四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.010「画面の向こうに……」
新しく購入したパソコンに、「触れる立体ディスプレイ」というのが付いていた。
立体ディスプレイは最近珍しくないけど、触れるやつというのは初めてだ。
電源を入れると、ディスプレイの手前にウィンドウが飛び出してきた。ディスプレイの前方十センチメートルくらいにぽっかりと浮かんでいるように見える。新しいウィンドウを開くと、それもディスプレイの前方にぱっと浮き上がって見える。なるほど、こりゃ面白い。
で、「触れるディスプレイ」ってのはどういう意味だろう。
空中に浮いているウィンドウに、そろっと手を伸ばしてみる。もちろん映像だから、ウィンドウに触れてもなんの感触もない。と、指先がボタンに触れたとたんにぱっとウィンドウが画面から消えた。
なるほど、触れるってのはこういうことか。
指先でメニューバーに触れるとメニューが表示される。指先でウィンドウをつまむと、実際につかんでいるみたいに動かすことができる。どんな原理なのか分からないが、とにかく指先の動きを読み取って、画面が反応するみたいだ。
う〜ん、こりゃ便利……かどうかは分からないけど、確かに面白い。
前に飛び出しているウィンドウを指先で押すと、そのウィンドウが後ろに下がる。後ろにあるウィンドウと交差した瞬間、まるで通り抜けるみたいにウィンドウが向こう側に隠れて行く。って、映像なんだから当然か。
いろいろと遊んでいると、娘の真由香が突然後ろから首に抱きついてきた。
「ね〜、パパ!」
「わっ!」
驚いた拍子に、手が画面を激しく叩いてしまう。
と、画面の前に浮かんでいたウィンドウが勢いで飛び散り、みんな画面の奥に消えてしまった。
ありゃ……。困った。
思わず画面の奥に手を伸ばすと、なんと腕がずっぽりと画面の中に入ってしまった。
「え……?」
ひじまで画面の中に入り込んだ腕を見つめて呆然としていると、指先に何か冷たいものが触れた。
ぞくっ。
手だ。氷みたいに冷たい手の感触。それが、俺の手を握りしめてきた。
背筋が寒くなって、あわてて手を引き抜く。画面を見直してみたけど、何も変わったことはなかった。
だけどそれ以来、このディスプレイを使うのが恐ろしい。
いつの日か、画面から青白い手がにゅっと飛び出してきそうな気がして……。