四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.019「窓から見えるパリ」

 行きつけの喫茶店が新装開店した。
 久しぶりに行ってみたら、すっかり内装が変わって、アンティークな飾りの綺麗なデザインになっていた。
 だけど、なんといっても驚いたのは窓。
 壁一面の窓を通して見えたのは、なんとパリの凱旋門だったんだ。
 びっくりした僕のところに、ゴシック風メイド服のウェイトレスがやってきてにっこり笑って話しかける。
「窓の外でしょ? みなさん驚かれますよ」
「う……うん。どういうことなんだい?」
「実はね、この窓全部ディスプレイなんですよ」
「え? これが?」
「はい。ガラスに埋め込める新しいディスプレイなんです。それで、本当にパリにセットしてあるカメラで撮った光景をこの窓に映せるんですよ」
 なるほどなあ。そういえば、ただの写真じゃなく、ちゃんと動いてる。じゃあ、今パリにあるのと本当に同じ光景が、ネット経由でそのままここに写ってるわけだ。
「パリだけでなくウィーンでも、ニューヨークでもバンコクでもカルタッタでも、ご希望ならばグランドキャニオンでもアマゾンでも映せますよ」
 そう言われて、改めて窓を見渡してみる。壁一面にシャルルドゴール広場の光景が映し出されている様子は、まるで本当にパリに来ているみたいだ。
 ふと、窓の向こうに見慣れた人影がいるのに気づいた。
「あ、香澄!」
 そういえば、パリに旅行に行くと行ってたっけ。ちょうど窓の外を通りかかるなんて。
 思わず香澄に向かって手を振ったとき、一台のトラックが視野に入った。積載量を軽く超えて積んでいそうな古いトラックで、対向車をよけ損ねて車線をはみ出し、香澄の歩いている歩道に飛び込んできた。
 思わず窓に走り寄り、窓に映るトラックを両手で突き飛ばしてから、はっと気が付く。そうだ、これはパリの映像なんだった。じゃあ香澄は……?
 突然携帯の呼び出し音が鳴る。香澄からだった。
「隆志さん……? 今パリにいるんだけど、びっくりしたわ……。トラックが突っ込んで来たんだけど、なんか目の前で、まるで突き飛ばされたみたいに飛んでって、それで助かったんだけど……もしもし? 隆志さん?」