四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.011「とことんユビキタス!」

 ユビキタス・コンピューティングって言うんだっけ? あれもなんか、良し悪しだよなあ。
 超低価格な、使い捨てできるICチップが開発されて、今じゃ何から何までコンピュータ内蔵になっちまった。
 ちょっと前まではみんな携帯を持って歩いてたが、今じゃ携帯を持つ必要もない。どこにいても、近くにある物を使用して電話が通じるし、ネットにもつながる。
 便利なのは確かなんだが、どうもいいかげんに鬱陶しくなってきた。ていうのは、どこへ行っても電話とネットから離れられないわけで……。おまけに、いつ何を使って電話がかかってくるかわからないんだ。
 この間なんか、珍しく料理しているときに、突然包丁から電話の呼び出し音が鳴って仰天した。あんときは思わず、「いてっ! 指切ったっす」なんて駄洒落が出ちまった。
 んで、今夜はボーナスも出たんで、会社の同僚と近くの天ぷら屋で一杯。
 こういうときくらいは仕事を忘れて気楽にやりたいもんだ。
 ……だが、世の中そう甘くはなかった。酒のコップに口を付けようとしたとき、そのコップから呼び出し音が鳴り響いた。
 俺は口に運ぼうとしていたコップをあわてて耳に寄せる。
「はい、高田です……。ああ部長ですか。ええ、新製品の開発予定については芳川君にまかせてありますので、急ぎでしたら彼に確認してください……」
 電話が切れたんで、俺はコップをまた口に戻して酒をあおった。
 こんな調子だ。このコップもICチップ内蔵でネットに接続されてるわけだ。
 いくら安く作れるからって、こう何にでも組み込むなんて考えたのは誰だよ。
 おかげで上司は時と場所をかまわず電話してくるし。
 同僚と不満をこぼしていると、また呼び出し音……今度はどこからだ? って、この箸かよ、今度は。
 箸を電話機みたいに顔の横に構えてる姿ってのも、相当間抜けな気がする。
「はい……。ああ、村田君か? え、顧客先でシステム止まった? ちょっと待ってくれ……」
 とりあえず手近にあった灰皿でネットに接続して、会社のデータベースにアクセスする。顧客先とシステム名、それから村田が話した症状から対処法の情報を割り出した。
「うん、そうだ。こう対処して、まだ駄目だったら対処チームに連絡してくれ。それじゃ」
 くそ、なんでこんなところで仕事を続けなきゃならないんだよ。
「俺、ちょっとトイレな」
 同僚に言い訳してトイレに入る。
 はあ。ちきしょう、ユビキタスなんて考えた奴はくたばっちまえ!
 と、そのとき、目の前のトイレットペーパーが鳴り出した。
「……もう勘弁してくれ」