Their Life 2
  〜Luffy's birthday〜



 「ゾロォ・・・一緒に寝てもイイか?」

 いつになく控え目に、ルフィがゾロの部屋をノックしてきたのは、そろそろ日付も変わろうかという時間。
 ゾロはちょうどノートパソコンを開いて、レポートのまとめにかかっていたところだった。ゴールデンウイークにたっぷり時間があるだろうと、ゼミの教授がちゃっかり出してくれた課題だ。
 キーを叩いていた手を止めて、ゾロは椅子をドアの方へと回転させる。
 「どうした?さっきまでソファでグースカ寝てたのは誰だよ」
 冷やかすように言ってやると、ルフィは頬を膨らませてブー垂れた。ゾロの返事も聞かないうちに、ズカズカと部屋に入り込み、ベッドへダイブする。
 腕に抱いているのは、黄色いひよこの抱き枕。今日、ゾロがルフィにプレゼントしたものだった。まふまふの触り心地が好きだと、一緒に買物に出掛けた時に言っていたのを、ゾロが覚えていたのだ。
 ルフィはベッドでゴロゴロしつつ、再びパソコンの画面に視線を戻したゾロを覗き見る。
 今夜は一家全員でお祝いの宴会だったのだ。
 酒解禁令を出されて、ルフィも生まれて初めて酒を口にした。といっても、甘いカクテルであったが。
 しかしアルコールに免疫のない幼い身体にはかなり効いたのか、グラスにたった一杯だけで頭はクラクラ。身体はフワフワ。
 それで、先程までリビングのソファで爆睡状態だったと言うわけだ。
 「ゾロだってあんなに飲んでたのに、よく宿題なんてできるな」
 「親父殿に十歳の頃から鍛えられてるからな。お前も同じ血を引いてるんだから、強くなるだろうさ」
 「別にイイ。酒は身体によくないんだぞ」
 学校の先生にでも教えられたのか、そんなもっともなことを言うルフィが、ゾロには可笑しかった。
 可愛い『負け惜しみ』だ。
 「そうだな、お前はまだ酒の味なんて覚えなくてイイさ」
 笑いながらゾロがそう言うと、ルフィはやっぱり悔しかったのか、身体を起こして反論する。
 「むっ、子供扱いすんなよ!おれだってもう十歳なんだからな!ゾロと九コしか違わねェんだから!」
 「分かってるよ。『十歳はもうオトナの仲間入り』だもんな?」
 「そうだ!」
 今夜父親が言って聞かせていた無茶苦茶な論理を復唱してやると、ルフィはようやく納得したのか再びベッドに身を沈めた。
 それを見届けるとゾロはパソコンに向き直る。
 そして、今日一日の行程に頭を巡らせた。

 5月5日。
 それは、ルフィがこの世に生を受けた記念日だ。
 毎年この日には、大層な馬鹿騒ぎが繰り広げられる。母親のマキノが瞬きするヒマもない程の忙しさに見舞われる、一年でも数少ない日である。
 まず朝から誕生日パーティー一次会の為に、ケーキと御馳走を作るのにてんやわんや。
 この一次会というのは、ルフィの学校の友達が大勢家につめかけるというものだ。
 学校でも大層な人気者のルフィは、男の子も女の子もお構いなく誘って回る。誘われた者はまず間違いなく来るし、誘われていない者だって噂を聞きつけて押しかけたりする。
 今年は20人までにしなさいと、マキノにキツク言い渡されたこともあって、ルフィは名簿と睨めっこしながら頭を抱えていた。
 結局予定外のメンツも含めて、25人に収まったのだから、まだマシな方だろうか。
 去年のこの日なぞ、無制限に呼びまくったせいで、なんと50人近くが家に押し寄せてきたのだ。大混乱に陥ったマキノを助けるために、ゾロもファーストフード屋へ追加料理の調達へ走ったりしたものだ。
 この年頃の子供というのは、無意味に大騒ぎしたがるものなのか、家中を好き勝手走り回るものだから、それはもう地獄の惨劇状態だ。あちこちにお菓子の食べカスが散らばり、マンガやおもちゃが散乱する。
 以前なぞ、ゾロが部屋に戻ったら、ベッドで見知らぬ少女が眠り込んでいたことまであった。それからというものの、ゾロはルフィの友達が来た後は、ベッドに誰か潜んでいないかどうか、確認するのがクセになってしまった。
 そんな、天災のような一次会が夕方まであって、それから掃除を済ませると、ようやく終了。
 次の二次会はマキノを慰労する意味も込めて、一家揃っての外食となる。行きつけのちょっとリッチなフランス料理店である。
 これが、毎年恒例『5月5日の過ごし方』だった。
 しかし今年は少しだけ違っていた。

