ふたりだけの心理⑲~愛しているよ

 

 

 

 

 

 

 

 


 俺は今まで、弟の魂を取り戻すための代価として腕を失った事を後悔した時はなかったし、その失くした腕を惜しいと感じた瞬間など、ただの一度もなかった。
 だけど、最近・・・・・・というかつまり、アルフォンスとこの熱い想いを通わせるようになってからというもの、ほどなくしてやって来るであろう身体を繋げるその時、否が応でも過去の苦しみを思い出させたり、要らない負い目を感じさせてしまうに違いないこのむき出しの機械鎧を弟の目に晒す現実を思い浮かべた俺は、初めてこんな気持ちを持ったのだ。


 どんな傷跡が残っていてもい。最低限、その体裁さえ整っていれば、たとえ自由に動かすことができなくても構わない。せめてこれが、血の通う両腕であったなら・・・・・・と。


 俺はその時だけでも、生身の両腕で、弟に触れてやりたいと思ったのだ。でも今、俺の右腕があるべき場所に装着されているのは、鈍く光る血の通わない無機質な機械の腕だ。いわば、俺のこの身体そのものが罪の象徴ともいえるのだった。


  一体誰が好き好んで、そんな本来ならば目を背けていたいようなものを愛撫したいなどと思うだろうか。
 そのうえ、そんなものに対して気持ちを昂らせるなんてことがはたしてできるのだろうか?

 いくら”愛している”とはいっても、その深い自責や後悔の念は、情愛とはまた別の場所に、しかと存在しているのだから・・・・・・・・。


 だからこれは俺にとって、途方もなく大きな『賭け』だったのだ。



 「無理をしなくていい」と、「今すぐにでも身体を繋げなくてもいい」と、アルフォンスは言った。やっぱり・・・・・・だ。
 思ったとおり、だけど優しい弟は俺を傷つけないようにそんな言葉を選んでくれたんだろう。


 ・・・・・・・・・・・・悲しかった。
 こんなにも愛している相手に、そんな当たり前のことさえ与えてやれない自分が情けなくて、早く弟の前から立ち去りたかった。



 ごめん。ごめんな、アル。俺、スゲー無理なこといっちまったよな?お前、きっと今すごく困ってるだろ。でも、今の俺はそんなお前にどんな言葉をかけてやればいいのかも思いつかない。ごめん。こんな俺で…………・本当にごめんな。


 多少覚悟はしていたものの、最も恐れていた結果を招いた自分自身を責めさいなむ気持ちでいっぱいになっていた俺は、この事態に収拾をつけないまま、ただ頭の中で弟に対する謝罪の言葉をぐるぐると繰り返しながら、もうあとは部屋を出ていくことしか考えられずにいた。




 と、その時、アルフォンスから投げかけられた言葉・・・・・。

 

  


 いばらのお城に閉じ篭もらないで         。            

 








 そのアルフォンスの言葉は、まるで魔法のように、俺のいびつに凝り固まった心を瞬く間にほどいていったのだった。





  

 

 

 「兄さん。僕はもう、途中でやめる事は出来ないよ・・・・・・!」


 後ろから抱きしめられて、耳に直接吹き込まれる言葉に、俺の体中の血が上へ上へと上がっていく。

    

 「お前、俺の身体・・・・嫌じゃない?こんなのに、ソノ気になれんのかよ?俺ならいいから、無理すんな」

 

 俺は、馬鹿だ。言ったそばから自分で傷ついている。でも、問わずにはいられなかった。口先の言葉だけでもいいから、アルフォンスの口から『こんな身体でもいい』と言って欲しかったのだ。

 

 「・・・・・・あなたには・・・僕の気持ちが全然伝わっていなかったのかな。分からない?本当に。僕が、あなたの事をどんなふうに思っているのか、本当に分からないというの?」

 アルフォンスの声が、怒気をはらんだものに変わる。 

「アル!ごめ・・・・・・っ、怒るなよ!変な事聞いた俺が悪かっ・・・・・・うあっ!」

 

 
後ろから抱きとめられていた俺の身体は、そのまま乱暴にベッドの上に放り投げられた。体勢を整える間もなく、アルフォンスが覆いかぶさり首筋に噛み付きながら体中に攻撃的な愛撫を仕掛けてくる。

 
           
