四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.002「消せないファイル」
ときどき、こういう事態に出くわす。
デスクトップにぽつんと置かれたファイルのアイコンが、どうしても消せない。
「削除」を選んでも消えない。いや、いったんは消えるのに、次に見るとまた平気な顔で元に戻っている。
アイコンをゴミ箱に放り込む。これで消えた……と思ったが、もう一回デスクトップを見ると知らん顔で元に戻ってやがる。
なんだこいつは? 忍者ファイルか?
こういう場合にはどうするかというと、一時フォルダに移動してからフォルダごと削除……すれば普通は消えるんだが。
なんと、フォルダは消えてもアイコンだけは何もなかったみたいにデスクトップに戻ってるじゃないか。
おかしい。ここまで頑固なファイルは見たことがない。デスクトップにしつこく居座る茶色の丸いアイコン。
気になって仕方がない。
こうなったら最後の手段。ディスクごとフォーマットして、OSをインストールし直して、アプリケーションもインストールして……。
作業に半日かかったが、これでもう大丈夫。
と思ったとき……デスクトップにまた同じアイコンが知らん顔で居座っているのを目にして、俺は脱力した。
信じられない。どうしてこのファイルは何をやっても消えないんだ?
もう頭にきた。パソコンごときが俺を馬鹿にしやがって。
パソコンをケースごと持ち上げて、怒りにまかせて両腕でがくがくと振り回してやった。
あり? なんかケースの中でからから音がするぞ。
ケースを開けて逆さにすると、中からころんと何か出てきた。
十円玉。
いつの間にケースの中に入ってたんだろう。
ケースを閉じて、パソコンをもう一回起動してデスクトップを見る。
「あ……消えてる」