エルメート・パスコアルの世界 ライブレポート2002
最終更新日 2002年9月15日



そして新たな伝説が生まれた Hermeto Pascoal live report 2002

2002年9月8日(日)、東京よみうりランド内「Open Theater EAST」にて行われたイベント"True People's CELEBRATION"に、エルメート・パスコアルと彼のバンドが出演し、素晴らしい音楽と、我々の度肝を抜く圧倒的なパフォーマンスを見せてくれました。ここにその時のライブの模様をレポートします。


ライブ ―― member ――

Hermeto Pascoal (keyboards, and ???)
Fabio Pascoal (percs)
Itibere Zwarg (bass)
Andre Marques (piano)
Vinicius Dorin (winds)
Marcio Bahia (drums)


さあ、いよいよ待ちに待ったパスコアルのライブだ! まさか彼のライブを日本で観ることが出来るなんて、思いもよらなかった。嫌が応でも期待が高まる。会場で販売されている黄色いパスコアル Tシャツを着込んでいる者も多いので、熱心なファンの大半が駆けつけたんじゃなかろうか。ひょっとすると、この会場内にぼくのサイトを見てくれた人がいるかもしれないと思うと、ちょっとムズムズする。

まずは、ベースとパーカッションの二人のだけが現れ、フリーな感じでのセッションから始まった。パーカッションのセットの中には、見慣れない楽器が数多く含まれており、ベースもエフェクターを駆使して妙な音を出している。フリーだがなかなかユーモラスな演奏だ。やがてSAXが登場。しばらくしてドラマー、つづいてピアニストも加わり、フリースタイルの演奏が続いた。

大歓声に迎えられパスコアル登場!!! CDジャケットでお馴染みの白髪姿だ。彼がキーボードの前に来ると、おもむろにQuiabo(So Não Toca Quem Não Quer に収録)が始まった。思わず鳥肌が立つ。カッコイイ! 複雑なユニゾンのキメが連続する難しい曲なのだが、一糸乱れぬアンサンブルを聴かせてくれる。バンド全体のサウンドが滅茶苦茶タイトで締まっている。とにかく上手い。いやぁ、参ったなぁ。

パスコアルは、YAMAHAのキーボードでDX-7タイプのエレピ音色でバッキングしていたのだが、ピアニストのソロが始まると、ふらっと舞台袖に消えていった。ソロがSAXに移るとステージに戻ってきたが、ライブ中はずっとこんな感じで、マイペースで舞台を出たり入ったりしていた。それにしてもピアノとサックスのソロも見事だ。アウト寄りの現代的なラインだ。アンサンブルのタイトさも含めて、全員かなりの修練を積んだツワモノばかりだぞ。

つづいてパスコアルのエレピソロ。実に奔放なソロだ。ひとしきり弾いた後に、エレピとスキャットとのユニゾンが始まった。凄い! パスコアル大絶叫で、会場も盛り上がる盛り上がる。いやぁ、一曲目からサービス満点で、本当に嬉しくなってしまう。そのうちカラスの鳴声まで聞こえてきた(笑)。どうやらサンプリングしてキーボードから出しているようだ。そこまでせんで良いのに(笑)。いやぁ、しかし素晴らしい。

次の曲は、今日初めて聴くのだが …13拍子じゃないか。一聴してそれとわかるパスコアル的なムードを持つフュージョンサウンドで、変拍子を感じさせないところはさすが。ステージ前のスペースでは、観客が13拍子のリズムに合わせて踊っているよ。ピアノソロ、サックスソロもバッチリ決まっている。

サックスソロのあと、パスコアルがペットボトルと紙コップを持ってステージの前に出てきた。一体何なんだ?という感じで会場から笑い声が起こる。紙コップに水を注いで、そのまま飲むのかと思いきや…、やってくれました! 紙コップを口に当て、ブクブクと音を出しながらスキャットソロ! 会場は大盛り上がり! ああ、感激だ。 こんなものを見られるとは。パスコアルも盛り上がって絶叫しながらペットボトルの水を被ったりしてる。おいおい、なかなかのエンターティナーじゃないか。更にバンドは超絶ユニゾンと緻密なアンサンブルを聴かせてくれる。バンドの緻密さとパスコアルの変態さのギャップが物凄いぞ。

突然パスコアルのエレピによるカデンツァに入ったかと思うと、今度は一気にバンドが加わって高速サンバに突入。息をつく暇が無い。そしてピアノからサックス、エレピへとソロの交換。ドラムとパーカスのロングソロを経て、テーマに戻って終わった。いやもう凄いとしか言いようが無い。ああ、自分の語彙の貧弱さと表現力の無さが忌々しい。

次の曲も初めて聴く曲だ。ルバートで始まったが、13/8拍子から13/16拍子へと変わり、更にボサノバ、スイング、ワルツと目まぐるしくリズムも曲調も変わっていく。パスコアルはソロの時に、口に何か咥えて草笛のような音を出しながらエレピとユニゾンしている! まったく油断のならないオヤジだ。それにしても、複雑な和声進行で、構成もリズム的にも非常に難解な曲であるにも拘わらず、メンバーは難なくこなしている。ホントにあきれるね。最後は、パスコアルのスキャットに応え、会場も一緒にテーマを歌う。