明らかに、アルフォンスは怒っていた。

 
 
 俺は決して、弟の俺に対する心を疑ったり、軽んじたりしているわけじゃない。でも、未だ自分の中にいつでもある、『アルフォンスに愛されるべき俺なのか』という自信のなさが、こういう“逃げ“の行動となって現れてしまい、結果アルフォンスを傷つけてしまうのだ。

 
 さっきまでの、俺の反応をみながらゆっくりと手順を踏んでいた様子とは違う激しい行為で、容赦なく俺を追い込んでいきながらも、その口から吐き出される睦言は、果てしなく甘かった。

 
 「愛しているよ、兄さん。分からないのなら、何度でも言うよ。言葉で感じられないのなら、身体に教え込んであげる。僕がどれだけあなたのことを愛しているのか。僕に愛されているあなたは、どんなに美しいのか。全部教えてあげる」

 

 それからの俺は、与えられる快感にすっかり翻弄されてしまい、記憶も途切れ途切れであやふやだ。

 

 気がつけば、いつの間にか仰向けで大きく足を割り開かれていて、中心や、足の付け根や、後ろの部分や、およそ他人に触れられた経験のない場所ばかりを責められていて。一際感じるところに吸い付かれ、耐え切れず高い声を上げたその瞬間、身体の中にぬめりを伴って指が差し込まれた。

 

「は・・・っ!あう、・・・・・んん、くっふ・・・・・・・」

 「・・・・力を抜いて・・・・大丈夫。全部僕に任せて・・・・僕を、信じて・・・・?」

 俺が苦手とするアノ声で耳元に囁きかけられて、ぞくりと全身があわ立つのを感じる。その刹那、一気に指の数を増やされるが、不思議な感覚こそあったけれど痛みを感じさせられる事はまったくなかった。

 

 「な、んか、ヘンだ・・・っ!ああっ!?・・・・・・・・何?コレ・・ふ・・・・あ、ああ・・・・んっ」

 

 ガクガクと全身が跳ねるのを、自分でどうすることも出来ず、たまらず俺は両手で手繰り寄せたシーツをきつく掴み身を捩じらせた。

 

 「うん。感じているんだよ。分かる?痛くはないでしょう?・・・もっと、感じてごらん・・・」

 「いや・・・・あ!こ、怖い・・・・・・俺、ヘンになるっ!ああああっ!!嫌だ・・・・・っ」

 

 かつて感じたことのない、それはおそらく快感だったのだろうが、とてつもなく強烈なその感覚に俺は恐怖を感じていた。身体がそこここから溶け出して、自分がどうにかなってしまんじゃないかと、馬鹿みたいにアルフォンスに訴え続けながら幾度となく絶頂へと導かれた。

 

 

 

 「・・・・・また、イけたね。ふふ。そうやってぐったりしたあなたも、とても色っぽくて素敵だよ」

 「ふ・・・・・・も、や・・・だ・・・・・出来な・・・・・・ぅ・・・・・」

 

 その頃にはもう、まるで薬を含まされたかのように、俺の身体には少しの力を入れることもできなくなっていて、その両脇に手をついて見下ろしてくるアルフォンスに限界を告げたのだが、それが聞き入れられる様子はなく、俺はたまらず泣き声を上げてしまった。

 

「・・・・ほら、分かる?あなたのココ・・・こんなに、ほら、柔らかくなってる。指に吸い付いてくるみたい」

 

あからさまな音を立てながら、ほら、と中の指を抜き差しされ、その感覚にまたのたうちまわる。自身の先端からまたしても体液がじわりと溢れ出す感覚があった。俺のソレは、一体どれほどの量を吐き出せば気が済むんだろうか。

 

「いっや、あ・・・・!ああ、ん・・・・・・う、動かす、な・・・・・・あ・・・!」

 

 「ごめんね・・・・ほんとは・・・・後ろからの方が、きっと負担が少ないんだろうけど・・・・」

 半分意識が飛んでいた俺の耳を、アルフォンスのその言葉は意味を成さないまま、ただ通り過ぎていくだけだった。

 

 尾てい骨の辺りに手を添えて持ち上げられざま、腰の下に差し込まれたのは枕だろうか。足を大きく割り広げられたところにアルフォンスが身体を入れてくる。膝が胸につくくらい折り曲げられ、再び確かめるようにゆっくりと指が中をさぐり、そして抜かれた。

