眩暈



 あの眼は媚薬だ。


 甲板に賑やかな声が満ちる。ルフィと、ウソップとチョッパーのものだ。
 彼らはよっぽど気が合うのか、昼間はたいてい一緒に居て、馬鹿騒ぎをしていた。
 今日は鬼ごっこのようだ。狭い船の中をきゃーきゃー喚きながら走り回って、ナミに「うるさい!」と怒鳴られている。
 正直ゾロだって、一体何がそんなにも楽しいのかと呆れるほどだ。
 ルフィくらいの年頃と言えば、そんなものなのだろうか?箸が転がっても可笑しい、という風な・・・
 自分には経験がないから解らない。別に羨ましいだなんて思わないが。
 仮にも、自分たちは『海賊』で、この旅もただの観光というワケじゃないんだがなぁ。
 ここに居ると、うっかりその事実を忘れてしまいそうになる。
 けれど、この船はこれで良いのだと思う。
 それが、『麦わら海賊団』なのだ。
 ゾロは彼らのはしゃぐ声をバックミュージックに、のんびりと昼寝をするのがとても好きだった。
 ナミやサンジに言わせると、このやかましい中でよく眠れるな、とのことだったが。
 確かに、熟睡はしていないかもしれない。眠っていても、意識は彼らの会話を追っている。
 傍から聞いていても可笑しいそのやりとりに、心の中で突っ込みを入れたりして。
 とても穏やかなひとときだ。

 そして、そうやって無邪気に遊ぶルフィの目が、不意にこちらを向く瞬間がある。
 それはたいてい、ゾロが寝場所を移動したり姿勢を変えようとして、ふと目を開いた時だ。ルフィの居場所を確認するかのように何気なく向けた目に、ふわりと乗せられる視線。
 瞬きをするくらいの、ほんの一瞬だ。
 ルフィはこっちを見て、フッと顔を綻ばせる。
 刹那、年相応の子供らしい表情が、酷く大人びたそれに変わるのだ。

「ゾロ・・・好きだぜ」

 視線だけで語りかけられる。
 甘い蜜の夜を匂わせる、艶と悦を帯びた声で。
 それはほんの一瞬だ。
 すぐに、眼はウソップ達へと向き直り、顔つきも子供のものに還る。
 けれどその一瞬こそが、ゾロにとっての至福の時だった。
 媚薬のようなあの眼に、眩暈さえも覚える。

 きっとこれは『恋』なのだ。
 この上も無く幸せな恋を、今自分はしている。




 その視線は麻薬だ。


 ほぼ真上から照りつける日差しはかなりきつい。
 先程から垂らしている釣り糸には何の手応えもなく、ルフィが飽きて不平を漏らし始めるのも時間の問題だった。
「ウソップ〜〜!全然かからねェよぉ〜!」
「あ〜〜おっかしいなぁ〜〜」
 ウソップも、さっきからそう思っていたところだ。釣り糸を海に放り込んでから、もう半刻ほどになる。飽きっぽいルフィでなくとも、そろそろおかしいと思う頃だろう。
 この辺りには魚がいないのだろうか。それとも。
「エサが悪いのかなぁ・・・」
 今付けているのは、ウソップが調合した特製のエサだ。さっきまで真剣にタワシで釣り上げようとしていたルフィを見かねて、作ってやったのだ。
「ゼイタクだな〜、こんなに美味ェのに」
 そう言って、団子状のソレを口に放り込むルフィ。
「オイ!んなモン食うな!残飯砕いて丸めたモンだぞ!」
 あまりにもナチュラルに食べてしまうルフィに、ウソップは焦った。
 正確に言うと、それはさっき生ゴミの中から漁ってきたばかりのシロモノだ。肉を炒めた後の油をつなぎにしているから、魚なら匂いで食いつくかと思ったのだが、予想外にも人間が食いついてしまった。
「ヘェ〜それなのにこんなに美味いのか〜〜ウソップ、お前ェコックになれるぞ!」
「お前そんなコト言って・・・サンジに聞かれたら殺されるぞ」
「んん!もちろん一番美味ェのはサンジの飯だ♪」
「ほとんど丸呑みのクセに、味なんか判ってんのかぁ〜?」
 いつもの調子で二人は天然漫才を繰り広げる。

