ジリジリ照り付ける太陽が頭にまでガンガン響くような。
 その日はとびきりの晴天だった。
 太陽と地面との間に、一筋の雲さえもないかのようだ。空は深すぎるほどに青くて、遠いはずの太陽がとても近くに感じる。
 表に居たら熱射病になりそうだと、仲間達は皆ラウンジに引っ込んで涼を取っている。
 それでも、ルフィだけはお気に入りの船首の上から下りることもせず、どこまでも青い水平線を見つめていた。
 露出した腕や脚が日差しに焼けて、煙でも上がりそうな勢いだ。
 暑いなぁ・・・と思いつつも、何故かその場を動きたくなかった。
 青い世界に身を置くことが好きだからだろう、と。
 多分そうだと、ルフィは思った。

 ふと、後ろで階段を上ってくる足音がして、ルフィの意識がそちらに向く。
 「ルフィ、どうだ?海水浴でもするか?」
 ゾロだ。
 声を掛けられる前から、気配で判っていた。
 振り返ると、肩に浮き輪を担いでこちらに笑いかけているゾロと目が合った。
 一緒に海に入って泳がせてやる、と言われているのだ。
 時々、ゾロはこんな風にルフィを海に誘ってくれる。泳げない自分を引っぱって、一緒に波に揺れる心地よさを教えてくれたのが、ゾロだ。
 願ってもない提案に、ルフィは一も二もなく頷いた。

 上着とジーンズを脱いでしまってトランクス一枚になると、浮き輪を抱えてさっさと海へダイブする。後からゾロが追いかけて来ることが分かっているからこそ、の行動だ。
 ゾロは上がる時のための縄梯子を取り付けて、準備が整ったところで続いて海に入る。
 海水は生温かく、焼けた肌に染みるようだ。けれどそのヒリヒリとした刺激が逆に気持ち良かった。
 「えあ〜〜」
 ルフィが気の抜けた声を上げて、浮き輪に縋りつく。まるで生気を吸い取られるかのように、力が抜けていくのだ。悪魔の実の、これが副作用だ。
 今のルフィにとっては、浮き輪と、支えてくれるゾロの腕が、命綱だった。
 それは、この世で最も安全で信頼できるものだと解っているから、ルフィは嬉しそうにニシャっと笑う。
 「すげェイイ気分・・・」
 「・・・そうかよ」
 満足そうなルフィの笑みに、ゾロの表情も自然と綻ぶ。
 ルフィがこうして海に入りたがるのを、ゾロはとある事件を切欠に知ることになったのだ。

 それは、今日と同じようによく晴れた日の午後のこと。
 いつも通り船首に座って海を見つめていたルフィが、不意に・・・落ちた。海へ、だ。
 その時、たまたまゾロがそばに居て、すぐに助けに飛び込んだから事無きを得たのだけれど、ナミは大層怒ってルフィを叱り付けた。
 ルフィは落ちたことに関して、言い訳も弁解もしなかったけれど、呆れて仲間達が散ってしまった後で、ポロリとこぼしたのだ。
 「海から船を見たら、どんなだろうなって、思ったんだ。そうしたら、確かめないとって気になって、気付いたら落ちてた」
 そばに残っていたゾロだけが、それを聞いた。おそらく、そんな理由ではナミの怒りが収まらないことを、ルフィは知っていたからだ。
 そして、まるで反省も後悔もしていないかのように、嬉しそうに続ける。
 「すげェ、な・・・キレイだった。水面がユラユラしてサ。なんであんな模様になるんだろうな?」
 海の底みたいな蒼の瞳をキラキラ輝かせて、ルフィは感動を伝えてくる。
 水を大量に飲んで危うく死にかけたことなど、もう忘れているようだ。
 それを見て、ゾロは思った。
 ああ・・・コイツは、また海に落ちるな・・・と。
 海に嫌われたこの男は、それでも海を追い求めずにはいられないのだ。
 ゾロは幸せそうなルフィの笑顔だけは崩したくなくて、「そうか」と言って頭を撫でてやった。

 海に入りたくなったら、いつでも俺に言えばいい。
 でも、もしその無意識の衝動に気付く前に落ちそうになったら。
 俺が、お前を誘ってやる。


 「なんでゾロはおれが考えてること、解るんだ?」
 プカプカと波に揺られながら、少し唐突にルフィが問うた。
 ゾロは真っ直ぐに見つめてくるルフィの瞳に肩を竦めて、困ったような苦笑いを返す。 
 「別に解っちゃいねェよ」
 「そんなことない。いつもサ・・・ゾロだけはおれの思ってること、解ってくれてるって気がするんだ」
 ルフィの言うそれは、真実と勘違いが入り混じっていると、ゾロは思った。
 自分はルフィの頭の中まで全て理解しているわけではない。ルフィが時折漏らす『言葉』を、一つとして取り零すことなく、記憶しているだけだ。
 その『言葉』は、ルフィの『考え』そのものなのだ。彼の意思を知る、『鍵』だ。
 ルフィの口から出る言葉には、嘘や誇張などというものは含まれてはいない。
 全てが、『本気』で、『真実』なのだ。
 それに気付くか気付かないか・・・
 それが、自分と他の人間との、決定的な違いなのだと理解した。
 けれど、それをルフィに上手く伝えるすべを、ゾロは知らない。
 「お前は・・・」
 ゾロが、かなりの間を置いた後ようやく口を開いた。
 「俺と、初めて会った時のことを覚えているか?」
 二人が初めて出会った、あの海軍基地の町でのこと、だ。
 ゾロは、あの日の出来事を今でも鮮明に記憶している。
 この男が言った言葉、一字一句違えず復唱できるほどに。
 ゾロの質問はこの話の流れから行くと、かなり唐突なものだったけれど、ルフィはそれに対して何の疑問も抱かずにニッコリと笑う。
 「ああ。飛んでた雲の数まで覚えてるぞ」
 その答えに、ゾロも目を伏せて笑った。
 「・・・俺もだ」
 それが、『答え』だった。
 二人の想いが同じだと分かって、ゾロは素直にそれが嬉しいと思う。
 自分達の繋がりは、それでいいのだ。
 ルフィも、きっと解ったのだろう。
 嬉しそうに「にしし」と笑うだけで、後はもう何も言わなかった。


 海は穏やかで、何処までも青い。




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5万キリリク、コミックス31巻発売記念も兼ねてのSSでした。
「お子様でも安心なルゾロ」って・・・要はエッチなしの健全ってだけじゃんかアタシ!
しかも行間を読むタイプのお話だから、むしろお子様にはご理解戴けないかも!?
珍しい恋人未満設定ですが、それよかよっぽどラブいのは何故だろう(爆)
JUMP誌上で295話を見た当時
ゾロの「あんた、ルフィの言ったこと一字一句全部覚えてんじゃないの!?」疑惑に
喜び勇んで書いたものです。補完して今回アップしてみました。

ルフィの最後の台詞は『ブリーチ』のやちるより(笑)
この台詞に、アタシは泣きました・・・
勝手にルゾロで再利用しちゃってスミマセン(汗)
ここで、懺悔しておきます。
くるみんちゃん・・・こんなのでゴメンね〜〜



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