 「・・・・・・・・ふ・・・っ」

 

「にいさん・・・・・・エドワード・・・・・・目を開けて、僕の目を見て」

 その言葉に、俺の身体は勝手に反応し、自然に瞼を開いて愛しい男の顔を見上げた。

 

俺のそれよりも幾らか落ち着いた色味をした金の前髪が乱れて、汗の滲む額に張り付いている。男らしく整った眉を何かに耐えるようにひそませて、燻されたほんの少し緑がかった金色の瞳は、宝石のように綺麗だった。そして、その唇から漏れる吐息は荒く、いつになく甘みを帯びていて・・・・・・。

 

弟のそんな様子に、何も自分ばかりがこの行為に酔いしれているわけではなかったのだと感じた途端、じわりじわりと背中から湧き上がってくる熱いものが、俺の全身を浸食し始めた。今まで感じたことのない情動が何処からともなく湧き出して、俺は自分の属性が急激な変化を遂げていることを身をもって実感していた。

 


 早く。はやく、この身の内に愛する者の熱を受け入れたい。包み込んでやりたい            と熱望する自分がいた。

 

 「アル。ごめんな・・・・やっぱり、俺ばっかりだった・・・・・俺何にもしてやれなくて、お前つまんないよな?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
 
 俺の言葉に何も返事を返さないアルフォンスは、何故かさらに眉を顰め辛そうに目を細めて瞬きを繰り返した。

 
 「・・・・・・まったく・・・。あなたって人は!分かってはいたけど鈍いにも程がある。なんでさっきからそんなに可愛いことばかりぽんぽん言うの?僕が我慢できるか試しているのかな・・・・。ごめんね。今ので余裕を使い切っちゃった。挿れるよ」

 「え・・・・・っ!」

 
  一息に言いたい事を捲くし立てるなり、俺が息を詰める間もなくアルフォンスが侵入を始める。

 
 「うあっ!!ああ           ッ!!」

 「・・・・・・・っく、・・・・・・・力・・・・・抜いて?ゆっくり息を吐いてみて・・・・?そう、そうだよ。それでいい・・・」     

 「はぁ、はぁ・・・・・ふ・・・・・アル、アル、フォンス・・・・・・・アルッ」

 「うん。ほら、今、全部奥まで・・・・・入るよ・・・・・・・・・・ね?・・・分かる?」

 
 ゆるゆると腰を進めながら、その状態を逐一俺の耳に届けてくるから、中にいるアルフォンスに余計に意識を集中させてしまい思わずソコに力が入ってしまう。自然摩擦が強くなり、そのことでまたさらに強い熱を感じ、俺は悪循環に陥った。もう自分ではどうすることも出来ない、制御不可能な快感に踊らされるのみだ。

 

 「兄さん・・・・・・ッ、ちゃんと、感じてくれて・・・・・・る・・・・・・ね?」

 「ア、ル・・・・ッ!アル、アルフォ・・・・・・・スッ・・・・・アアツ・・・・」 

 
 覚悟していた筈の痛みは無く、むしろありえない程の快感を与えられたことに俺は逆に耐え切れず、悲鳴のような声が漏れてしまうのを抑えることができなかった。無意識のうちに鋼の右腕を弟の背中に廻してしまいそうになったのを寸でのところで思いとどまり、其のまま手繰り寄せたシーツをきつく掴んでいると、不満そうな声が降ってくる。

 

 「いい、から・・・・っ僕に、掴まっててよ、ちゃんと、ぼくを・・・・・抱きしめてて・・・・・」

 「・・・・は・・・・・・・・・っ、バカヤロ・・・・ッ!お、前がっ・・・・・傷つ・・・・・・・・・アッ!・・・・イッ・・・アアアアッ!?」

 

 その背に腕を回すことを拒んだ事が気に入らなかったらしい弟は、俺の両腕を頭上でひとくくりにシーツに押し付けると、ひときわ激しく内側を抉り込むように突き上げてきた。あまりの衝撃に一瞬視界が霞みがかり、俺は意識を失うぎりぎりの状態で何とか耐えていたのだが、弟の容赦ない追い上げは止まるどころかさらに激しさを増すばかりだった。

  

