四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.013「ショッピンガイダー」

 仕事から帰ろうとしたとき、携帯に玲子からメールが入った。
「お夕飯の材料が足りないから帰りに買ってきてね。玲子」
 やれやれ、またか。玲子もちゃんと買い物くらいしておけよ。
 メールには、買い物の一覧がずらっと並んでいる。
 おいおい、こりゃ材料が足りないってレベルじゃないぞ。何から何までじゃないか。
 いつものスーパーに車を止めて入る。手押し式のショッピングカートを取って売り場に入ってから、右腕にはめた「ショッピンガイダー」を見る。
 これだ、これ。最近玲子が俺に買い物を押し付けたがる理由。
 スーパーのネットとつながっていて、買いたいものがどこにあるか、普段の値段と比べて高いか安いか、鮮度と賞味期限、その他もろもろの情報を全部表示してくれる。
 つい最近発売された新製品だ。新しいもの好きの俺としてはつい買っちまったが、確かに便利なんだが、おかげですっかり玲子が怠けるようになっちまった。
「すき焼き用牛肉五百グラムは、南中央の十二番売り場でお求めになれます」
 ショッピンガイダーから声がする。もちろん買い物の内容は、携帯からこいつに自動的に転送されている。
 指示どおりに売り場に行って、肉のパックを手に取る。
「その牛肉は鮮度が落ちております。別のものをお勧めします」
 便利というか、いちいちうるさいというか。
 指示されるままに買い物を続けていくと、ショッピンガイダーが警告音を鳴らした。
「ただいま北東の四番売り場で、マスクメロン一個四百五十円のタイムセールを行っております。あと二分で終わりますのでお急ぎください。
 玲子のメモをチェックする。「メロン、安かったら買ってきてね」か。
 よし、行くか。
 だけど、このスーパーはけっこう広い。北東の売り場というと、いまいる反対側だ。急がないと。
 トレイを押して、足早に北東の売り場に急ぐ。
「お急ぎください、あと三十秒です」
 わかった、わかったって。
 売り場の角を曲がったとき、目の前に人影が現れた。
 俺と同じように、トレイを押して走ってきた若い奥さんらしい女だった。
 気が付いたときには遅く、俺たちは正面から思い切りぶつかって転んでいた。
「痛てえぇっ……」
 頭を押さえて立ち上がった俺は、ぶつかった相手を見てその理由を悟った。
 彼女の腕には、俺のと同じショッピンガイダーがはめてあったんだ。