水平対抗とV
水平対抗エンジンは、左右一対の気筒が同時に燃焼する事で一次振動を相殺しようという狙いで開発された
経緯が有り、V型の挟角が 180゜となった物とは一線を隔すというのが、拘り屋の意地っ張りなところ。
ドイツでは挟角 180゜V型エンジンと、ボクサー・エンジン(水平対抗の正式名)とは区別しているが、
イタリアでは特に分類は無いようだ。
クランク・シャフトは、その性格上、軸に直交する力を受けるので、シャフトの撓みと軸振れが問題となる。
軸振れ振動を抑制するために支持点を多くしようとした。その結果、ベアリングの数が7つにもなった。そこで
フォルギエーリは、新型水平対抗エンジンの開発にあたり、ベアリングの数を削減して小型軽量化を図った。
ベアリングを4つに削減するためにはクランク・シャフトの強化しかないだろう。径を太くするなり、材料を
変える他に、打つ手としては屈曲部を減らして単純な構造とするのも得策だ。そこらが理由だと考えるが、
フォルギエーリは挟角 180゜V型を選択した。V型の良い点は、対抗する二気筒が同じクランク・ピンに装着
されているので屈曲部の数が 気筒数/2で済む。V型ではボクサーのクランク・シャフトよりも単純な形状
となり、捩りモードの振動によるクランク・シャフトの負担を軽減した。また、左右両方のピストンが同方向
に動くため、クランク・ケース内の空気はピストンと共に左右に動くので圧縮、膨張が無い。馬力の損失を
小さく出来る理由の一つである。また、ケース内の空気がシャフトの捩り振動を助長しない。
ただし防振効果の決定打は、クランク・シャフトとフライ・ホイールの間に、ピレリが開発した防振ゴム材
のメタラスティック・ラバー・ダンパーを挟み込んで、多少なりと捩りの自由を与えてやった事だ。
ラバーの形状や硬さを回転運動部の質量と適合させるとフライ・ホイールは防振器として働くらしい。
後年、市販車のエンジンにバランサー・シャフト(釣合い錘をクランク・シャフトの2倍の回転数で逆転
させて、振動を相殺する機構)を装備したのも、これと似た発想なのだろう。
312Tの時代になるとフェラーリの水平対抗エンジンは、故障が「珍しい話題」となるほど、高い信頼性を
備えていた。
(Fulcrum 著)