四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.005「届くはずのないメール」

 そんなはずがあるものか! かすみは先月死んだはずだ。
 だが、メールボックスに送られてきたメールの差出人には確かに『かすみ』と書かれている。件名、文章……どれを見ても、かすみの癖がはっきり出ているのがわかった。
 いったい、なぜ?
 信じられなかったが、返信を送った。次の日その返事が返ってきた。
 僕のメールへの返事。その文章、その性格……疑いなくかすみのものだ。
 もう葬式も終わっていたが、かすみの家に行ってみた。かすみは生きてるんじゃないですか? なんてはっきり聞くわけに行かなかったが、確かめた。かすみはいない。部屋はもう片付けられ、形見の品だけが大事にしまわれていた。
 事情はなんとかごまかして、プロバイダに問い合わせた。かすみはもう、そのプロバイダとの契約を解除されていた。もちろん、かすみの家族が手配していたものだ。
 かすみからのメールについてプロバイダに説明しようかと思って、考えた結果、話さないことにした。きっと、プロバイダに説明したら、二度とメールは来なくなるだろう。そんな気がしたから。
 そういえば、生前のかすみは言っていた。
『あなたといつまでも一緒にいたいの。たとえ死んでも、その後だっていつまでも……』
 そのときは正直、そこまで言われるのはちょっと困ったけれど、今となっては……その言葉が僕の支えのようになっていた。
 しばらく調べたけれど、メールがなぜ送られてくるのか、どこから送られてくるのかわからなかった。僕は調べるのをあきらめ、ただメールに返事を返し続けた。
 かすみはメールに律儀に返事を返してきた。僕も暇を見てはメールを送った。僕らはメールでだけ、普通の恋人のように会話をかわした。現実にはかすみの命日に墓参りに行きながら。
 そのまま何年かが過ぎた。僕は別の女の子と知り合い、やがて結婚した。
 そして、さらに一年ほど過ぎたとき、かすみからのメールに書かれていた。
『これがあたしからの最後のメール。もう送れないわ。でも、また必ず会えるわよ。ずっと、あなたと一緒にいられるようにするからね……』
 その日、僕は妻から妊娠を告げられた。