4WD亜流説
1.5リッター・フォーミュラーでは、その当時のタイヤとのバランスにおいて、若干エンジン・パワーの方が
負けていた事情により、勝利の決定的な因子は大出力のエンジンの有無だった。タイヤの摩擦係数は μ:1.6
(一般車用は μ:1.0 止まり)に至って、更に大きな向上は望むべくも無い。しかし3リッター時代になって
たしかに重量も幾らかは肥えたが、それ以上に馬力が2倍に届くようになった。
この大馬力を当時のタイヤで効果的に活用できるのか?
という疑問に対して、4WDは言うに言われぬ色香が漂っていた。'32年にも、はたまた'61年にも4WDへの
先駆的試みは有ったが、とりわけ小難しいこの特殊分野に対して再度大掛かりなアプローチが行われたようで、
'69年のオランダGPには、今は無きロータス、マトラ、なんとマクラーレンまでが4WDカーを持ち込んだ。
競泳ならば、これまでのバタ足だけから一気にクロール(自由型)となったとでも言うべきか。
結果はそれほど悪くなかった。しかし・・・4WDがドライバーにとって負担なのも事実である。
(ロータス63という4WDカーは、なんとペダルとシートの間にドライブシャフトが剥き出しており、
ドライバーは、高速で回転するドライブシャフトを避けながらペダルを踏むという、ひどいクルマだった)
つまり、各タイヤ均等に荷重がかかる結果、理想のドライブ・フィールの必要条件である4:6の重量配分が
不可能となってしまう。
旋回時に駆動力の制御によりクルマの向きを積極的に変える、例の小技が平均荷重配分では難しいと
見える。ラリーでは、今や4WDでしか勝てないのだが・・・
いずれにせよ、開幕戦の結果がその年の結果を決めるようなこの世界では、新しい球種をマウンドで初めて
試すようではとても間に合わない。4WDがダメだと見てとった連中はドッチラケて見向きもしなくなった。
しかし変人はどの世界にも居る。ケン・ティレルと懐刀のデリック・ガードーナーは、一旦は捨てられた
4WDに、理想のドライブ・フィールを持ち込む構想を打ち上げた。こうして出てきたP34こと6輪F1は
残念にも理想の重量配分4:6(後述)とは逆に3:7の効果が生じ、その結果オーバーステアに泣かされた。
もしティレルがあのまま継続的に成功を遂げていればF1とは6輪車の時代となって、かたや空力の研究は
飛行機のパクリに終始したことだろう。
(Fulcrum 著)