四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.015「どこまで仮想現実?」
科学博覧会に行ってみたら、「仮想現実館」という展示があった。
なになに、「最新の立体映像と環境フィードバック機構の組み合わせにより、限りなく現実に近い仮想世界を再現。現実と仮想の区別も付かない超リアルな経験を楽しめます」か。
チケットを買ってゲートをくぐり、中に入る。
目の前に小さな町並みが広がっていた。ゲートから続く路地が少し前で片道四車線の広い道路と交差し、両側には小さなビルや商店が並んでいる。広い道路の両脇には街路樹が植えられ、通りを歩く歩行者や、走り抜ける車まで再現されていた。
こりゃあ凄いな。どう見ても本物の町並みだ。
とりあえず、交差点まで歩く。右に曲がってレンガ敷きの広い歩道をぶらぶらと進んで行く。
歩道を歩いている歩行者は、僕の姿を見ると道を空けて歩いていく。なるほど、これが環境フィードバックってことか。単なる映像じゃなくて、こちらの姿まで捉えてちゃんと反応しているんだ。
ふと、歩行者の一人に手を伸ばしてみた。すると手は歩行者の体をすっと通り抜けてしまう。手が体の中に入り込んだとき、その体と僕の手が半透明に重なって見えた。
ふ〜ん……。本物そっくりでも、やっぱり映像なんだ。
面白がって次々に歩行者に触っていたら、何人目かの歩行者に、いきなり「何するの?」と怒鳴られた。あ、この人は映像じゃなく、展示を見に来た本物の人間か。触らなきゃ区別がつかないぞ。
一通り見終わったので、ゲートからまた外に出た。
周囲に他の展示館が並び、それらの間を行きかう人たちがせわしなく歩き回っている。見ていても、さっきまでの仮想現実館とまるで同じに見える。
仮想現実ってのもここまで来たのかと思うと、なんだか感慨深いなあ。
と、足がつまづいて倒れそうになり、前を歩いている人にぶつかってしまった……と思ったら、その身体を突き抜けてしまった!
え?
まわりの歩行者や建物、標識や車なんかに触ってみると、どれもこれも突き抜けてしまう。全部映像だ。どういうことだ?
不安に駆られた。走って博覧会場を出る。会場のゲートも……フェンスも……全部映像だ。会場を出たのに、あのビルも、この看板も、全部映像じゃないか!
「僕は……いったいどこにいるんだ?」