1999.07.11 島々谷集中豪雨による土砂流出調査

砂防ダムいらない渓流保護ネットワーク 文・写真 吉沢幸宣・田口康夫
調査日 1999.07.11  本流
1999.08.26  北沢
1999.09/05小嵩沢
1999.10.13  南沢
1999.12.04  本流

はじめに

 1999年6月27日から30日にかけての降雨量は松本で168.5mm、奈川で232.0mm、上高地で185.0mmと1971年以来、30年に一度の大雨になった。そこで、7月11日に島々谷に入り土砂流出状況を調査した。当初3号ダムまで車で行く予定であったが、驚いたことに、谷の入り口から通行止となっていて、下流から歩いて調査することになった。

数字、アルファベットは写真番号


下流域 梓川合流点から3号砂防ダムまで

 住宅地近辺にある0号、1号の近くにおいてかなりの土砂流出が見られ河原の様相は一変していた。

写真1              写真A

 今回の豪雨が原因と思われる底抜けが見られた。この場所は島々谷の入り口近くで調査をはじめたばかりの地点である。島々谷ではダム建設予定地の北沢ではなく下流における安全対策の必要性を予感させられた。

写真3 底抜けして危険な状態の砂防ダム

 

 当グループの発足を祝い、またシンポジウムの現地見学会の時に駐車場となった河原は流出し、川となっていた。下流でこのような状態であり、上はどうなのかと思ったのだが・・・。

写真B

   途中道がすっかり流されている箇所があった。土砂流出により川がせき止められ、その後せき止められた土砂が一気に流されたときに道を削りとったものと思われる。3号砂防ダムまでまだまだ遠いのに下流の0号、1号近くでの土砂流出が目立った。

写真5 道がすっかり流され、川と同じ高さになり護岸の上を平均台のように歩いて進みました。

 

写真C,D 

 3号砂防ダムまでの間、9箇所の土砂流出がみられた。そのうち2箇所は中規模のもので道を塞ぎ川にかなりの土砂流出があった。

写真E,F

 川の水は大雨から10日ほどたっていたが、まだ、濁っており土砂流出の影響が続いていることが感じられた。


3号砂防ダムから二俣まで

 3号砂防ダムに向かって上流に歩いて行くうちに、川の水が徐々に奇麗になっていく。3号砂防ダムのすぐ上にある小嵩沢は、昭和20年の土石流災害の原因となった支流であるか、今回の調査でも、本流との合流点を見ると、本流より2mも川床が高くなっており、多くの土砂が小嵩沢から流出していることが分かった。

写真7 左上側が小嵩沢からの流れ。右側が島々谷川の本流。
一目で小嵩沢からの土砂が圧倒的に多いことが分かる

 過去の災害は小嵩沢の土砂が本流をせき止め、天然のダム状態になり、それが決壊して多くの被害を出したようである。しかし、現在は、この土砂はすべて3号砂防ダムが止めている。

場   所 土砂流出個所数
下流から3号ダムまで  9(中規模2)
3号から二俣まで 10(中規模2)
小嵩沢 10(中規模3)
北沢  9(中規模2)
南沢 13(中規模2)

 下流から二俣まで19箇所の土砂流出が見られたが、その殆どが道路側であった。このことから、山の斜面を削って作る道路は、土砂流出の誘発につながっていることが考えられる。

 

写真J,K

写真L,M


北沢の状況

 6号砂防ダム予定地の盛土が崩れて流出し、5号、4号砂防ダムを埋めてしまった。上流に作る砂防ダムが下流の砂防ダムを埋め、その機能を減少させている。

 

写真N,O

 

写真Q,R

 北沢の上流ではゴウロ帯の上流に土砂が堆積しており、ゴウロ帯が天然の砂防ダムの役割を果たしていた。また、多くの拡幅部は土砂を堆積させ、流出土砂の調節効果をもたらしている。


