四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.016「返信は『ありがとう』」
送信した瞬間、間違いに気付いた。
宛先アドレスを手で打ち込んだのがいけなかったな。"sayaka@xxx.xxx"のはずが、"ayaka@xxx.xxx"で送信してしまった。
やれやれ。親戚の娘のさやかちゃんに誕生日のお祝いを送ろうと思ったのに。エラーで返ってくるか、間違って別の人に届いてしまうか。もし別の人に届いてしまったら謝らないと。
そう思いつつ、改めてさやかちゃんに誕生日メールを送った。
その晩遅く、間違いメールに返信があった。
そこには、たった一言「ありがとう」とだけ書いてあった。
ありがとう? どういうことだろう、間違いメールなのに。もしかして、相手の人が偶然にも同じ誕生日だったとか?
不思議に思いながら、とにかく間違いメールのお詫びを書いて送信したけど、その人からそれ以上の返信はなかった。
そして一年くらい経ち、すっかり忘れていた頃、その人からメールが届いた。
「あの日にメールをくださった隆志さんへ」
メールはそう始まっていた。
「……あの頃わたし、人生に絶望していました。恋人と別れ、鬱になって仕事も辞め、一日中外にも出ずにぼ〜っとしてました。友達とも縁が切れて、あの頃の私は一人ぼっちでした。
死にたかった。でも、どうしても死ぬ決断ができなかったんです。
それで決めたんです。どんな内容でもいい、あの日一日誰からもメールが来なかったら……死のうって。
誰からも、メールなんか来るはずないと思って。そうしたら、死ぬ決心が付くかなと思ってました。
でも、あなたからメールが届きました。
……あのとき死ななくてよかったって、今心から思ってます。
あの後で、すっかり生活が変わりました。今は……幸せです。今こうして幸せでいられるのも、……あのときあなたがメールをくださったからなんですね。
改めて、ありがとうって言わせてください」
手紙の最後には「綾香より」と記されていた。
……世の中、奇妙な偶然ってあるんだなあ。