四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.017「探さないで」
いつものように仕事のドキュメントを開いて、目が飛び出そうになった。
なぜって、ドキュメントの中身がすっかり消えていた。
その代わりにただ一言。
「家出します。探さないでください。契約文書.docより」
おい……家出だ? ドキュメントが?
デスクトップとハードディスクの中を探し回ったけど、どこにも契約文書.docがいない。冗談じゃないぞ、早く書類を作成して送らなきゃならないのに。
しょうがない、メーカーのサポートに電話してみるか。
「あ〜、最近多いんですよ、家出するファイル」
サポート窓口はあっさり言った。
「どうもこの、最近はコンピュータもその、インテリジェンスって奴になり過ぎましたからね。その〜、ストレスが溜まって発作的に出て行くみたいなんですね。ま、あんまり心配することじゃありませんよ。そのうち疲れて帰ってきますから」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そう言われても、今すぐあのファイルが使えないと俺は困るんだって。どうやって探せばいいんだ?」
「そうですか。それではちょっと追跡してみましょう。このサービスは有料ですが、よろしいですか? はい。それでは、お使いのコンピュータのデータをお送りください……」
おれはサポートの指示通り、コンピュータのデータを送信した。
結局、契約文書.docは俺の同僚のパソコンに逃げ込んでいるのが見つかり、無事俺のところに返された。
まったく、手間をかけさせやがって。ファイルが家出だと?
帰ってきたファイルに、俺は最初に「ふざけるな!」と打ち込んでやった。
それから毎日、契約条項の修正が繰り返され、俺はそのたびにファイルの修正を繰り返していた。
数日後、同じドキュメントを開くと、また中身が消えていた。
そして、ただ一言。
「人生に疲れました。自殺します。契約文書.doc」
……いいかげんにしろ、こら。