潜水者の呼吸器具
エンジンの吸気孔を前方に向けて、高速走行時の走行風圧を利用する構想は今に始まったことではない。
1971年までは、これが取り立てて有効な手段と考える人間がいなかった。それまでのレーシング・カーでは
エンジンのトランペット(吸気孔)は、剥き出しのまま水平に並んでいる。これは、いただけない。
ボディに沿って流れる気流は多少乱れたとしても、トランペットの真上では水平に近いから、ここに負圧が
生じて、トランペットから空気を外に吸い出してしまう。テストベンチで出した最大出力が実走では下がって
しまうのは、そのためだ。この現象は 1967年当時、ホンダでも相当悩んだようで、特にトランペットの真上で
負圧がかかると、燃料を余計に吸い出してしまい、空気:燃料の比率が極端に変るのである。そこで当時の
ホンダでは、相当薄めのセッティングにしたそうであるが、最後まで「トランペットの真上の負圧」が原因とは
気付かずに撤退したようだ。
レン・テリー(Len Terry:コーリン・チャップマンの甥で、ロータスのデザイナー)の実験によれば、
トランペットに、机上の手元灯のランプ・シェードのような帽子を被せただけでも、負圧が緩和した分、出力が
向上するらしい。もし帽子の前の部分に孔をあければ、ラム圧(走行風圧)を正圧として取り込めるだろう。
F1のラム圧インテークの先駆者はブラバムだったが、ドライバーの頭上高くそびえる形状の、今日見る
いわいるインダクション・ポッドはマトラが初めてだそうだ。これによって、馬力が5%向上するらしい。
(Fulcrum 著)