 実はこの5月5日という日は、ゾロにとってもう一つ大きな意味を持つ日であったのだ。
 その日は朝も早くから起き出して、黒いスーツに身を包んだゾロは、一人で特急列車に乗り込んだ。「一緒に行けなくてごめんなさいね」と、申し訳なさそうに言うマキノに、ゾロは「俺の方こそ、今日は手伝えなくて悪ィ」と苦笑いで返した。
 5月5日は、大切な人の命日だった。
 ちょうど十年前のこの日。ゾロは実の母親を失ったのだ。
 病気がちで、線の細い女だった。少女のような面立ちのままの彼女を、ゾロは幼い頃からずっと守ってきた。母親だったのだけれど、何故か妹のようだった。
 その頃、ゾロは自分の父親が生きていることを知らなかったのだ。

 列車を乗り継いで約二時間の所に、母親の小さな墓地がある。通い慣れた道だったけれど、ここへ来るのはもう随分久しぶりのような気がする。
 今日はちょうど十年目にあたる日だから、どうしても挨拶しておきたかったのだ。
 近くの売店で御供えの花を買うと、ゾロは柄杓とバケツを借りて、目的の墓石へと向かった。
 そして、そこに見慣れた人物が佇んでいるのを見つけた。
 「・・・シャンクス」
 「おう、ゾロか」
 シャンクスはルフィとよく似た太陽みたいな笑顔で振り向く。
 ルフィと似ている、というのは当然だ。何故なら、彼らは血の繋がった親子なのだから。
 そしてゾロも、シャンクスの実の息子だった。
 「どうだよ、もう磨くトコがねェくらいピカピカだろうが!」
 捲くった袖口もスーツの膝も泥だらけにして、シャンクスは得意げに胸を張る。確かに、墓石は綺麗に磨き上げられ、鏡のように輝いていた。花も、すでに生けられてある。
 「さすがだな。あんたらしい趣味だ」
 ゾロは少し呆れた風に目を座らせて、嫌味を言う。
 その花というのが、御供えにはまるで向かないシロモノだったのだ。
 それは、真っ赤なバラの花束。
 まさか花屋も墓に供えるものだとは思っていなかったのだろう、たくさんのカスミ草にリボンはゴージャスな金色だ。
 普通、御供えの花は菊とか、そんなんだろう、と。ゾロは言いたくなったが、それはやめておいた。
 シャンクスは墓石を愛おしそうに撫でながら、目を細めて言う。
 「あいつはなぁ・・・バラの花、好きだったんだぜ。なんか、おれみてェだって、よ・・・この服も、あいつが一番似合うって言ってくれたモンなんだ」
 そう、嬉しそうに言うシャンクスの格好は、墓地とはまるで似つかわしくない、ワインレッドのスーツ。
 昔、ホストをしていたと聞いたが、その時の仕事着だったのだろう。
 「こうやってサ、バラの花を供えてやったらよ・・・おれがそばにいるみてェで、あいつも喜ぶだろ?」
 にしゃっと笑って見せたその顔は、まるで子供みたいに無邪気で、ゾロは「そうだな」と微笑んで返した。

 墓石の前に屈んで手を合わせるゾロを見つめながら、シャンクスは独り言のように喋る。
 「あいつ、妖精みてェに小さくって綺麗でなぁ・・・そのクセとんでもねェ天然ボケで。さすがのおれもヒヤヒヤさせられっぱなしだったぜェ。そんなあいつがおれの子を孕んじまったってんだから、おれぁもう天地が引っ繰り返ろうかってェ驚きようだ。あいつとおれの息子だってんだから、さぞかし玉のような美少年かと思ったらよぉ・・・」
 「悪かったな、目付きの悪いおっかねェガキでよ」
 横でペラペラと捲くし立てられては、祈りに集中できやしない。ゾロは立ち上がるとシャンクスをジト目で見返した。
 そんなゾロの威嚇にも全く怯むことなく、それどころか肩に腕を回して抱き付いてくる。
 「はっはっは!それでもおれの自慢の息子だ!」
 「テメ・・・酒クセェ!ここで飲みやがったのかよ!?」
 漂って来るアルコール臭さに、ゾロは思わずシャンクスを引っぺがした。チラリとそばのくずかごに目をやると、ワンカップ●関の空き瓶がいくつも転がっている。
 「あいつァ辛気臭ェのは嫌いだ!楽しくやろうぜ!」
 「アホか!時と場所を考えろ!!」
 我が子に叱られるのを笑ってやりすごして、まだバッグに隠し持っていた瓶をゾロに差し出すと、シャンクスはもう一杯を一気に煽った。

 ゾロは十年前、急に目の前に現れた父親を、「はいそうですか」とは認められなかった。
 当たり前だ。自分達を、一度捨てた男なのだから。
 実際には、シャンクスはゾロの存在を知らなかったのだということを、もう少し後になってから知ることになるのだが。
 床に伏せった母親が、それでも嬉しそうにシャンクスの話をするたび、本当は内心苛立って仕方がなかったのだ。

