***** らくさんへ、お誕生日おめでとう! *****
***** アニメ未来捏造:スゴイしぜん風アルエド *****
『君がいるから』080629
― ストロベリー・フィールズ ―
父さんの手帳を手掛かりに、僕たちはこの場所へ来た。
本来の目的は、行方不明の父さんを捜すためだ。
そこでは数十年おきに何人もの行方不明者が出ていた。
唯一の生存者の証言では、目には見えない“何か”によって身体中が、まるでカマイタチにあったように、鋭利に切り裂かれ、忽然と人がいなくなるのだという。
調査を進める途中で僕たちは、キャンプに出掛けて友人と共に行方不明になった弟を捜す女性と知り合った。
早くに両親を失くして、二人の弟を育ててきた彼女自身もまだ若く美しかった。
彼女は僕たちに弟の捜索を依頼するだけでは飽き足らず、自らももう一人の弟と共に捜索すると主張した。
「彼女たちを守りながら“狩り”をするなんて無理だよ」と反対する僕に。
「俺が守ってみせるよ」とエドワードは彼女たちの同行を許した。
いつもであれば「シロウトは引っ込んでいろ!」と一喝するのに。
その場所は深い森の中だったが、ストロベリー・フィールズの名のとおり道々に野生のイチゴが自生している。
これが本当のピクニックであれば良かったのに、と僕は思った。
リゼンブールでも幼い頃、兄と二人バケツを手に野イチゴ狩りをした。
それが今は――“狩る”のは化け物ばかりだ。
「眉間に皺寄せてっと、老け顔になるぞ」
ふいに兄が掌を差し出す。その上に載せられているのは赤く色づく野イチゴ。
昔と今を対比して悩んでいる僕とは対照的に、兄はいつの間にやら野イチゴ摘みに精を出していたらしい。
呆れながらも、その懐かしい香りに手を伸ばそうとした時。
「ちょっと、真面目にやってよっ!」
彼女が抗議してきた。その背後では同じように緊張した面持ちの弟が頷いている。
「分かってるよ。でも、緊張しっぱなしじゃ長く持たないぜ」
兄は掌の野イチゴを一粒つまんで、抗議のために再び開いた彼女の口に押し込んだ。
そして、残りをその弟の手に無理矢理受け取らせた。
何だかんだ言いながらも、姉弟は野イチゴの甘い味を舌の上に載せたようだった。
鬱蒼とした森の中で、僕たちは恐怖の一夜を明かした。
やはり、素人の同行者が一緒であるというのは僕たちに不利だった。
準備万端様々なものを持ち込んだ彼女たちだったが、不慣れな戦いに武器を放り出さざるを得なかった。
兄と僕は、散々悪態を吐きながらも彼女たちを守り通した。
翌日、目に見えない襲撃者から命からがら逃げ切り、ホッとしたのも束の間。
襲撃された彼女の代わりに、兄が攫われた。
心臓が竦み上がる思いで、僕は必死に兄を探した。
依頼人なんて、もうどうでもいい気分だった。
その時は、とにかく兄を見つけることしか僕の頭には無かった。
小さな野イチゴが、目印のように落とされている事に気付いたのは、彼女のもう一人の弟だった。
「臆病でどうしようもない」と思っていた彼への評価を、僕は胸の中で謝罪した。
化け物は、冬眠のような何十年もの眠りと一定期間の覚醒を繰り返していたらしい。
眠りから目覚めると、保存食―この場合は人間―で腹を満たし、人間狩りを始める。
地元の伝承によれば、遭難した人々が飢餓にさいなまれ人肉喰いの果てに――化け物になったという。
だから決して飢えることのないように、食料―人間―を備蓄することを止めない。
そこには最早、人間としての知性も理性も無かった。
ただ飢餓を満たし生き延びる。その為に食料を確保しなければならないという、狩猟本能しか残されていなかった。
眠りから覚めれば蓄えた人間で飢えを満たし、人間を狩り保存し、再び眠りに付く。
何十年もの間、否、或いは何百年もの間、それは繰り返されて来たのだろう。
“飢えから逃れたい”という執念だけで、我が身をホムンクルスとしてしまった、哀れな男。
野イチゴの道しるべを辿って、何とか化け物の住処を突き止めた。
見つけた兄は危うく保存食に加工されるところだった。
依頼人の探し人である弟も何とか無事救出した。
脱出を計ろうとした時、食料を奪われて気が立った化け物に阻まれた。
僕は兄を逃がそうとしたのに、反対に兄に逃がされた。
ボロボロの状態のくせに、兄は己の身をエサに化け物と対峙したのだ。
このまま放っておけば、新たな被害者が出るのが解っていたから。
だけど、兄さんが死んだら僕が生きている意味が無いじゃないか!
