四コマ・ストーリー『コンピュータは奇妙な同居人』
NO.001「実況掲示板」
「中田、シュート!」
サッカー場に歓声が響き渡る。
僕は香澄と二人で観客席で観戦しながら、パソコンで『似ちゃんねる』という掲示板の実況を読んでいた。最近は無線LANのアクセスポイントも増えてきたから、どこでもネットにアクセスできて便利だ。
人気のある試合だから、実況の書き込みも多い。数分ごとにリロードすると、そのたびに何十もの新しい書き込みが並ぶ。
試合とパソコンを交互に見ていると、ふと書き込みの一つに目が行った。
『高橋シュート決めたーーーーーーっ!』
え? シュートなんて入ってないのに……。
僕が不思議に思ったとき、会場にまた歓声がとどろく。
目の前で、まさにその高橋が見事なシュートをゴールに叩き込んだところだった。
またリロードして書き込みを見る。
『あー馬鹿、原中何してんだ! ポーランド側にコーナーキックじゃねぇか!』
ん? と思ったとき、試合でちょうどその原中がパスに失敗し、ゴールラインからボールを出してしまった。
これでポーランド側のコーナーキックだ。
変だな? ……どうして、実況の書き込みがプレイより先にあるんだろう?
誰かがいたずらで書き込んでるのかな? って、先のプレイがどうなるか分かるわけないよな。
「あら?」
僕のパソコンを覗き込んだ香澄が、自分の携帯をちらっと見て口をはさんだ。
「このパソコンの時計、二分進んでるわよ」
「あ……ほんとだ」
僕がパソコンの時刻を調整し直すと、実況の書き込みは正常に戻った。リロードしても、もうプレイの前に実況が書き込まれていることもない。
「なあんだ、時計が進んでただけか。何かと思ったよ」
「わかって見れは他愛もないこと、ね」
僕らはサッカーの観戦に戻った。