 そうしている間も、いつだって感じる、優しい二つの目があった。
 その主が誰なのか、ルフィはもうずっと前から知っている。
 心地良いその視線に見守られながら、ウソップやチョッパーと遊ぶのがとても好きだと思う。
 まるで麻薬だ。
 常用していなければ、心が落ち着かない。

 その時、ふと優しい意識が途切れた。
 ルフィは振り返って、その視線の発信元を見やる。みかん畑に陣取るゾロの方へと。
 小さな影にうまく入って、首の後ろで手を組むいつもの態勢だ。
 あ・・・寝ちまってる。
 潮風に若草色の髪がそよそよ揺らいで。彼は珍しく深い眠りに入ったようだった。
 折角の眠りを妨げたくはないけれど、意識が自分から逸らされてしまったのは、正直惜しいと思う。
 だから、もう一度彼に背を向けたら、心の中で語りかけた。

 起きろゾロ。
 そして、おれを見ろよ。
 なぁ・・・

 そうすると、後ろで身じろぐ気配がした。
 あ・・・ホントに起きちまった。
 ルフィは自分で起こしておいて、今更そんなコトを思う。
 また振り返ると、ゾロのまだ眠そうな眼とかち合った。
 こっちと眼が合ったことに気付くと、ちょっと驚いた風に目を丸くする。
 そんな仕草一つ一つも、酷く愛おしい。
 彼を好きだという気持ちを笑顔に換えて贈ったら、ゾロも同じように優しく笑って返してくれた。
 うわ・・・ヤバイなぁ。
 腹の奥が熱くなってきちまった。
 ゾロのせいだぞ。責任取れ。
 背中越しに、そんな理不尽な文句をぶつけてみる。
 しばらくしたら、ゾロがまた動いたのが判った。今度はすっかり身を起こすと、ストンと甲板に降り立つ。
 あ・・・
 ゾロは少しだけこちらに視線を固定した後、男部屋への落とし戸を開いた。すぐに、気配は梯子の下へと消える。背を向けていても、それくらいは判る。
 これは間違いなく・・・
 誘われてる?

「ウソップ、おれの竿見ててくれ。デカイの吊り上げてくれよ?」
 勢いよく立ち上がってそんな風に言うルフィに、ウソップはイキナリ何だ?と思う。
 けれどそれを問う間もなく、ルフィは船の縁から降りて行ってしまった。
 向かう先は、一直線に男部屋。
 珍しいな。こんなに天気が良い日に、一人で昼寝でもすんのかな?
 そう結論付けたウソップは、また海に身体を向き直らせて、今度は二人分の浮きを目で追い始めた。



 誰にも知られることなく、秘密の逢瀬を果たした二人は、視線が合うやいなや貪るようなキスを交わした。
 今更、言葉なんていらない。
 ただ、互いを挑発し合うことで高まった熱を、感じ合いたかった。
 意識の奥での遣り取りだけで、こんなにも欲情してしまった・・・それが、自分だけではないことを確かめずにはいられない。
 とはいえ若い二人のこと、やはり『確認』だけで収まらないのは知れたこと。
 熱く深く舌を絡め合いながら、急かすように互いの衣服を剥いでしまう。


 これほどまでに夢中になってしまう存在を、二人は見つけてしまった。
 それは眩暈のするような、至上の恋。





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6666キリリク、『眩暈のするような恋』でした。
これから!ってところで寸止めしてスミマセン(笑)
でも、うちの二人がヤるとなったら、生々しいの必至で
せっかく綺麗だったお話が台無しになりかねないので(爆)
これの続きもどきは、実は04/2/22に発行した『愛のリサイクル法〜漫画編〜』
という本の書き下ろしで描いております。
ま、ただのだだ甘えっちですが(笑)
ご興味もって頂いた方はそちらも是非♪

今回戴いたのはかなり漠然とした題材でしたが
これがアタシ流の、究極のルゾロ!
「目と目で会話」どころか、気配だけで悟ってしまう、そんな関係・・・
ルゾロってこうよね♪ってことで、リクして下さったきょうこ様に捧げます。



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