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妊娠とくすり

 

妊娠と危険な薬剤

 

アメリカの調査によれば、生まれてくる子の先天異常の頻度は全分娩の2〜4%で、そのうちの65〜70%が原因不明、25%が遺伝的な要因によるもの、3%が母体の環境的な要因(薬剤・放射線・感染)によるものとされています。従って、薬剤による先天異常の頻度は必ずしも高いものではありませんが、服用時期や服用量によっては胎児に致命的な障害を与える可能性が十分にあり得るのです。当然のことながら、妊娠中には不必要な薬剤の服用は避けるべきなのです。

 アメリカ、オーストラリア、スウェーデンでは、妊娠中の薬剤の服用について客観的な基準が存在し、それに沿って妊婦に対する薬剤の選定などが行われていますが、日本では未だ十分な基準が無いため上記の国の基準に頼ったり、施設ごとに別々の基準を作成したりしているのが現状です。

 

胎児への薬剤の影響

 

@受精前〜妊娠3週末までの胎児

 この時期の胎児は、単なる「細胞の集団」で、どの細胞がどの器官に分化するか未定の段階です。

 受精後2週(+4日程度)以内に薬剤の影響を受けた場合には、着床しなかったり、流産して消失するか、あるいは影響を受けずに残った細胞が修復したり増殖したりして正常に回復する能力を持っています。つまり、この時期に薬剤の影響を受けたとしても、全く生まれてこないか、正常に生まれてくるかの二者択一であるのです。(※これを、「All or Noneの法則=全か無かの法則」といいます。)

 ただし、この時期に敢えて注意する必要がある薬剤は、残留性のある薬剤で、風疹ワクチンなど生ワクチンや金製剤(抗リウマチ薬)などです。

 

A妊娠4〜7週末(妊娠2ヶ月)までの胎児

 この時期は、中枢神経、心臓、消化器官、四肢などの重要臓器が作られるため、薬剤に対して最も気を付けなければならない時期です。

 過去に起きたサリドマイド事件も、この時期に服用したサリドマイドという薬剤の影響によるものです。これ以外にも、特に注意が必要な薬剤として、ホルモン製剤、ワルファリン、向精神薬、ビタミンAなどがあります。

 実は、この時期に“葉酸”というビタミンの一種を服用すると、催奇形性の発生頻度をおよそ3分の1に減らすことが期待されるため、厚生労働省は2000年12月に、葉酸をサプリメントとして積極的に服用することを通達しています。(※ただし、1日の量として0.4mg程度)

そのため、薬剤の服用の有無に関わらず、妊婦さんも妊娠を考えている女性も、この葉酸をできるだけ早めに服用しておくと大変効果的です。

 

B妊娠8〜15週末(妊娠3・4ヶ月)までの胎児

 この時期は、上記の重要臓器の形成が終了している時期ですが、まだ生殖器や口蓋(口の中の天井にあたる部分)の形成が未完成な時期であるため、この時期に服用した薬剤の影響が出ると、生殖器の形成が不完全であったり、口蓋裂(いわゆる兎唇)になったりするため、まだ油断のできない時期でもあります。

 

C妊娠16週(妊娠5ヶ月)〜分娩までの胎児

 この時期は、もう薬剤に対する奇形発生はありませんが、胎児の臓器障害や機能的発育に影響があります。一方、母体に関しては羊水量の減少、陣痛の抑制または促進があるため、発育を阻止するような薬剤や残留性のある薬剤は極力避けなければなりません。

 

 

アメリカFDA分類基準による、G.G.Briggsの分類

☆アメリカFDA基準

カテゴリーA

ヒトの妊娠初期3ヶ月間の対照試験で、胎児への危険性は証明されず、またその後の妊娠期間でも危険であるいう証拠がないもの。

カテゴリーB

動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されているが、ヒト妊婦での対照試験は実施されていないもの。あるいは、動物生殖試験で有害な作用(または出生数の低下)が証明されているが、ヒトでの妊娠3ヶ月の対照試験では実証されていない、またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠はないもの。

カテゴリーC

動物生殖試験では、胎仔に催奇形性、胎仔毒性、その他の有害作用があることが実証されており、ヒトでの対照試験が実施されていないもの。あるいは、ヒト、動物ともに試験は実施されていないもの。ここに分類されている薬剤は、潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合にのみ使用すること。

カテゴリーD

ヒトの胎児に明らかに危険であるという証拠があるが、危険であっても、妊婦への使用による利益が容認されるもの(例えば、生命が危険にさらされているとき、または重篤な疾病で安全な薬剤が使用できないとき、あるいは効果がないとき、その薬剤をどうしても使用する必要がある場合)。

カテゴリーX

動物またはヒトでの試験で胎児異常が証明されている場合、あるいはヒトでの使用経験上、胎児への危険性の証拠がある場合、またはその両方の場合で、この薬剤を妊婦に使用することは、他のどんな利益よりも明らかに危険性の方が大きいもの。ここに分類される薬剤は、妊婦または妊娠する可能性のある婦人には禁忌である。

※A→Xの順に胎児への催奇形性の危険度は上昇します。

 

※薬品名称は一般名(成分名)で記載してあります(50音順)。商品名等の詳細は、当サイト「お薬相談コーナー」をご利用下さい。

薬効分類

甲状腺治療薬

甲状腺(乾燥)

リオチロニン

レボチロキシン

 

 

プロピルチオウラシル

ヨウ化ナトリウム(131I)

ビタミン薬

ニコチン酸A

パントテン酸A

ビタミンAC

ビタミンB1A

ビタミンB2

ビタミンB6A

ビタミンB12A

ビタミンCA

ビタミンDB

ビタミンEA

葉酸

 