彼女たちを表に出すと、僕は取って返して兄と一緒に戦った。
そうして僕たちは“狩り”をまっとうした。
「森に入ったら、やっぱりこれを摘んどかないとな」
帰り道、兄はそう言って、ポケットから野イチゴを取り出して頬張る。
「人が必死で探してたのに、何暢気なこと言ってんだよっ!」
ガツンと兄の後ろ頭を叩いた。
「何だよ、お前も欲しいならそう言えよ…」
後ろ頭を擦りながら、僕に掌を差し出す。
それが、泣きそうなくらい緊張していた僕の気持ちを宥める為だったと気付いたのは後になってからだ。
口に入れた野イチゴは甘酸っぱくて。
ずっと怖くてたまらなかった僕の心を静めてくれた。
それにしたって…兄さん、野イチゴが鳥や小動物に食べられてたら、どうしろって?
別れ際に、彼女が兄にキスをしたのを僕は咎めることが出来なかった。
何といっても、兄は身を挺してみんなを守ってくれたのだから。
若い女の子に顎をつかまれディープ・キスを受けている兄。
柔らかそうな細い腕に抱き寄せられて、彼女の背に廻される兄の腕。
僕はそれを、弟の振りで見ているしかなかった。
一瞬ゆがんでしまった顔は、苦笑している様に見えただろうか。
部屋のドアを閉めた途端、僕は兄の両手首を掴んで壁に張り付けた。
「止めっ…ろっ、て…」
顔を背けて逃れようとする兄の唇に舌をねじ込んで、言葉を封じる。
絡め捕った舌を離さないまま、息を吐く隙さえ与えず貪る。
徐々に力が抜けて壁に凭れかかる身体を性急に暴いてゆく。
片手で兄の両手を頭上に拘束し、シャツの裾からもう一方の手をすべらせる。
胸に手を這わせ尖りを摘んで捩じれば、そこは直ぐに芯を固くする。
嫌がる素振りで逃げようとするくせに、腰を押し付けると兄も反応しているのが解った。
ベルトを外して下着ごとズボンを降ろし、掌で兄のものを愛撫する。
「…は…ぁ」
レジメンタル・タイを兄の首から抜き取ると、充分育ったその根元を戒めた。
「まだ我慢してね。もっと気持ちよくしてあげる」
兄のそれは、透明な雫を涙のように零していた。
再び兄に口付けて、その熱く甘い口腔をたっぷりと味わう。
どちらのものとも知れない唾液が、唇の端から淫らに顎を伝って首筋を流れてゆく。
兄の先走りで濡れた指を奥にすべらせ、菊花の襞を撫ぜて侵入する。
早々に指の数を増やして抜き差しを繰り返した。
ズボンを脱がせて兄の片足を持ち上げる。
僕は細い腰を掴み、その場所に自身を宛がうと一気に捻じ込んだ。
「くっ……」
熱い襞に迎えられ、蕩けるようなその感触に我慢出来ず性急に動き始める。
エドワードは、悲鳴を上げることも出来ずに荒い息を唇の隙間から漏らす。
「…ぅん、うっぁ…」
腰を低く落としては突き上げる。
繋がった場所はいつもより窮屈で、ぎゅうぎゅうと僕のものを締めつけてくる。
苦しそうに息を漏らしながら耐えている兄の姿が余計に僕の嗜虐心を煽った。
僕は熟知した兄の弱い場所を次々に攻めてゆく。
ふたりきりになって、僕は対外的に取り繕った仮面をあっさりと脱ぎ捨てていた。
嫉妬が、身体中の血液に流れ込んだように僕の身体を熱く変えていた。
兄が悪いわけでないのは、頭では理解しているくせに。
「女の子にキスされて嬉しかった?」
唇を離して、僕はそう訊ねた。
「僕から逃げ出したくなったんじゃない?」
スピードを速めて最奥を目指しながら、どうしようもなく意地悪な口調で兄を問い詰める。
「はっ…、あっ…、ぁ…否。そ、んな…、こと。あるわけ…、ねぇ、じゃん…」
立ったままでの無理な態勢が辛いのだろう。
ギュッと堪えるように閉じられていた瞼が開いて、潤んだ金色の瞳がまっすぐに僕を見つめていた。
「…まっ、あっ…。兄ちゃん…がっ…、うっ、ぁん、お前より…もてるのは、許せ、よ…」
そして、ニヤリといたずらっぽく笑った。
金色の長い睫毛に絡んだ涙は、今にも零れ落ちそうなのに。
「兄さんがもてるのが何となく理解できるよ」
“兄さん”と、おもわず僕はそう呼んでいた。
「おっ…う!」
久し振りに、名前ではなく“兄”と呼ばれたのが嬉しかったのか、満面の笑顔が返ってくる。
その笑顔を目にして、僕は自分の顔が赤くなるのが解った。
嬉しくて、愛しくて――。
笑んだ拍子に、兄の睫毛に絡んでいた涙がひとすじ頬を流れた。
その涙の後を、僕は唇でそっと辿った。
「兄さん、兄さん、兄さん…」
僕は子どものように兄の身体に自分の身体をぶつけるように抱きついた。
