エイに化けたサメ

 面倒臭い話で恐縮だが、質量の大小が慣性の大小を決める事はご存知だと思うが、これを実験した読者は

少ないだろう。試しに、野球のボールにリボンの吹流しを付けて投げてみよう。必ずボールが先に飛んで行き、

その後に吹流しが付いて行く。吹流しがボールを引きずって飛んでいく事はありえない。

 矢の先に錘を付ける意味はここにある。舳先に質量が偏る事で、始めて飛行物体が方向性を持つのである。

飛行機というのは、矢に翼が付いた物だと思えばよい。

 

 ところが、20世紀の終わりに、フライ・バイ・ワイヤという変な技術が出てきたお陰で、重心が機体の

ほぼ中央にある不安定な飛行機が出てきた。コンピュータが操縦を代行するために、手のひらで棒を立てる

ような芸当が可能になった。仮に飛行機がタクシーならば、パイロットは運転席を明け渡して客席に座り、

代わりにコンピュータが運転席を陣取ったわけだ。

  パイロット :「おい、運ちゃん、運ちゃん! えーと、次の角。右ね、右。あっ、違った、左だ!」

  コンピュータ:「ちょっと、お客さ〜ん・・・早めに言ってもらえませんかね〜 (-_-;)」

飛行中におけるパイロットと機載コンピュータの会話は、きっとこんな具合なのだろう。

 不安定な飛行機は類い稀な敏捷性を示すが、それでも飽き足らなかったのか、終に機体が無い全翼機なる

化け物までが出現した。ノースロップ B-2A スピリットである。

 

 飛行機の場合、上空で問題を起こした際に、着陸しなくては停止措置が行えないし、着陸というのは飛べる

あいだにしか出来ない。また、何処でもかしこでも降りられるものではなく、最寄の飛行場に辿り着かねば

ならない。だから航空機技術では、先進性よりも確実性に固執するわけだ。

 そこに持っていくと、今日に至ってもカー・レースでは故障車が路肩の至る所に停まっている始末である。

そのため、カー・レースでは博打性を含む実験的な試みも可能な土壌なのだ。

 空力部品を車体に取り付けるのではなく、車体自体を空力部品として利用する方法は1977年から、F1が

飛行機に先駆けて実用化した。

 

                                         (Fulcrum 著)