 そんなゾロの頑なな心を溶かしてくれたのは、ルフィという存在だった。



 「ゾロォ・・・もう寝ようぜェ・・・」
 我慢できなくなって先に眠ってしまいそうになったのか、ルフィが大きなあくびをしながらゾロに話し掛けて来る。
 ゾロのレポートも、すでに校正にまで入ったところだったから、とりあえず続きは明日に回す事にして、パソコンの電源を落とした。
 クローゼットを開けてパジャマに着替え始めたゾロを、ルフィはベッドに横になったまま眺める。
 そして、少し言い出しにくそうに、言葉を紡いだ。
 「ゾロさぁ・・・今日、母ちゃんの死んだ日だったんだな」
 ゾロは、意外なルフィの台詞に、思わずシャツを脱ぐ手を止める。
 折角のルフィのめでたい日に、余計なことを考えさせたくなかったから、今までずっと黙っていた事実だった。
 ゾロがこっちを見ているのを黄色いひよこごしに覗き見て、ルフィは申し訳なさそうに続ける。
 「今日サ・・・朝から、ゾロ居なくって・・・おれスゲェ怒ったんだ。おれの大事な日なのに、ほっといてどっか行っちまったって・・・」
 「そう、か・・・悪かった」
 「違う!おれ、もう怒ってなんかねェぞ!マキノに聞いたんだ、ゾロは母ちゃんの墓参りに行ったんだって」
 おれ、知らなかったんだ、ゴメン。
 らしくなく、そんな風に謝るルフィに、ゾロは着替えの手を再開した。
 なるほど、墓参りから帰ってきて以来、ルフィの様子が少し変だったのはこのせいだったのか。
 「俺の方こそ、黙って行ったりしてゴメンな?」
 くしゃくしゃっと頭を撫でてやると、ルフィはもういつもの高飛車な我侭坊主に戻って、「おう、許してやる!」なんて言ってくる。
 「ほら、そっち寄れよ」とゾロも布団に潜り込むと、ルフィはすかさずゾロの胸に入り込んできた。
 幼い頃から変わらない。ルフィはゾロとこうやって眠るのがとても好きで、たまにこうして部屋に転がり込んで来ては、ここがおれの特等席だと言わんばかりに抱き付いてくるのだ。
 この態勢に入ると、速攻で眠りに就いてしまうルフィに、ゾロは正直寝心地は良くなかった。が、一旦睡魔が襲ってくると、夢も見ないほど朝までぐっすり眠れてしまうのが不思議だった。

 蛍光灯のリモコンを押すと、部屋は闇に包まれる。
 腕の中のルフィが、少し身じろいだ。
 「ゾロさ・・・母ちゃん居なくて、寂しいだろ?おれが、慰めてやるから、もう・・・寝て良いぞ?」
 ゾロの肩口に額を擦りつけて、ルフィは今にも寝てしまいそうな頼りない声で、そんなことを言う。
 ルフィなりの、精一杯の優しさが、ゾロには酷く心地良かった。
 思わず、ちょっと自分のことを話して聞かせてやろうか、などと思ってしまうほど・・・

 ・・・最初、赤ん坊のお前を抱いた時な・・・スゲェ柔らかくて小さくて、ちょっと強く握ったら壊れちまいそうだった。頼りなくて・・・俺が護らなきゃって思ったんだ。
 俺は、本当のお袋をずっと護ってきたから・・・お袋が突然逝っちまって、俺は存在意義を失っちまった。
 そんな時にな、お前を弟だって紹介されて・・・今まで俺達を放ってやがったクセに何言ってやがんだ、って思ったんだけどよ。お前がいてくれたから、今の俺が在るんだ。
 ああ、シャンクスが言ってたな。ルフィはお袋の生まれ変わりなんだ、って。
 俺も、最初はそうかって思ったけど・・・やっぱり違うな。
 お前はお袋よかよっぽど手がかかるし、我侭だし、うるせェし、やんちゃだし・・・・・・・・・って、ルフィ?もう寝ちまったか?

 ゾロは自分のすぐそばで規則正しい寝息が刻まれているのを確かめると、フッと表情を和らげた。
 そして、白い額におやすみのキスを落としてやる。

 「ルフィ・・・この世界に生まれてきてくれて、ありがとう」

 布団を肩口まで掛け直して、ゾロも平安のままに目を閉じた。




 
以前掲示板でポロリと漏らした通り、
『十歳差ルゾロシリーズ』(今回は九歳差ですが(笑))でのルフィ誕SSです。
 が、なんかゾロのための話みたいになっちゃいましたね〜〜(笑)
 これでゾロとルフィの家族構成も繋がりもハッキリさせられたし、
ちょっと説明臭いですが、まぁこんなモンかな、と(苦笑)
 つか、前作にも増して、「コレってゾロル?(汗)」みたいな・・・
 ルフィに男の本能が目覚めない限り、
このスタンスは変わらないだろうと思いますが・・・さて・・・(オイ)
 お約束ですが、二人の父親は赤髪さんです。
 ルフィはともかく、ゾロの実の父親ってのは珍しいかな?
イメージとしては、兄弟みたいな親子って感じですね。
 つか、この分でいくと、シャンクスは一体いくつの時にゾロの母親を孕ませたんでしょうか?(汗)

 とりあえず、また気が向いたときにこのシリーズは続きます。