ。この肉のしまり具合からしても、バージンであることはほぼ間違いがないだろう。にもかかわらず・・・・・・。 「ふぁ・・・・ッイア・・・・・・ん、あ・・・・あ、何か入って・・・・・ヒゥッ」 まるでローターをのみ込むように蠕動を繰り返すその肉襞に、先ほど彼が『だんご6兄弟』という可愛いネーミングを与えた性具をさらに挿入した。 「うああああーッ!!や、やめ・・・・・ッ!あ、・・・・うああ・・・・・ッ!」 がくがくと全身を痙攣させて快感に悶える様に、見ているだけの此方が先にイってしまいそうだ。 「もうやめ・・・・・取ってくれよ・・・・・・ヤダァ・・・・っ!も・・・・やぁ・・・!!」 「嫌じゃないでしょう?ほら。まだ“長男”しか入ってないよ?さあ、もっと入れてみようね・・・分かる?これは“次男”だよ・・・・・・・で、“三男”・・・」 「ひゃああっ!・・・・・クフ・・・・ッ!んあああっ!?入れんなぁ・・・・・ッ!」 “三男”まで入れたところで流石にこれ以上は酷かと手を止めた僕だったが、小振りとはいえローターとアナルパールを途中まで咥えこんでなお物欲しげに収縮を繰り返す様子に、理性の限界を感じた。こんなモノじゃなく、僕の身体で感じさせてあげたい。そして何より僕が、自分の身体でこの人を感じたいと強く思った。強烈な快感に絶えず身を震わせている身の内から埋め込んだものたちをゆっくりと抜き去り、ぐったりとシーツに身を投げ出すその人に負担をかけないよう気をつけながら覆いかぶさった僕は、涙に濡れた頬に顔を寄せた。 「ごめんね・・・・・あなたが欲しい。絶対に後悔なんかさせない。今はそうじゃなくても、いつかきっと必ず、あなたは僕を愛してくれるようになるよ・・・・必ずだ。今この時から死ぬまで、僕はあなたの為だけに生きると約束するから、もうあなた以外の人なんか愛せないから・・・・お願い。あなたを僕に下さい、エドワード」 「イヤ・・・・イヤァ・・・ッ!止め・・・・・・あ、あ、あ・・・・ッ」 再び痛いほどに屹立したペニスを握り込み熟練の技を駆使して存分に愛撫を施すと、あっけなく吐精し、涙を流してしどけなくシーツに身を沈める僕の天使。ああ・・・・・ダメだ、今度こそもう本当に我慢できない! 出来る事なら想いが通じ合い、互いの気持ちを確認してから触れたかったその唇に、僕はまるで野獣のようにむしゃぶりついた。 「ン・・・・・ッんふ・・・・・は・・・・・・・・ッ・・・・・・」 「・・・・・・・・名前・・・・・僕の、なまえ・・・・・呼んで・・・・・ッ」 自分でその唇を塞いでおいて、なんて無理な注文をするのかと思いながら、勝手に口から零れ出る言葉を止める術もない僕に、僅かながら唇を開いて口付けの合間に何かを答えてくる愛しい声。 「ん・・・・・あ・・・・・・ぅ、こ・・・ンなんじゃ・・・・・・言え・・・な・・・・」 「言って・・・・・・・、僕の名前・・・・・それとも、もう一度教えようか?」 荒い息を吐きながら見下ろした腕の中の人は、濡れた瞳と唇のまま、フ・・・・・・と、頬を緩めた。そして。 「アルフォンス・・・・・・・・」 彼の少しハスキーな、けれど甘さを含んだ魅力的な声が、僕の名を紡いだ。その瞬間。 言葉を紡ぎつつ、僕は彼の秘所に再び指を添えて広げるように揉みしだいた。 「ん・・・・・・ふぁ・・・・ッ!?」 たちまち頬に血を上らせて、若い魚のように全身を跳ね上げるその両足を抱えあげ、広げたそこに自らの熱をあてがった。 「アイシテル」 「ヒアアアアアッ!?」 堪らず僕の背に回した手の指先が、ギリギリと皮膚に傷を刻むのにも構わず、身を進めた。 「アアッ・・・・アアッ!うあああ!!」 大丈夫、傷つけてはいない。それはプロとしての感覚で分かった。ただ、痛い程に締め付けてくるその人の肉壁の熱さに、一瞬でも油断すれば先に気をやってしまいそうな自分を抑えるのに僕は苦しんだ。 「な・・・・まえ・・・・呼んで・・・・・・ッ?」 「あ・・・・・・ああ・・・・ッ・・・・ア・・・・・ル・・・・・」 「うん・・・・・動くね?」 「やああっ!?」 せっかく背に回してくれていた腕を外すのは残念だけれど、僕は彼の両手にそれぞれ自分の手を重ねシーツに縫い付け、ゆっくりと律動を始めた。 「ん・・・・っん・・・・っんあ・・・・・ふ・・・・アル・・・・ああ・・!」 無意識に、憶えたばかりの僕の名を呼んでくれる愛しいその唇に、再び唇を重ねる。 