第2部 小田靜枝さん登場

  倉田紗南の如く人々の視線を釘づけて登場したと思いきや、ツカミのギャグをはずし、さらに自己フォローでもコケて満場の聴衆をヒカせる天ボケぶりを発揮の小田さん。
小田「さ……さぶぅぅぅッ」
  気を取り直し
小田「まッ! 私は本来ここに呼んでもらうべきじゃないのかもしれないし……私、ここにいることが間違いなのかしれないしね」
  さらに静まりかえったままながら、謎の発言への注目は密かに強まる。
小田「『こどものおもちゃ』で監督のもっとも嫌いな配役だったんですものね。私、嫌われてて……」
  さかんに繰り返し“嫌われ”を強調する小田さん。
大地「どういうことなのかと言うとね。余裕がなかったんです。『りりか』のラストの方と、次作の『こどちゃ』の企画の時期ってのがダブっちゃってて気がどうにもノらなかったんです。で、『こどちゃ』ってのが、ある種、特殊なモノだけに、原作を読んでパッとキャラクターの声のイメージが浮かんでくる作品とはちがった。忙しいので仕方なくプロデューサーまかせで……実はこれ、オーディションって凄い人数(三桁!?)の声から選ぶんですよ。で、「最終選考にはタッチしますけど、それのみで」ってことで。そういうわけで、5人ぐらいに絞られたところで、“監督、どのコが良いでしょうか?”って訊かれて、“このコだけはやめてください”って言ったのが小田靜枝だったんです。
司会「なんでですか?」
大地「アニメっぽい……声の質とかじゃなく、むしろしゃべりの節回しみたいなものがいかにもアニメっぽい感じがして好きになれなかった」
司会「じゃ、どうして嫌いな声の人を?」
大地「他のスタッフが気に入ってしまってて。特に小花さんが“紗南ちゃんに合ってます”と大オッケーだったので、さすがに原作者に言われては監督が自分の好き嫌いで独断専行するのはねェ……。でも、収録開始前に番組改変期で小田さんのラジオ番組で終了するのがあって、その最終回を聴いたんです。そしたら結構、良い感じで桜井くんとふたりで「なんだ、良いじゃないか!」となって。このコ、こんな風なナチュラルなしゃべりが出来るんじゃないかよ……と。だから、第一回の収録の前に録音監督経由伝言で“DJ聴かせてもらいました。あんな感じでお願いします。オーディションテープの時みたいなのは却下”と言ったんです。ところが、どこでどうなったか指示が伝わってなくて、オーディションテープの調子のまんまの声で、すっかりユーウツになってしまったんです。歌の収録の時だったかな、初めて一緒に話をしたのは」
小田「そうです。それまで、まともに口をきいてもらえませんでした」
大地「叫び声とか……なんかは確かに凄いものがあるとは思ってたんだけどね。あれは9話かな、羽山が豹になったりする回の時に“良かったよ”って。
小田「それで、私の方は、“あぁ……初めて監督に声をかけてもらえた”って」
大地「こっちも気を取り直してね。『りりか』最終回に向けて“りりか! りりかァ……ッ!”てなってる時に、小田さんの声を聴いて“ケッ! なんだこんなの”と思っちゃったわけだけど、でも、作品に専念できないのは監督としての責任不履行じゃないかと、ちょっと反省して」
小田「私の方はラジオ時代に、周囲で「どうにかならないの? そのアニメ声」と言われてたりなんかしてて、それゆえにあえてアニメの仕事をとろうとはしなかったんです。やってしまうと、“そのアニメ声……なんだ、本当にアニメの声優さんだから、どうしょもないんだ”ってことになっちゃうわけで。で、ラジオのリスナーの方からの手紙でも“小田さんアニメに興味はないんですか?”なんていうのがきていて、興味がないのか? と言えば、元々はアニメ好きでサントラを買って来てBGMにして自分でテープに声を吹き込んだりとかしてたわけで。初めてのアニメの仕事の『こどもおもちゃ』のスタートにあたっては、原作を読んで共感があったんです。紗南ちゃんのお母さんが、子供に死を伝えるのに、遠くへ行ったとか、お空に行ったとかじゃなくて、死ぬということは死ぬことなんだとはっきり言いたい。私もそうありたいと思うんです。私には子供がいないけど…って、あッ! これから先にはまだ出産可能な年齢なんですけど…、母が子供を愛するように、自分の情というものを注ぎ込める対象。そんな作品にさいわいにもめぐりあえたわけです」
司会「だのに、監督の方は?」
大地「録りに12時間(笑)……第1話ね。通常は3〜4時間くらいで終わるんだけど」
司会「第2話からは、さすがにそんなではないですよね」
大地「うん。短くなって、10時間(爆)。その後、3話、4話……と2時間ずつ順当に短くなって」
小田「アニメの経験がないんで、台本に書いてあるセリフは全部いわなくちゃならないと思って、まぁ、DJの経験があったので言えちゃったりなんかして、あとになってわかったんですけどアレは監督のイジメだったんですよね?」
大地「そうそう。ラップの時、わざと早口言葉にしたり。秒数から見て、こんなにセリフを入れてもどうせ言い切れないだろうと考えてセリフを長くしたり。それを言い切ってしまうもんだから、“ちくしょう、言えちゃうじゃないか、じゃ、次はもっと増やしてやれ”と書き込んだりとか」
小田「それで、初めて一緒に食事のときに」
大地「アニメって大変?」
小田「えッ!?」
大地「普通の……他のはこうじゃないよ」
小田「という会話があって」
司会「あの、紗南ちゃんの歌のパートは他の方とは別録りなわけですか?」
小田「居残りです。本編の収録が終わって、他の方がいなくなった後も一人でスタジオに残されて歌を録音するんです。ですから“こどちゃ”が終わって家に帰るってのはもう心身ともにボロボロになってましたね。実はちょうどその頃、“こどちゃ”とはまったく関係ない方でつらいことがあって、精神的にボロボロになっていたもので、“ちょうどいいや。この仕事でカラダの方もボロボロになってしまおう。身も心もボロボロになってしまいたい。そう思って、一週間に一度、そこに集中する生活でしたね



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