またしてもフラッとパスコアルはステージの袖に消えてしまった。今度は、パスコアルを除くバンドのメンバーが木靴(?)を両手に持ってステージの前に集まってきた。それぞれがリズミカルに木靴を叩き、そして歌う。木靴には音階がついており、リズムの中から楽しげなメロディーが浮かび上がってきた。ハンドベルのパーカッション版ともいうべき演奏。パスコアルのディレクションに依るのだろうか? いやぁとにかくこれも凄いぞ。

次に、ステージの前に並べてあった大小様々な長さの鉄パイプをそれぞれが手に持ち、リズミカルに床を打ちはじめた。何に使うパイプなんだろう?と思っていたが、なるほど、こういうパフォーマンスがあるとは。ポイントポイントで鉄パイプを交換しながら楽しげなリズムを叩き出す。 

鉄パイプが軽やかなリズムを刻む中、パスコアルが舞台袖から出てきた。手には…ヤカンを持っている! ヤカンに水を入れ、ステージ前に歩み寄る。次は何をやってくれるんだ? と思ってると、やってくれました! ヤカンの注ぎ口を咥えたかと思うと、"Round Midnight" のテーマを水をブクブクいわせながら歌い出した(笑)。度肝を抜かれるとはこのことだ。しかしこのオッサンはホントに期待を裏切らないね。

続いて聴きなれたメロディーが。DEPOIS DO BAILE("FESTA DOS DEUSES" に収録) だ! やっぱり知ってる曲をやってくれると嬉しい。これまた目まぐるしい曲を、CDをはるかに上回る迫力で聴かせてくれる。ソロのバックは7拍子になるのだが、変拍子にも拘わらずおそろしく力強いグルーヴで思わず体が動く。サックス、ピアノ、エレピとソロを交換。それにしてもみんな上手い。

やがて演奏が終わってからパスコアルのMC。どうやらパスコアルはポルトガル語しか喋れないらしくて、彼が喋ったあとで、ドラマーが英語に翻訳していた。一時期アメリカで活動していたそうなので、英語が出来ないとは少々意外だが、そこがまた彼らしくもある。「再び日本に来られて非常に光栄だ」というようなことを言っていた(ちなみに彼は1978年の伝説のライブアンダースカイ以来、2度目の来日)。

彼がこのライブのために作ったという、その名も"Banzai! Nippon-jin"という曲を披露してくれた。今までの曲に比べると、静か目で哀愁の漂う、ちょっと変な曲だった。メロディーのペンタトニックが東洋をイメージしているようだ。でもこういうのは嬉しいよね。

メンバー紹介のあと、最後の曲であるIRMÃOS LATINOS ("FESTA DOS DEUSES" に収録)が始まった。さすがこのような典型的なラテン調の曲はノリノリで、メンバーも水を得た魚のように活き活きとした演奏を聴かせてくれる。客席でもみんな踊り、うねっている。ああ素晴らしい。 

やがてメンバーは演奏しながら一人ずつ舞台袖に消えていった。音も徐々にフェードアウト。しかし会場の興奮は冷めやらず、手拍子がアンコールへと変わる。このイベントでは、時間の都合もあってか基本的にアンコールは起こらないというのに、流石はパスコアル! 1時間半のステージで、この場にいる人々の心を完全に奪ってしまった。しかし残念ながら、すぐに次のDJによるパフォーマンスが始まってしまった。時間の都合もあるとはいえ、本当に残念だ。

―――――― ○ ―――――― ○ ―――――― ○ ――――――

それにしても圧倒的なパフォーマンスだった。もちろんパスコアルの変態的な演奏や、木靴や鉄パイプを鳴らしたりというパフォーマンスもとても面白く、強烈に印象に残った。しかしながら最も深く感銘を受けたのは、今回初めて聴く曲も含めて、非常に高度でユニークな、パスコアルならではの音世界を展開してくれたことと、バンドが抜群に上手く、極めて複雑な曲が連続しているというのに、実にパワフルで見事な演奏を聴かせてくれたことだ。

如何にパフォーマンスが奇抜であろうとも、基本となる楽曲や演奏がしっかりしていなければ話にならないのは言うまでも無い。パスコアルの音楽を語るのに、風変わりな楽器や、珍妙なパフォーマンスのみを、ことさら強調するのは、明らかに間違いだ。まずパスコアルの楽曲が唯一無二の独特な世界を持っていることと、それを表現するパスコアルとバンドの面々が、卓越したミュージシャンであることを忘れてはならない。そして土台がしっかりしているからこそ、ヤカンを吹いたりといった奇抜な演奏も活きてくるのだ。単なる変態オヤジとは根本的に違うことを、まざまざと見せつけられた思いだ(それと同時に、どうしようもない変態オヤジであることも見せつけてくれたわけで、まったく頭が下がる)。

ぼくを含めて会場に駆けつけたパスコアルファン全員が大満足であったことは間違い無いが、パスコアルの名を知らなかった人々にも、一生忘れられないくらいの強烈なインパクトを与えたと断言してもいい。これは決してファンの贔屓目ではなくて、本当にそれくらい素晴らしいライブを見せてくれた。実際、会場の盛り上がりも素晴らしかったし、きっと新たに多くのパスコアルファンが誕生したことだろう。また、あのステージを見た者なら、どれほど凄いライブだったか人に言わずにはおれない筈だ(笑)。そう、ぼくらは新たなる伝説が誕生した瞬間に立ち会ったのだ。

最後に、素晴らしい演奏を聴かせてくれたパスコアルやバンドのメンバーはもちろん、彼を日本に呼んで下さった、このイベントの関係する全ての方々にも深く感謝します。






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by ようすけ