原作設定で練成後未来捏造。健康な身体を取り戻した15歳アルと11歳の身体になってしまった兄のある日の出来事。らくさんのサイト開設1ヶ月記念として捧げます。(23:29)←後に青井さんと改名されました
手を伸ばせば、いつでも触れることの出来るぬくもりが傍らに在る事。
そんな幸せを、僕はあらためて感じていた。元の身体を取り戻した僕らは、リゼンブールのゆったりとした空気を身体中で味わっていた。
僕と兄さんは、リハビリを兼ねてよく村の中を散歩して歩いた。
幼い頃から見慣れた風景の中、ふたりで季節を捜しながら歩くのは、何故だかわくわくと心躍らせることだった。傍らには常に兄さんのぬくもりがあり、僕は幸せを噛み締めていた。
時折すれ違う人と挨拶を交わす。僕は15歳のアルフォンス・エルリックとして。練成の結果、11歳の身体になってしまった兄は、僕等の父方の遠縁ということになっていた。
そして、「鋼の錬金術師」ことエドワード・エルリックについて訊ねられると「戦闘中行方不明」なのだと応えた。あの未曾有の混乱の中では致し方ないことと受け止めてくれた純朴な村の人々は、その度に優しい慰めの言葉をくれた。
僕は嘘を付かねばならない事に少し胸が痛んだ。しかし、兄の身の安全の為には必要なことだった。
元の身体を取り戻してからというもの、僕はことあるごとに、しょっちゅう兄さんに触っていた。それはウィンリィが焼き餅を焼いて呆れるほど。だって仕方ないでしょ。僕はずっと長い間、大好きな兄さんに触れたくて仕方がなかったんだ。長い旅の途中では様々な出来事があった。嬉しい時も、悲しい時も、その他のありとあらゆる色んな感情に翻弄された時も。冷たい鎧の身体で、兄さんを抱きしめても僕は、僕らは、互いのぬくもりを感じることが許されなかったのだもの。
兄さんを僕の膝の上に座らせて、台所でアップルパイを食べていた時のこと。
「ちょっとあんた達、何恥ずかしいことしてんのよっ!」
ウィンリィが怒鳴ってきた。
僕は「兄さんが小さすぎて椅子から落ちちゃいそうだから」とは言わなかった。そんな事を言ったら兄さんに殴られるし。何より僕はただ四六時中兄さんのぬくもりを手放したくなかっただけだ。
行儀悪く、手掴みでアップルパイを頬張っていた兄さんは、ウィンリィの怒鳴り声に顔を上げて、
「おまえ、何怒ってんの?」
とキョトンとしている。
僕は左手を兄の腹に回したまま、右手に持ったフォークに刺した食べかけのパイを皿の上に戻して、
「ウィンリィ、また腕を上げたね?グレイシアさんのと同じ味だ」
にっこりと笑顔を添えて、とりあえずご機嫌を取ってみる。
そんなことには誤魔化されないとばかりに、ウィンリィは音がする勢いでテーブルにお茶を置きながら、僕を睨み付けた。
「エドもひとりで出来るでしょっ!いつまでも甘やかしてんじゃないわよっ」だいぶお冠りのようだ。
ウィンリィが兄さんを好きなことは知っていた。でも僕は兄さんを手放せない。そう、本当は兄さんを独り占めしていたいんだ。ウィンリィには悪いけど。今まで僕らは長く辛い旅をして来たんだもの。あの頃、生身の身体で兄さんに触れてその体温を感じる事が出来たウィンリィを、僕が羨ましくなかったはずが無いだろう?
きっと今だけだから。僕も兄さんに少しくらい甘えたっていいだろう?
「僕が駄目なんだ。兄さんに触れていないと、今でもこれは夢なんじゃないかって…」
ちょっと目を伏せて、しおらしく言ってみると。
「アルを虐めんじゃネェよ」
と兄さんは声だけでウィンリィに凄んで見せて、心配そうに僕の顔を覗き込みながら左手で頭を優しく撫ぜてくる。
僕は心の中でこっそりブイサインを出した。
「兄さん」
嬉しくなって、僕は兄と顔を見詰め合っていたら、とうとうスパナが飛んできた。
「いいかげんにしなさいよっ!」、
ウィンリィがさっきよりさらに大声で怒鳴った。
それを聞きつけて、作業場からばっちゃんが顔を覗かせる。
「やれやれ、まるでお前たち、子どもの頃に返った様な騒ぎだね」
相変わらず手にはキセルをもっている。
「だってアルが…」
ウィンリィは少し肩を落として呟く。
「おまえ達は小さい頃も、よくエドを取り合って喧嘩してたねェ」
と、ちょっと意外な事を言われた。
「えぇ〜。ウィンリィを、じゃなくて?」
僕もそう思ったが、兄さんが信じられないと言う様に聞くと。
「覚えてないかい?一人っ子のせいかウィンリィは兄弟ってのが羨ましかったんだろうね。アルはアルでエドとウィンリィが同い年なのが気に食わないって感じで。おまえ達、何かにつけちゃあお互いエドの気を引こうとしたもんさ」
カカと笑って、ばっちゃんは椅子に腰を降ろしながら、そんな風に言った。
僕とウィンリィは、眼を見合わせるとなんだか照れくさくなって、くすぐったい気持ちをお茶と一緒に飲み込んだ。
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