前の方、後ろの方が見えなくなりますので、しゃがんで下さい。

 

 車体の空気抵抗を決定する三大要素は車体の形状前面投影面積の他、車体表面の突起物の有無である。

しかし妥協は必要で、仮に抵抗の少ない滑らかな形にすると前面投影面積が増大するし、前面投影面積を小さく

すると細身の形状になるが、車体表面の突起物を容認せざるをえなくなる。

 

 ベンツ陣営は事のほか空気抵抗の低減に心血を注いだようで、流線型の車体は風洞実験の賜物である。

そのために、なんとエンジンを右に 53度 も傾けて配置した。

 

 

 当時の規則では、過給器付き 750cc もしくは自然吸気 2500cc が認められたが、自然吸気は1000cc 当たり 115 馬力

出る事が解った。また同時に過給器付きの 750cc で同程度を求めるならば、1000cc 当たり 385 馬力 という事になり、

ブースト圧が 3.5 バール 必要になる。当時としては、2段過給でもブースト圧 3.5 バール に至らないので、結論として

自然吸気の 2500cc (翌年は 3000 cc に拡大)とした。

 エンジンをV型8気筒にするか直列8気筒にするか検討した際、構造の単純化と軽量化から直列8気筒にしたらしいが、

一つには、寝かしつけるのに都合の良いレイアウトは、直列8気筒という事だったのではないのだろうか。

 ライト兄弟がキティフォークで初飛行に成功したライト・フライヤーの直列4気筒は、シリンダーブロックが鋼板の溶接

だったが、面白いのは戦後にも関わらず、M196(W196のエンジン名)も鋼板溶接気筒構造だから、直列にしたかった

理由に納得がいく。

 

 ただ、クランク・シャフトの固有振動のうち、4次あたりで来る軸回りの捩れモードがエンジンの回転数と同調するので、

あまりクランク・シャフトを延長したくないというのが、当時にあって6気筒が主流を占めていた理由のようである。

だから、8気筒を直列に繋ぐというのは奇抜な決断だった。

 そこでホンダRA300で触れたように、M196も4気筒エンジンを2台繋ぎ合わせて、中央から出力する方式にした。

つまり短いクランク・シャフトを前後に配置すれば、夫々のシャフトは6気筒より短くなり、軸回りの捩れモードがエンジンの

回転数と同調しなくなる。加えて各シャフトの先端にカウンター・ウェイトを置き、これをフライホイールとして利用すれば、

制振効果と共に軽量化に寄与するわけだ。

 

 

 M196のクランクシャフトは組み立て式で、各コネクティング・ロットを一体化する事で、稼動部の軽量化を図り、

スロットル・レスポンスの向上に努めた。更に各コネクティング・ロットのシャフト側にボール・ベアリングを嵌め込んで

高速回転に対応した。(この七面倒臭い物が動くんだから、ホンダの親父が惚れるわけだ)

また、制振効果を追求するために、点火順序も変えたようである。                (Fulcrum 著)