「エド・・・・・きっと明日の朝になれば忘れてしまってると思う。でも・・・・今、約束して」 「アアッ・・・・・あ・・・・イヤァ・・・・も・・・・」 生まれて初めて味わうだろう耐えがたい程の快感に身を焼かれ悶える愛しい人に、まるで子守唄でも聴かせるような口調で僕は言葉を落とした。 「同性間の婚姻は法的には認められてない・・・でも僕は・・・・あなたと、添い遂げたい・・・・・ッ・・・ だからこれは、僕とあなた、ふたりだけの間でしか成り立たない約束だけど・・・・・」 一層激しく身を捩るその人が、身の内に受け入れた僕をさらに強い力で食い締めてくる。恐らく絶頂が近いのだろう。僕は角度を変え、より深く繋がりながら動きを早くした。 「エド・・・・ッ!・・・・僕と一緒に暮らして?そして僕のお嫁さんになって?」 「いああ・・・・・・ッ!オレッ・・・・・・東京に・・・・マンショ・・・・ダメェ・・・!」 「うん?じゃあ明日にでも引き払って、僕のウチにおいで?」 「ああああ・・・・・あ、オカシクなる・・・も・・・・ひあ・・・・・ッ」 「約束ね?エド」 「は・・・・ハフッ・・・・」 すっかり解れて貪欲に僕を食むソコの具合を悟った僕は、遠慮せずに思うさま自身を埋め込み突き上げた。 「ヒャウ・・・・・アアアアアア!!!!」 そしてその人が歓喜するように上げた嬌声を勝手にYESという返事だと解釈した僕はすっかり有頂天になり、後は力尽きるまで彼の身体を愛し尽くしたのだった。 「ったくよぉ。今考えてみたらトンでもない出会いだったよなぁ。もし俺がオンナだったら立派な強姦罪だぞお前」 苦笑しながらティーポットの横にくるりと反した砂時計を置くと、その指で小皿の上のクッキーを摘まんで口に銜えるその人は、僕の『運命の人』だ。ソファーに深く腰掛けていた僕は、目の前にある恋人の腰に両腕を回して膝の上へと引き寄せ座らせると、ウィークポイントの項に口付けた。 「ン・・・ッそこはヤメロっていつも言ってんだろ!?」 途端に銜えていたクッキーを落として身を捩るところを、さらに強く抱きしめた。しばらく逃れようと頑張っていたけれど結局諦めたその人は、こちらに体重を預けると回していた僕の腕に自分の腕を重ねてくれる。その左手の薬指には、あの日嫌がるこの人を無理やり宥めすかして作りに行った指輪が嵌めてある。そして、それと同じものが僕の左手の同じ指にも。 依頼の段階で手違いがあった事に気付きつつ、自分のサービス業務を理由に初対面のこの人に無理やり快楽を覚え込ませあまつさえ抱いてしまった僕を、はじめのうちこそ怒っていたこの人は、意外にも割とすぐに許してくれた。そしてしつこく聞き出してみれば互いの住所が近い事を知り、しばらくの間は通い婚のような生活をしていた僕たちだったが、今日になってようやくマンションを引き払った恋人は僕の家へとやってきたのだった。近所や会社などへの世間体を考え、『生き別れになっていた兄弟が見つかり同居することになった』という事にしておこうと、彼と僕の間で決めた。上手い事に同姓で、容姿に違いはあれど似かよった色の髪と目をしている僕たちだ。不審に思うものはいないだろう。世間の目を欺いての、でも甘くて幸せなこの生活を守るためのルールはひとつ。彼を名前で呼んでいいのは、ベッドの中でだけ。
「にいさん・・・・・・ちゃんと指輪してくれてるんだ・・・嬉しいな」 「だって仕事が休みで一日家に居るこんな時くらいしかできねぇだろ。大体そんな時に嵌めんの忘れたりしたら、お前の自慢のオモチャでゴーモンされるだろうが。俺はそんなの真っ平ゴメンだからな!」 「あんなに善がりまくっておいて『ゴーモン』もないでしょう・・・・ん・・・?」 トレーナーの裾から差し入れた手で胸の先端を弄りながら、耳の後ろに啄ばむ様なキスを送ると、背を反らして悲鳴を噛み殺す様が愛おしい。 「・・・・・・・ベッドにご一緒しませんか、エド?」 すっかり上気した頬に頬を摺り寄せながら横抱きに抱えあげると、腕の中の恋人は上目づかいに睨みながらこちらの心臓が止まる様な素敵なセリフをくれた。 「余裕なカオしやがって畜生。今日は一滴残らず絞れるだけ絞り取ってやる、覚悟しやがれ!」
その後、僕が本当に空になるまで絞り取られたのかどうかは・・・・・『にいさん』に聞いてみてください。
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