「人物事典」にて、 “顕家様 美少年説” の元となったと推測されている『増鏡』及び『舞御覧記』です。

管理人は、以前から“顕家様 美少年説”は、「美少年であった方が、話は面白いけれども、実際のところは不明」と考えていました。
しかし、ネットで顕家様関係の記述を見ていると、定説のように語られていたり、それについての根拠があるような記述があったりして、すごく不思議に思っていました。

人物事典にも書いていますが、「太平記の群像」(角川書店)には、
“「増鏡」における顕家の陵王の舞の記録から、舞の技だけでなく容姿も優れていたような印象を受けるので、美少年とする伝承はここから生まれたのであろう”
と書かれているぐらいですから、 “北畠顕家の容姿が美しい” というのは、想像でしかなく、信憑性の高い記述が古典の何かに書かれていると言うわけではないはずです。もし、そのような記述があれば、専門家である先生方が必ず美少年であることを断定的に書かれているはずです。

美少年と言う記述はどこにもないはずなのに、なぜ確信を持って美少年と思っている方がいらっしゃるのか不思議に思いましたので、今回、“顕家様 美少年説” の元となったと推測される『増鏡』と、増鏡が書かれる際に参考にされたと考えられている『舞御覧記』の現代語訳に挑戦してみました。
ただし、管理人は顕家様にしか興味はありませんので、訳したのは顕家様登場部分のみです(笑)。

また、管理人は古文が得意ではありませんので、間違った解釈をしている可能性がかなり高いです。(ネットで古文を訳されている方の文章を参考にさせていただきましたが・・・)
ですので、あくまでここでの現代語訳は参考までにとどめておいて下さい。


『増鏡』原文

『増鏡』現代語訳

暮れかかる程、花の木の間に夕日花やかにうつろひて、山の鳥の声惜しまぬ程に、陵王の輝きて出でたるは、えも言はず面白し。其の程、上も御引直衣にて、倚子に著かせ給ひて、御笛吹かせ給ふ。常より異に雲井をひびかす様也。


宰相の中将顕家、陵王の入綾をいみじう尽くしてまかづるを、召し返して、前の関白殿御衣取りてかづけ給ふ。紅梅の表着・二藍の衣なり。左の肩にかけていささか一曲舞ひてまかでぬ。右の大臣大鼓打ち給ふ。其の後、源中納言具行採桑老を舞ふ。これも紅のうちたる、かづけ給ふ。





原文はこちらのサイト様から引用させていただきました。
「J-TEXTS 日本文学図書館」 http://www.j-texts.com/
「増鏡」(むら時雨 P284)
暮れかかる頃、桜の花の木の間に夕日が鮮やかに映え合い、山の鳥も声を惜しまず鳴いているところに、陵王の舞人が輝くように舞い出て来たのは、なんともいえない趣がある。そのとき、天皇も御引直衣で倚子におかけになって、御笛をお吹きになる。普段より格別に雲井を響かす様子である。

参議中将顕家(北畠顕家)が、陵王の入綾の妙技で退場するのを呼び返して、前関白道平公(二条道平)が御衣を取って、褒美としてお与えになられる。紅梅の上着、二藍の衣である。左の肩にかけて、わずかばかり一曲を舞って退出する。右大臣(長通公)が太鼓をお打ちになる。その後、源中納言具行(北畠具行)が採桑老を舞う。これも紅の打衣を褒美としてお与えになられる。

語句注釈

倚子(いし) :腰掛の一種。天皇の使用するもので立礼の儀式に使われた。後世の椅子に当たる。
  <参考>「風俗博物館を10倍楽しむ!」 http://evagenji.hp.infoseek.co.jp/co-2002-12-2-9.htm
入綾 :舞楽が終わって、舞人が退場する時、ふたたび引き返して舞いながら楽屋に退くこと。
いみじ :はなはだすぐれている
尽くす :その極まで達する。きわめる。
  <参考>妙技:すばらしいわざ。非常にみごとな技術。
かづける :被(かず)け物として与える。
  <参考>
  被け物(かづけもの):目下の者の功績や労苦に対して与える贈り物。衣服などが多い。
  受領者の肩に掛けて与えたところからいう。禄(ろく)。纏頭(てんとう)。
賜わる/給わる :「与える」の意の尊敬語。鎌倉時代以降の用法。目上の人が物などをくださる。
紅梅 染め色の名。濃い桃色。後には紫がかった赤色。
   <参考>「Wikipedia」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%B2%E5%90%8D%E4%B8%80%E8%A6%A7_(%E3%81%93)
表着(うはぎ) :衣服を重ねて着る時、一番上になるもの。貴族女性の正装としては、さらに唐衣を着、裳を腰につける。=上着
二藍 :染め色の名。紅花と藍とで染めた色。<参考>「Wikipedia」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E8%97%8D
まかづ(罷づ) :退出する。「退く」「去る」「行く」の謙譲語。
打衣(うちぎぬ) :きぬたで打ってつやを出した衣。貴婦人が正装の時、袿(うちき)を重ねた上に着たもの。多くは紅色の綾で、この上に表着・唐衣・裳をつける。後には男子のものもある。