四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』

NO.004「無料自販機」

 最初はまったくの偶然だった。
 道端の自販機の前で、電話を掛けようとして携帯のボタンを押したら、自販機のライトがぱっと点灯した。ピッピッと音がして電話がつながったと同時に、自販機からがたんと音がして、取り出し口にジュースの缶が落ちてきた。
 何がどうなったのかわからんが、もうかった。そう思って俺は、自販機からジュースの缶を取り出した。いちおう缶を確かめたが、怪しい部分はない。
 そのときはジュースを持ってそのまま帰ったが、なんだか気になって、次の日にまたその自販機の前に行ってみた。自販機の前で携帯で電話をかける。今度は自販機は反応しなかった。
 やっぱり昨日のは単なる偶然か? と思ったが、ふと気が付いた。昨日かけたのと今のは違う発信先だ。昨日かけたのは隆志だった。
 よし、もう一回隆志にかけてみよう。
 すると、昨日と全く同じに自販機のライトが点灯し、電話がつながると同時にジュースの缶が落ちてきた。
 その後何回か実験してみた。どうやら、特定の電話番号、つまり隆志の番号に電話をかけたときだけ、自販機が誤動作するようだ。それも、俺の持ってる型の携帯だけに反応するらしい。
 きっと、携帯から出る電波のせいだな。その電波に反応して、自販機の中に組み込まれてるコンピュータが誤動作するに違いない。
 こりゃあ、いいことを発見した。これでジュースがただで飲み放題。
 その後、俺は毎日のようにその自販機を利用するようになった。
 だがある日、クレジットカード会社からの請求書が届き、それを見た俺は仰天した。
 ○○食品からの請求というのがずらりと並んでいる。
 こんな会社から買い物をした覚えはないと文句をつけたが、間違いないと突っぱねられた。
 もしかして……。
 あの自販機のところに駆けつけてよく見ると、ラベルが貼ってある。
「この自販機はクレジットカードで商品がご購入できます」
 俺は携帯を調べて、気が付いた。
 ちくしょう、なんて偶然だ。
 隆志の電話番号は、俺のクレジットカード番号と同じだった。