四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.007「迷路」

 夢に決まってる。こんなことが現実にあるわけないもんな。
 けど、いま問題なのはそこじゃなく、この状況をどうするかってことだ。
 俺はなぜか、小さく小さくなっていた。そいでもって、パソコンのケースの穴から落っこって、CPUの上に着地してしまっていた。
 いまのCPUってやつは、何千万個だかのトランジスタが収まってて、回路図を紙に書くと東京ドームいっぱいになるとかいう話を聞いたことがある。詳しいことはよく分からないが、その馬鹿でかい回路図の線の一つ一つが高い壁になって、自分がその中に放り込まれたと想像してくれ。それが、俺の今の状況だ。
 こうやってみると、CPUってのはとんでもなく巨大な迷路そのものだ。自分がいる場所がCPUのどこら辺なのか、ここは何の回路なのか見当も付かない。
 とにかく、出口を探さないと。
 歩き回った。何時間歩いたのかもわからない。ただうねうねと曲がりくねった通路を延々と歩き続けた。どうしてこんな場所で必死にならなきゃいけないのか、未だに見当が付かない。
 と、曲がり角を抜けると急に道が変わった。今までの曲がりくねった道が、今度はまっすぐな格子状になっている。
 しめた。まっすぐに伸びている道ということは、この先はキャッシュメモリの回路だ。ということは、ここをまっすぐに行けばCPUから出られるはず。
 そのまましばらく進むと、前方に光があふれるドアが見えてきた。
 あれが出口に違いない。
 俺がその光のドアをくぐると、目の前が一瞬真っ白になり、次の瞬間俺は小さな部屋で椅子に座っていた。
 制服姿のコンパニオンがドアから入ってきて、俺に向かってにっこりして話しかける。
「いかがでしたか? 最新CPUの仮想現実体験ツアー。弊社のCPUに使用されております高度な技術を実際に体験できると、皆様からご好評をいただいております……」
 あ、そういえばコンピュータショーを見に来て、体験に申し込んだんだった。始める前に説明をなんやら言ってたけど、全然聞いてなかったぜ。
「それにしても、ずいぶん長い間ご覧でしたね。そろそろ終了時間ですのにおやめになる様子がなかったので、お声をおかけしようと思ってたところですわ。そんなにお気に召しましたか?」
 ………………。
「いや、凄いね……」
 俺はやっと一言だけ答えて、へたり込んだ。