四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.021「思い出のプログラム」
「メモリアルプログラム」っていう新しいサービスの広告を見かけたのは、ほんの偶然だった。なんでも、死亡した人についてのデータを集めて、生前の本人とそっくり同じAIを作り出してくれるサービスだとか。
ちょうどお婆ちゃんが亡くなった直後だった。父母や妹が沈んでいて、家が陰鬱な雰囲気になっているのが耐えられなかったので、申し込んでみることにした。
お婆ちゃんに関するあらゆるデータの提出を求められた。出生証明、死亡証明、写真、日記、その他あれこれ。
三週間後、完成したAIが届いた。
AIをインストールすると、コンピュータの画面に、生前のお婆ちゃんの姿が映し出された。もちろんコンピュータで合成した姿だけど、ほとんど本当のお婆ちゃんと変わらない。テレビ電話でも通して眺めているようだ。
「え、えーと……こんにちわお婆ちゃん」
僕がおずおずと声をかけると、お婆ちゃんはにっこり笑って、
「こんにちは、隆志。元気かい?」と答えた。
そのしぐさ、口調、目を細める癖など、どれをとっても生前のお婆ちゃんとそっくり。正直、びっくりした。予想したよりはるかによく出来てる。
それから、家族全員で長い時間、お婆ちゃんと思い出話をした。
父母が小さかったときのこと。僕が生まれたときのこと。家族みんなで旅行に出かけた思い出。画面の中のお婆ちゃんは、昔のことを全部覚えていた。生前の記憶は、AIのお婆ちゃんに全部記録されていたんだ。
その日から、僕たちは画面の中のお婆ちゃんと団欒するのが日課になった。食事のとき、お茶のとき、テレビを見ているとき。お婆ちゃんはいつもにこやかに微笑んで、生前とまったく変わらず家族の話に加わっていた。
ある日のこと、家族みんなで雑談しているとき、お婆ちゃんが不意に問いかけた。
「なあ、お前たち……」
みんなが画面を見つめる前で、お婆ちゃんは続けた。
「あたしゃ死んでるのかね、それとも生きてるのかね?」
僕らは返す言葉を失って、お婆ちゃんを呆然と見つめていた。