レンズの話
写真というとアプローチに二つあって、絵画の一分野としての「絵筆をカメラに持ち替えた扱い」では、あまり深くは
切り込まないようだが、物理屋が電磁波の一部として事に向かう場合は、ちょっと拘る内容が「レンズの結像特性」である。
ただ、「レンズの結像特性」は、物理屋が芸術家に持ちかけても好かれない議論でもあって、巷では聞かない内容かも
しれない。
真空中の光速は知っての通り、約 秒速 30万キロメートルなのだが、多くの人は、「真空中の」という条件を覚えていない。
つまり、ガラスなどの媒質中における光速は、真空中に比べて遥かに遅いのである。
えぇ〜っ!? ホントです! ガラスの場合だと 約 秒速 20万キロメートルです。 だから理屈では、メガネをかけている
野球選手のバッティングは、どうしても裸眼の選手に比べて「振り遅れる」はずなんですが、秒速 10万キロメートルくらい
違ったって、メガネの厚みは2ミリ程度だから、通過時間の差が非常に小さいので影響が無いわけです。
わずかな例外を除いて、光は2点間を最短時間で到達する光路を採るため、均一媒体中は直線を通るわけだが、
媒質が変わると、伝播速度の差を埋めるべく光路が変わる。例えて言えば、赤道付近を飛ぶ飛行機は
蛇行する方が赤道上をトレースするよりも、早く到着するのに似ている。 これが光の屈折現象である。
参考 真空(空気) の屈折率 : 1.0
代表的なガラス(BK7)の屈折率 : 1.51633
平行平面のガラス板を通過する光は、結果的に入射角と射出角が等しくなるが、上図に示すように光路が平行移動する。
光路の平行移動は、収差と言われる結像特性の改善に寄与する現象なので、あながち悪いわけではない。
なお、一般的なガラスは珪酸を主原料に微量の添加剤を加えて作るが、添加剤の処方によって、屈折率 が
1.45 〜 1.95 の範囲で 250種類以上が有る。 光学設計者は 1枚目:LAK12 2枚目:LASF03 3枚目:SF13
といった具合に、最適な組み合わせを選択してゆくのである。
上図では平行平面のガラス板を扱ったが、球面がある場合は下図のように接線と法線を考えると、屈折の法則がそのまま
適用できる。
更に、球面のガラスに光が入射した場合、1点を通過した光は、1点に集まるので、光の収斂作用が期待できる。
(読者は、下図のように紙に描いて、屈折の法則に従って光線を追跡してみる事を推奨する)
これを踏まえて、実際のレンズで考えてみると下図になる。
ここまで反射光については触れてなかったが、屈折する所には必ず反射が付いていてまわる。周知の如く反射角は
入射角i と同じである。また、コーティングが無い場合、反射率は各界面で4%程度だが、夜の電車で窓に室内が写るので
解かるとおり、各界面で4%程度の反射率は侮れない。一般的にゴーストだのフレアだのと言われるものの正体は、
鏡筒内で起こる乱反射であって、マンガに出てくる「夏の陽射し」(空に浮かぶ六角形の模様)は、「絞り」のゴーストである。
不具合原因の調査で、現役時代に内部反射(複数回反射)の追跡計算をやらされたが、正直なところピンボールの軌道と
同じで、それこそ百年目の迷宮物語だった。
(Fulcrum 著)