四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.009「きれいに削除」

 「ファイルをきれいに削除できるクリーナー」というのを買ってきた。
 てっきりソフトウェアだと思ったのに、パッケージを開けてみたらなんと入っていたのはスプレー缶だった。
 説明書を見る。なになに、「画面上で消したいファイルにスプレーしてから、付属の専用スポンジでふき取ってください」
 すげー、うさん臭い。
 でもまあ、買ってきたからいちおう使ってみるか。
 ディスプレイの画面でフォルダを開いて、いらないファイルにスプレーする。それから、パッケージに入ってたスポンジでふき取る。
 と、画面からそのファイルが消えた。いや、画面がおかしくなったわけじゃない、ちゃんと映ってる。ただ、そのファイルのアイコンだけがきれいに消えちまったんだ。
 いろいろ調べたが、確かにそのファイルは完全に削除されてた。
 嘘みてーだが、こりゃ本物だ。
 別のファイルを削除しようとして、またスプレーしてみた。と、手元が狂って、近くにあった別のアイコンにかかってしまう。しまった。……まあとにかく、かかってしまったものはふき取らないと。
 ところが、ふき取ったとたんに機械の調子がおかしくなった。あれれ? あったはずのドキュメントフォルダがなくなってるぞ。ていうか、ハードディスク全体が見えなくなってるじゃねえか!
 そこで、はっと気付いた。今消したアイコンは、二台目のハードディスクのアイコンだった。……てことは、まさか。
 パソコンのケースを開けてみた。と……、なんてこった。あったはずのハードディスクが跡形もなくなっちまってるじゃねえか。
 こりゃ、本当になんでも消えちまうんだ。こんなもん使えるかよ。
 で、このクリーナーは使わずに放っておくことにしたんだが。
 あるとき、ディスプレイが汚れてきたんで掃除しようと思ったとき、普通のクリーナーのつもりで間違えてこいつを使ってしまった。
 ディスプレイにスプレーして、ふき取ったとき、突然変な感じがした。妙に首が軽くなった気がする。
 どういうことだ? 考えた俺は、はっと気付いた。ディスプレイの掃除をするために、電源は切っていたんだ。つまり……。
 今ふき取ったのは、画面に映った俺自身の顔だったんだ。