天下無敵の自信作

 515 馬力/12300 rpm と言われるエンジンは、以前と大きな変化は無い。横置き5段のギア・ボックスは、

新しいリア・サスペンションを取り付けるためにケースの一部が変っただけで、リア・ブレーキもインボード式

のままである。勿論、水平対抗のままでもカム・カバーの形状変更でエンジンの幅を狭め、ウィング・カーに

適応している。

 

 排気管の長さは回転数によって決まるが、幅を膨らますとエンジンを小型化した意味が無い。そこでの工夫は

前6気筒は真直ぐ後方に伸ばし、後6気筒はリア・サスペンションの上に持ってくることで長さを確保する。

排気管たる物、タイトに曲げるベからず!と言いたくなる。しかし全体の寸法制約から理想に固執するわけに

いかない。特にリア・サスペンションの上に持ってきた後6気筒の排気管は、ブレーキのエア・インテークの

真下で直角に折り曲げているが、ここが1次と2次の結合点であり、粗密波の節になる点は憎いではないか。

 

 312T に聳え立つインダクション・ボックスは、後の規制でなりを潜め、312T2 ではコクピット・カウルの

両脇に大きな NACAインテークを設けた。312T3 ではエンジンの両脇にシュノーケルをおっ立てた。ところで

312T4 では何処から燃焼用の空気を取り入れるのだろうか。実は、これが巧妙で、サイド・ポンツーンの両脇

すなわちラジエーターの外側に衝立を一枚挿んで、サイド・ポツーンの正面開口部から吸入しているのである。

 

 312Tシリーズはどれもそうだが、オイル・タンクが燃料タンクの右側に付いているので、重心が右に偏る

ような気がしてならない。補器類を収める場所に困るのが、水平対抗の宿命である。

(Fulcrum 著)