良い事の裏にはツケがある
もしも、陸上選手に「お前が使うのは足なのだから、内臓は要らないだろう」と言っても通用しないように
エンジンも単体で動くものではなく、発電機やバッテリーの他、ラジエーターなどの補器類が必要になる。
それらの補器類を何処に据えるかも大きな課題である。水平対抗エンジンは幅が広いために、補器類を収める
場所がない。
312T はトランスミッションを横置きにした最初のモデルで、Tは Transverse を表す記号である。
これを見ると、せっかくミッションを横置きにしてヨー慣性モーメントを低減しても、バッテリーを最後端に
押しやっては効果は半減だろう。尤もバッテリーの配置についてはロータス72も似たり寄ったりだが・・・
いずれにせよ、点火系の器材やら燃料の供給器材がエンジンの真上に雑然と置かれているのは嬉しくない。
だいだい、燃料がエンジンの熱で煮え立ったらキャブレターで理想の混合気が出来るか疑問だ。
上図にあるように、ドーム状の網がかかっている吸気孔がエンジンの両端に有る点も水平対抗の特徴で、
吸気孔が中央に密集しているコスワースDFVでは簡単に取り付けられたインダクション・ポッドも、
水平対抗エンジンに装備するためには、いささか苦労した。
フェラーリ 312T
今日、エンジンにカバーをかける事は、空力の観点から当たり前だが、そもそもフル・カウルは水平対抗
にインダクション・ポッドを装備するための手段だったようだ。尤も、後に続く 312T2 は高さ規制の対策
としてコクピットのカウルにNACAインテークを設けたが、これを可能にしたのは吸気孔がエンジンの両端に
有る水平対抗ならではの業である。 (Fulcrum 著)