エンジンはボディの一部
今日のF1のボディは、フレームがエンジンの付け根までしかない。従ってエンジンは数本のボルトでもって
フレーム後端のバルクヘッドに直接結合されている。ギヤボックスやリア・サスペンションはフレームではなく
エンジンに装着されている。このように、本来は機能部品であるエンジンを構造部品としても利用する手法を
エンジンのストレスメンバー(補強部品)化と呼んでいる。
以前は一番大事なエンジン様を、フレームの揺り篭がそっと抱いたものだが、まさかエンジンを骨と見立てた
には驚きあきれる。エンジンのストレスメンバー化を前提とした本格的な強化エンジンはコスワースDFVが
最初のケースのようで、これにより、重量の嵩むフレームを大幅に削減したのである。従ってエンジン本体に
かかる曲げ、捩りなどのストレスに対してゆとりを持った設計にした事は確かである。
(ホンダもやるにはやったが、あれはエンジンの構造が過剰品質だっただけで、ストレスメンバー化を前提
とした設計ではない)
ストレスメンバー化された コスワースDFV エンジン と モノコック(左:上面 右:下面)
上の写真を見ると、事も有ろうにサスペンションが、車体やエンジンではなく、ギアボックスのケーシングに装着されている。
しかし、各車がこぞって空力によるダウンフォースを考慮すると問題が起きた。1973年の時点でエンジンに
かかる加速度は、旋回時に1.5G、減速時に1.8Gに達し、エンジンの許容荷重を0.3Gほど上回る事態に
至った。エンジン内部の各部品を圧迫し、稼動部分に容認しがたい摩擦を生んだ事は当然である。コスワースは
ガンとして認めないが、1970年度にコスワースDFVのトラブルが頻発したのはこのためで、以後なんらかの
手は施したに違いない。
モノコック側から言っても、たったボルト4本だけで大荷物を支えるのは実に厳しいわけで、仮にもV8では
なくV12 をぶら下げたなら、その負担だけでボディが壊れるだろうと言われた。
ただし、1970年代の平均的なボディ剛性は400 kg・m/degしかなかったが、1989年のマクラーレンMP4/5
では、実に2800 kg・m/degと発表されていて、同年のフェラーリ640 は3.5リッター DOHC 5バルブの
65゚V12 600馬力のエンジンをモノコックと結合していた。
フェラーリ641/2 3.5リッター DOHC 5バルブ 65゚V12 エンジン(1990年)
(Fulcrum 著)