新たな荷物

 ターボ・ユニットの説明では、増税無き財政再建という説明をしたが、それはあくまでも熱エネルギーの

やり取りの話であって、部品の重量が増加する点から見れば、新たな負担を背負い込む事になる。

ニキ・ラウダによれば、フェラーリの水平対抗12気筒はコスワースよりも20kgほど重く、折角の大馬力も

この20kgに持っていかれたから、フェラーリ312Tはコスワース勢とイーブンだったそうだ。尤もトルクの

バンドを見ると、ホンダRA-300に比べて中速域を重視したコスワースも、フェラーリ水平対抗には叶わず、

コーナー入口で1速まで落とす場面が有ったらしい。フェラーリ水平対抗の場合は2速で充分だった。

 ターボ付きエンジンの場合、ターボ・ユニットの他に、インター・クーラーや各配管、ラジエーター水の

増加分を積み上げると、やはり20kg加算となる。これは車両重量の増加にもなる大問題である。

 ルノーが打った手は、大型のターボ・ユニット(14.6Kg)を小型ユニット(6.7kg)二つに置き換えた事だ。

タービンが小型になれば、回転部品の慣性モーメントも小さくなるわけで、立ち上がりも敏感になるため、

懸案だったタイム・ラグの短縮にも少なからず寄与した。

 

 ルノーをはじめとする殆どのチームが、KKKやギャレットが提供するターボ・ユニットを利用していたが、

ドリーム・オブ・バブル・ジャパーンのホンダは、石川島播磨重工に働きかけて、新型ターボ・ユニットの

開発を行った。ホンダRE168Eでは、当時としては出始めの最新素材セラミック材料(セラミックとは焼結材料

の事で、粉体を押し固めて焼く製法の材料である。この製法の利点は、極端に比重の異なる素材も均一に混合

された状態で蘇生できる事 注)である。当然ここではアルミ合金+鼻薬のセラミックが使われた。セラミック

を茶碗と勘違いされては困る)による軽量タービン・ホイール、及び特性ボール・ベアリングを装備して、

金属タービン/フローティング・メタル・ベアリング式の従来型に比べて、慣性モーメントを30%削減し、

タイム・ラグで25%時間にして1秒強も短縮した。ホンダがスロットル・バルブをターボよりも下流に装備

した理由は、タイム・ラグ解消に目算が立ったからなのだ。ネルソン・ピケは、ホンダ・エンジンを「自然吸気

と変らない」と評したそうだ。

 しかしながら、多少のタイム・ラグはヒューマン・フィティングからすれば、むしろ望ましい。と言うのも

2001年から認められたトラクション・コントロールやラウンチ・コントロール・システムが提供する環境と

極めて近い、ソフトな、そして後に大きく伸びていく加速を約束するのである。

 

「2000年度 F1チームの予算」なるレポートによれば、トップのフェラーリが二億四千万ドル、それに続く

マクラーレンは二億二千五百万ドル、3位のBARが一億九千万ドルを投入したそうだが、ジャン・トッド

に言わせれば、ベリリウム・アロイのエンジン・ブロックを開発・投入したメルセデス・ベンツは社内的に

天文学的な研究費用を注ぎ込んでいる筈で、マクラーレンの予算にはメルセデス・ベンツの見えない部分が

含まれていないらしい。

 前出のホンダも石川島播磨重工の実績を含めたら、当時どのチームも叶わないような金額を切り回した事は

想像に容易い。ターボ時代の後半が、排気量1リッター当たり1000馬力に至り、総出力1400馬力という

ホンダの独り勝ちだった事は、日本の貿易黒字が独り勝ちだった事と重なって見える。ターボ付きエンジンの

禁止は、すなわち日本における貿易黒字の禁止措置とは考えられないだろうか?

(Fulcrum 著)

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注)洋菓子のゼリーを作る時にチェリーを入れると、チェリーがカップの底に沈んで、そのまま固まるが、

  パウンド・ケーキに入れたレーズンは均一に混ざるのと似ている。