フィトナジオン

メナジオン

 

エトレチナート

抗ヒスタミン薬

 

シプロヘプタジン

クレマスチン

クロルフェニラミン

ジフェンヒドラミン

トリプロリジン

プロメタジン

 

 

糖尿病治療薬

 

インスリン

 

アセトヘキサミド

トラザミド

トルブタミド

 

抗凝血薬

 

ウロキナーゼ

アプロチニン

ヘパリン

ワルファリン

 

強心薬

 

カフェイン

ジギトキシン

ジギタリス

ジゴキシン

ジソピラミド

ドブタミン

ニフェジピン

ベラパミル

 

 

高脂血症薬

 

 

クロフィブラート

コレスチラミン

 

 

女性ホルモン剤

(卵胞ホルモン剤)

 

 

 

 

エストラジオール

エストロン

エチニルエストラジオール

クロミフェン

経口避妊薬

結合型エストロゲン

ジエチルスチルベステロール

メストラノール

女性ホルモン剤

(黄体ホルモン剤)

 

 

 

エチステロン

エチノジオール

ノルゲストレル

ヒドロキシプロゲステロン

プロゲステロン

メドロキシプロゲステロン

リネストレノール

 

抗菌薬

抗ウイルス薬

 

アムホテリシンB

エタンブトール

エリスロマイシン

クリンダマイシン

クロトリマゾール

サルファ剤

スペクチノマイシン

スルファサラジン

セファロスポリン類

ナリジクス酸

ペニシリン類

ポリミキシンB

リンコマイシン

アシクロビル

アマンタジン

アミカシン

イソニアジド

イドクスウリジン

塩酸コリスチン

グリセオフルビン

ゲンタマイシン

サイクロセリン

ストレプトマイシン

トブラマイシン

トリメトプリム

パス

バンコマイシン

ビダラビン

ピリメタミン

メトロニダゾール

リファンピシン

カナマイシン

キニーネ

テトラサイクリン類

 

 

ワクチン類

 

 

インフルエンザワクチン

コレラ

BCG

B型肝炎ウイルス

ポリオ生ワクチン

 

オタフクかぜワクチン

はしかワクチン

風疹ワクチン

非ステロイド

抗炎症薬

(NSAIDs)

 

イブプロフェン

インドメタシン

トルメチン

ナプロキセン

ジクロフェナク

スリンダク@

 

フェニルブタゾン

 

副腎皮質ステロイド

 

プレドニゾロン

デキサメタゾン

ヒドロコルチゾン

ベタメタゾン

コルチゾン

 

抗がん剤

免疫抑制薬

 

 

 

アザチオプリン

シクロフォスファミド

シスプラチン

シタラビン

ダウノルビシン

チオテパ

ドキソルビシン

ビンクリスチン

ビンブラスチン

ブスルファン

フルオロウラシル

ブレオマイシン

プロカルバシン

メルカプトプリン

メトトレキセート

 

抗不整脈薬

 

 

プロカインアミド

硫酸キニジン

 

 

血管拡張薬

 

 

亜硝酸アミル

ジピリダモール

硝酸イソソルビド

トラゾドン

ニトログリセリン

 

 

降圧薬

 

アセブトロール

アテノロール

エナラプリル

オクスプレノロール

カプトプリル

クロニジン

チモロール

ナドロール

ヒドララジン

ピンドロール

プラゾシン

プロプラノロール

ラベタロール

メトプロロール

メチルドパ

レセルピン

 

利尿薬

 

 

アセタゾラミド

マンニットール

フロセミド

エタクリン酸

クロルタリドン

スピロノラクトン

チアジド類

トリアムテレン

 

鎮咳・気管支拡張薬

 

テルブタリン

アミノフィリン

イソプロテレノール

エフェドリン

エピネフリン

コデイン

テオフィリン

フェニレフリン

 

 

消化性潰瘍治療薬

 

シメチジン

ラニチジン

 

 

 

制吐薬

 

ジメンヒドリナート

メクリジン

メトクロプラミド

 

 

下剤

 

硫酸マグネシウム

カサンスラノール

 

 

鎮静薬

 

 

抱水クロラール

アモバルビタール

セコバルビタール

フェノバルビタール

ペントバルビタール

オキサザパム

ジアゼパム

フルニトラゼパム

ロラゼパム

ブロム化合物

 

鎮痛・解熱薬

 

アセトアミノフェン

フェナセチン

ペチジン

ペンタゾシン

モルヒネ

アスピリンD

 

 

抗けいれん薬

 

 

エトスクシミド

カルバマゼピン

クロナゼパム

エトトイン

トリメタジオン

バルプロ酸

フェニトイン

フェノバルビタール

プリミドン

 

向精神薬

 

 

フェノチアジン類(D以外)

ハロペリドール

メチルフェニデート

クロルプロマジン

炭酸リチウム

アミトリプチリン

イミプラミン

クロミプラミン

ノルトリプチリン

 

自律神経作用薬

 

 

アセチルコリン

アトロピン

アンベノニウム

イソクスプリン

エドロホニウム

スコポラミン

ドパミン

ネオスチグミン

ピリドスチグミン

フィゾスチグミン

フェニルプロパノールアミン

ベタネコール

メペンゾラート

ロートエキス

 

 

診断用薬

 

インジゴカルミン

エバンスブルー

ヨード造影剤

放射性ヨード剤

その他

 

免疫グロブリン類

高カロリー輸液

エタノール

メチル水銀

※@第3半期(妊娠後期)及び出産間近に服用した場合はD、A奨励されている1日量以上または服用時期によってはC、B奨励されている1日量以上または服用時期によってはD、C奨励されている1日量以上または服用時期によってはX、D第3半期に最大投与量を服用した場合はD


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