――あなたが無事で良かった。
攫われた兄を捜す間、僕は恐怖に押し潰されそうだった。
「あっ、ァ・・・ア、ルゥ…んっ、あぁっ!」
ぶるぶると兄の身体が震えていた。
ハッとして、兄を戒めていたタイを外し解放した。
とろとろと熱い白濁が僕と兄の腹を濡らした。
繋がった場所が、ギュッと僕を抱きしめるように締め付ける。
目も眩むような快感に、僕も兄の中にたっぷりと熱を注ぎ込んだ。
ふたりでシャワーを浴びた後、寝台に腰掛けてエドワードの髪を拭いていた。
「ねえ、どうして彼女たちを一緒に連れて行ったのさ」
少々不機嫌な声で、僕は兄に尋ねた。
兄が攫われたのは、足手まといの彼女たちがいたからだと僕は思っていた。
「もし…お前が行方不明になったら、さ。誰かに任せとくなんて、俺には出来ねぇよ」
そうか。兄さんは彼女に自分を重ねていたんだ。
「そうだね。僕も…兄さんが攫われた時、絶対僕が見つけてやるって思ったよ」
思い出したのは、未だ少年の顔をした彼女の下の弟だった。
絶対、姉を守るんだと頑なに諦めない弟。
恐怖に身を竦めながらも、少年は涙を零すことなく姉を守ろうと必死だった。
もしかしたら、僕もあんな風に見えたのだろうか。
兄さんを必死で捜している間。
「怖かったんだ」
小さく洩らした弟の呟きを、エドワードは聞き逃さなかった。
「俺も怖かったよ」
囁くように返された声。
「お前と二度と逢えなくなるかもしれないって思ったら」
僕はその言葉で満たされた。
「…うん。もう一度逢えて嬉しかった」
本当に、心の底からそう思った。
「俺もだよ…」
兄は振り返って手を伸ばし、僕の前髪をクシャリと撫でる。
懐かしいその仕草に胸の奥がジンとした。
伸ばされた手は、そのまま僕の頬に当てられた。
そして身体を捩じって、僕の唇にそっと兄の唇が合わされた。
それは、初めての兄からのキスだった。
いつも僕がするように、行為の始まりの合図のようなものじゃない。
「に、兄さん…」
信じられなくて、兄の瞳を見つめた。
絡まった視線は、振りほどけないほどの熱を佩びていた。
僕の首に兄の両手が廻され、彼はそっと僕の膝に乗り上げる。
そうして…再び、唇が触れ合わされた。
それは奪うものでなく。
ただ愛しさを伝えるためのもの。
軽く触れた場所から、愛が流れ込んでくる。
こんなにも気持ちが伝わるキスを、僕は初めて経験した。
「おまえが欲しい」
告白するみたいな兄さんの囁きが耳に落とされた。
大きな金色の瞳には水の膜が張って、今にも零れ落ちそうな。その時の僕の気持ちにも似ていた。
「うん。僕もあなたが欲しい」
ドキドキと早鐘のように刻まれる鼓動が苦しい。
求めることと求められること。
その違いは些細なものなんかじゃ、絶対ない。
だって、今、僕の心臓は最大限の速さで鼓動を刻んでいる。
次の瞬間に死んだってイイと思えるほど。
歓喜に震えて…。
兄を抱くときは、いつも後ろからだった。
それが男どうしでの行為の苦しくない態勢だと思っていたから。
今日のように、立ったまま行為を強いることもあったが。
兄から僕の首に腕が廻されるようなことは無かった。
ましてや、対面して抱き合うことなど――。
既に僕の方は準備万端だった。
膝の上に兄を抱えた僕は、唾液でぬらした指でその場所を探った。
最初の行為での僕のものを風呂場で掻き出していた為か、そこはまだ柔らかく僕の指を飲み込んだ。
直ぐに二本、三本と指を増やして身体を解いてゆく。
もう、痛みなど与えたくない。出来るならば、快楽だけを与えたい。
兄は、僕の首に縋りつくように身を震わせる。
ああ。感じてくれているんだ、と嬉しくなる。
「兄さん、来て…」
用意が出来たそこへ僕のものをあてる。
でも僕は兄から求められたかった。
「…うん」
ゆっくりと兄は僕のものを身体に収めていった。
全てが収められた時、ふたり顔を見合わせて微笑んだ。
こんなに緊張したことは無かった。
でも、それに見合った幸福感でいっぱいだった。
ふたりの身体が繋がれている。
その場所からはゆるやかに快感が立ち昇って。
僕たちはゆるゆると同じリズムを刻んで。
穏やかなのに身体の芯まで痺れるような快感を感じていた。
ふたりで――。
愛は、一方的なものではなく。
求めて、求められて。
与えて、与えられて。
そうして、際限なく互いを高めあってゆくのだと。
この時、僕は教えられた。
|