南沢の状況

 生産された土砂は北沢同様、ゴウロ帯、および沢の拡幅部に堆積しており、谷の持つ本来の流出土砂調節機能が働いていることがわかった。今回の大雨でも、北沢、南沢の流れが集まっている3号砂防ダムへの土砂流入の状況を見ても分かるように、下流への流出は少なかった。


調査結果

 今回の調査で、北沢および南沢からは土砂流出が少なく、支流の小嵩沢からの土砂流出が多いことが分かった。小嵩沢からの土砂は3号砂防ダムによって止められている。3号ダムより下流において、土砂流出個所が多かった。6号砂防ダム工事で出た土砂を河床内に盛土したため、それが土砂流出の原因となり下流の4号、5号砂防ダムを埋めてしまい、砂防ダムの土砂調節機能を低下させていた。

 

写真P、15 大雨で流出した6号砂防ダム工事による盛土 (右側の写真中央に小さく見えるのは田口氏)

写真 1998.09.11 の6号砂防ダム工事による盛土の状態(崩れる前)


提言

1.6号砂防ダム建設の中止

 防災の面からは、3つの大きな沢の水が一つになる3号砂防ダムよりも下流域における土砂流出の方が問題であり、6号砂防ダムを建設しても、下流域の土砂流出への効果は殆ど無いものと思われる(3号砂防ダムへの土砂流出は本流よりも小嵩沢の方がはるかに多い)。よって、島々谷に残された貴重な自然環境を破壊するだけでなく、防災の面からも疑問のある6号砂防ダムの建設を中止して欲しい。

2.盛り土の撤去

 6号予定地の河床内の盛り土は、今後の大雨で流出する可能性が十分予想され防災上好ましくないので撤去してほしい。

3.4号、5号砂防ダムの浚渫

 6号砂防ダム工事による土砂で機能が低下した4号、5号砂防ダムを浚渫する必要がある。

4.3号砂防ダムの浚渫

 過去の災害の原因となり、現在も土砂流出の多い小嵩沢からの土砂を防いでいる3号砂防ダムは、土砂流入により機能が低下した場合、速やかに浚渫する必要がある。

5.0号、1号、4号、5号砂防ダムのスリット化

 0号、1号、4号、5号砂防ダムを土砂排出の出来るスリット式などに改修することが、防災および自然環境にとって効果的と考えられる。特に1号砂防ダムによる河床の上昇は、大増水の場合、現在の道路上を土石流が通過して民家を直撃する可能性があるので、スリット式に改修し、元の河床高に戻す必要を感じる。

6.北沢、南沢に新たに砂防ダムをつくらない

  今回の調査で、北沢および南沢からは土砂流出が少なく、谷の持つ本来の流出土砂調節機能が働いていることがわかった。よって北沢や南沢に新たに砂防ダムを作っても、防災上の意味は少なく、自然環境へのダメージを与えるだけとなる。もし、つくる必要があるならば、3号ダムより下流で土砂流出が見られるので、1号ダムより下流の川幅の広い部分に高さ1mくらいのスリット型の低ダム群をつくることも考えられる。

7.危険地帯の土地利用の規制

 予測できない土石流は、砂防ダムなどのハード面の対策では完全には防止できないので、土砂災害の危険が予想される地域への新たな住宅などの立地を規制する必要がある。また、危険地域に家がある場合、安全な場所への移転を補助する制度を検討すべきである。

8.ソフト面の対策

 気象条件などによる土砂流出が予想される場合、緊急避難体制の整備を行うソフト面の対策を充実させる必要がある。

9.土砂流出の原因となる道路建設と森林の完全伐採の中止

 土砂生産を加速させている道路建設や森林の完全伐採は一切止め、流域の森林の育成、手入れなどを行う。

 以上に示す対応が防災、自然環境、経済面から見て良いと思われる。最後に、今回松本砂防工事事務所で約10年ぶりに土砂流出測量調査が実施されているが、その結果を市民・地域住民に情報提供してもらい、自然環境と調和のとれた最も良い防災対策を市民とともに検討してもらいたい。


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