起死回生の秘策

 フェラーリの、ではなく、水平対抗エンジンの起死回生を賭けたフォルギエーリの秘策とは、クランク・

シャフトのベアリングを、従来は2気筒おきに計7個としていたのに対し、フォルギエーリは4気筒おきに

計4個と減らす事で全長を短縮し、小型軽量化を計った。又、支持部品が減る事は同時にクランク・シャフトの

フリクション・ロスの低減に繋がった。

 更に、早くからボール・ベアリングを捨ててプレーン・ベアリングとした点も小型軽量化に一役買った。

(ただし、両端の2つはローラー・ベアリングとなっている。ローラー・ベアリングはボール・ベアリングの

玉をローラーに置き換えた物で、ボール・ベアリングと比較して回転軸に直交する力に強い)

ここらあたりが、ホンダに差をつける要因なのだろうが、つまりフォルギエーリは解かっていたのだ。

 「一因子の完全性は、他の因子における不完全性を誘発する最大の原因である

望ましい結果を得るには、諸問題を把握した上で現実的な妥協の中に結論を見出すべきなのである。変な拘り

は足枷になる場合が多い。

 

 プレーン・ベアリングは単なる筒だから、真っ二つに割る事も可能である。そのため分解が容易である点を

見逃せない。特にコネクティング・ロッドのボトム・エンドはクランク・シャフトに串刺しになるが、ここが

ボール・ベアリングだったホンダはクランク・シャフトを交換するに、12気筒のコネクティング・ロッドと

対でケーシングから取り外す必要があり、アッセンブリで交換する以外になかったそうである。正月そうそう

電話一本で呼び出されたホンダの若手技術者がクランク・アッセンブリを手荷物(税関を通すと日数がかかり

公式テストに間に合わない)として東京からロンドンまで担いで運んだ事があったらしい。担げと言われたって

クランク・アッセンブリはクランク・シャフト+ボール・ベアリング19個+コネクティング・ロッド12本

ということは想像するしかないが、40Kg で済んだかどうか・・・これぞホンダ・パワー!!

(Fulcrum 著)