 もう、無理だ。
 これ以上こんな殺人的な快感に晒され続けていたら、狂ってしまう。

 
 何とかこの責苦から逃れようと身を捩り、体を丸めたことで浅くなった結合に安堵したその一瞬後、頭上で腕を拘束していた大きな両手が今度は腰を掴んできて、俺の思惑とは逆に、弟の思うさまさらに奥まで蹂躙されることになってしまった。 

 

「ふ・・・・・・アアッ!イヤアッ!!・・・・・・・アル・・・・・・・・・・!」

「エドワー、ド・・・・・・・・・ッ・・・・・愛してるよ・・・・」

「はぁっ、い、やぁ・・・・っ!も、・・・・・うあああ         ッ!」

 

 過ぎた快感は、いっそ苦痛を与えられることよりも辛いのだと、俺は初めて知った。弟が与えてくるその快感は、まるで拷問のようで、俺は絶えず上がり続ける自分の悲鳴を聞きながら延々と揺さぶられ、泣き、啼かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 にいさん・・・・・・・と、どこかでやさしい声がしていた・・・・・・。

 

 透きとおった響きを持つ、優しい優しい、その声が、本当に好きだと思う。

 その声で、呼びかけられる度、自分が愛されているのだと知ることができる。

 その声で、囁かれるごとに、 その声の主にとてつもない愛しさを感じる。

 

アルフォンス。

 
 お前のその名前すらも愛おしい。

お前の吐息が、その眼差しが、ふとした仕草のひとつひとつが、たまらなく好きだよ。

 お前の髪の感触も、触れた肌の感触も、匂いも、熱さもすべて。

 お前の持つすべてが、その存在そのものがこんなにも愛おしいよ。

 アルフォンス・・・・・・もっと、その声で俺を呼んで・・・・・・・。

 

 

 「・・・・・・・・いさん・・・・・・」

 

 

  「兄さん・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・・・ん、ア・・・・ル・・・・」

 「気がついた?兄さん?」

 

 俺の両脇に肘をついて心配そうに覗き込んでくる弟の顔が間近にあった。

 「俺・・・・・飛んでた・・・・・?」

 「うん、ほんの少しの間だけどね・・声枯れちゃってる・・・身体、平気?」

 「・・・・・・・ん。何か、全然痛くなかった・・・・・・・お前ひょっとしてめちゃくちゃうまいんじゃね?」

 「お褒めに預かり、光栄の至りです」

 「ん?もしかして、まだ中にいる・・・・・・・?感覚麻痺してんのか、あんまわかんねぇ」

 「いるよ・・・・・ほら、ね」

 「ウアアッ!う・・・・動かす・・・なッ!」

 「ゴメンゴメン」

 「ふう・・・・・・・・・・・アルが、いる・・・・ここんトコに」

 「うん」

 「熱いよ、お前」

 「兄さんの中も、とても熱いよ」

 

 

 アルフォンスが俺の心臓の上にキスを落とし、そのまま俺の心音を聞くように胸に頭を預けてくる。

 

 

「あなたの、子供が欲しいな・・・・・」


 「出来るまでヤッてみる・・・・?」


  「ふ・・っふふふふっ」

  「はははっ」

 

 

・・・・・・・幸せすぎて、死んでしまいそうだ。

 

 俺は、アルフォンスに愛された。

 

 明日の朝、目を覚ましたとき、自分が何か別の生き物に生まれ変わっているのではという気さえした。

 

 


 

「アル、アルフォンス。お前を、愛しているよ           

 

 

 

 

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   “ふたりだけの真理”は、ひとまずここで完結ということになります。未熟な文章にもかかわらず最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。本当はこの話、書きはじめた当初は健全兄弟の錬金術を駆使した兄弟喧嘩ドタバタ短編コメディのつもりだったのです。そう、白状するならば、うちの2人はノーマル大前提兄弟な設定なのでした・・・・・それがいつしかこんなことに・・・・・が-んん(з з)llll見事に横道(いや正道か?)に行ったことでこのサイトの傾向が決定付けられてしまいました。(まあ、これ書き始めたとき、まさか自分がサイト運営しちゃうとは夢にも思ってなかったんですが~・・・)今後も基本はこんなふたりでやってく予定です。できましたら末永いお付き合いを、ヨロシクお願いします♡    *** らく***

                          






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